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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その198 ~追悼セルジオ・メンデス ブラジル音楽の至宝逝く PARTⅡ~

2024-09-30

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

奇跡のミュージシャン、セルジオ・メンデス

前回の鍵盤狂漂流記は9月6日に亡くなった偉大な音楽家、セルジオ・メンデスのお話を書かせてもらいました。亡くなる直前まで精力的に音楽制作、演奏活動に向き合った稀有なミュージシャンでした。83歳という高齢まで音楽を共にできたというのは彼が音楽を愛していた証であり、その音楽を長く聴くことができた私達も幸福であったと思わずにはいられません。
ミュージシャンといえばドラッグや酒などに溺れ、自らの命を縮める人が多い中、セルジオ・メンデスからはそういった話も聞こえてきません。きっと音楽に邁進していたのでしょう。それでなければ80歳を超えてまでの音楽活動、海外ツアーなどはできる筈がないからです。そういう意味でもセルジオは奇跡のミュージシャンだったのです。

セルジオ・メンデスの衝撃

私がセルジオ・メンデスを意識したのは1984年のアルバム「愛をもう一度」からでした。当時はAORの隆盛期でそちら側の音楽を聴いていた私は、渋谷のタワーレコードでこのアルバムをジャケ買いしました。何かイイ感じがするアルバム・・・という印象でした。そしてアルバム中の1曲、フェンダーローズピアノのイントロら始まる「愛をもう一度(原題:Never gonna let you go)」を聴いた時は衝撃が走りました。

■ 推薦アルバム:セルジオ・メンデス『愛をもう一度』(1983年)

1983年、セルジオ・メンデスが当時トレンドだったAORを意識して制作したアルバム。シングルカットされた「愛をもう一度」が全米シングルチャート4位、アダルドコンテンポラリー部門でも1位を獲得する。アルバムへのアプローチとしてセルジオはプロデューサーに徹している。
赤い唐辛子と青空、クラッシックカーに乗ったセルジオの写真。タイトルに描かれたセルジオ・メンデスの文字は車の横にシンボリックに飾れた赤い唐辛子の色をひろった同色で書かれていた。
私は何故かそのアートワークに惹かれ購入。まさにジャケ買いの典型だった。
セルジオ・メンデス歴史的名曲となったバラード「愛をもう一度」はこのアルバムにクレジットされていた。

推薦曲:「愛をもう一度」

全米4位まで駆け上がったバラードの大名曲。作家はスーパーヒットメイカーのバリー・マンとその妻のシンシア・ワイル。この二人のライティングチームにハズレはない。もともとこの「愛をもう一度」はアース・ウインド&ファイアーに提供する予定だったというのは有名な話。アース・ウインド&ファイアーと言えば、バラードの名曲である「アフター・ラブ・ハズ・ゴーン」が思い浮かぶが、アースがこの曲を取り上げていたのなら全米ヒットチャート上位は間違いなかっただろう。セルジオは「愛をもう一度」をアルバムのアクセントにと考えていたようだが想定外の大ヒットとなった。
この楽曲の白眉は転調を繰り返す楽曲構成にある。美しいメロディラインと転調、それを歌う男性ボーカリスト、ジョー・ピズーロと女性ボーカリストのリザ・ミラー。2人の交互に交わるボーカルの表現力に脱帽する。印象に残るサビのメロディラインも秀逸。フェンダーローズピアノの美しい音色と素晴らしイントロ、そして中間部のシンセサイザーによるギターを模したシンセソロ。プレイしているのはAORバンドとして名を馳せたマクサスのキーボーディスト、ロビー・ブキャナンだ。

セルジオ・メンデスもう1つの顔

セルジオ・メンデスにはプロデューサーとしての顔の他にもう1つの顔を持ち合わせています。それはピアニストという演奏者としての顔です。
セルジオ・メンデスはジャズピアニストとしても非常に優秀なプレイヤーです。自らのバンドを率いていつものサンバ的な音楽とはまた異なる分野での演奏をし、ジャズミュージシャンをサポートしています。

■ 推薦アルバム:キャノンボール・アダレイ『キャノンボールのボサノバ』(1962年)

アルトサックスの名手、キャノンボール・アダレイがブラジルのボサ・リオ・セクステットと共演したボサノバアルバムの名盤であり、ジャズ・ボッサの最高傑作。
このバンドを指揮するのはピアニストのセルジオ・メンデス。
キャノンボール・アダレイはマイルス・デイビスと共演するなど、ハードバップ・ジャスの最前線を走っていたアルトサックス・プレイヤー。キャノンボールがボサノバを?と思う方もいるかもしれないが、キャノンボールは流暢でメロディアスでリリカルなメロディラインを得意とする演奏家だ。このアルバムではそんなキャノンボールの特徴がボサノバというジャンルと見事に融合した内容になっている。時はボサノバ・ブームが巻き起こっていた1962年。レコード会社からの提案かどうかは分からないが、時流にピタリとはまるアルバムとなった。
セルジオ・メンデスのピアノプレイがふんだんに聴け、そのプレイはジャスのメソッドを意識していることがバッキングやアドリブから窺える。
サンバを大胆に取り入れ、派手に展開するいつものセルジオ・メンデスとは異なり、抑制された演奏の中にピアニストとしての矜持を垣間見ることができる。
夏の暑い日にはうってつけのアルバムだ。

推薦曲:「Clouds」

セルジオ・メンデスの抑制されたピアノのイントロから幕を開ける。キャノンボール・アダレイがテーマを奏でる。ボサノバジャズのある種の典型だ。キャノンボールのアドリブは流暢でスタン・ゲッツとはまた違った味わいがある。
セルジオ・メンデスのソロはポイント、ポイントでタメを効かせたジャジーなアドリブ。バッキングは通常のコートバッキングに加え、分散和音を多用した演奏を展開している。そのフレーズの根幹には間違いなくジャズのメソッドが存在している。

推薦曲:「Corcovado」

アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲。こういう楽曲を吹かせればキャノンボールの独断場だ。ジョビンのメロディラインの美しさを表現できる才能は特質に値する。
セルジオ・メンデスのピアノソロもどちらかと言えば早弾き?タイプのキャノンボールに対し、多くを語らずディミニッシュコードの音列を意識したメロディの展開をしている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:セルジオ・メンデス、キャノンボール・アダレイなど
  • アルバム:『愛をもう一度』『キャノンボールのボサノバ』
  • 推薦曲:「愛をもう一度」「Clouds」「Corcovado」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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