ボサノバジャズパートⅢ
ボサノバジャズをテーマに取り上げた前回に続いて、お薦めの「ボサノバを切り口にしたジャズ」を取り上げるボサノバジャズパートⅢです。
ボサノバジャズ名曲を聴く方法
ボサノバという音楽に強く影響を受けたジャズミュージシャンがジャズというイディオムを元にボサノバの要素を取り入れた音楽がボサノバジャズと言っていいと思います。
ボサノバの世界的な大ブレイクはアルバム「ゲッツ=ジルベルト」(1964年)辺りからなので、60年代前半はボサノバという音楽が世界を席巻していた時代です。
この60年代からアメリカのジャズマン達がボサノバに興味を示します。ブームというキーワードはレコードの売り上げにも直結します。当然、レコード会社もジャズミュージシャン達もボサノバという金の成る木を放っておく筈がありません。実際にボサノバジャズはこの時期に玉石混淆でリリースされています。
前回、ご紹介したコンピレーション盤を紹介するのを忘れていた為、その情報をお伝えします。このアルバムは玉石混淆ではなく玉ばかりです。
アルバム名は「Jazz Inspiration:Bossa Nova Jazz」。渋谷のCDショップで900円程 で購入しました。最初は期待していませんでしたが、楽曲のラインナップがとてもよかったのでここにご紹介します。
■ 推薦アルバム:バリアスアーティスト『Jazz Inspiration:Bossa Nova Jazz』(2011年)

リオデジャネイロの海岸をジャケットにしたボサノバジャズのコンピレーションアルバム。コンピと言えば今一つというイメージがあるが、このアルバムの内容はとても充実したものと言える。
推薦曲:ローリンド・アルメイダ「イパネマの娘」
名曲「イパネマの娘」をブラジル人ギタリスト、ローリンド・アルメイダがカバー。ギタリストのアルバムであるのにメロディをとるのは口笛という非常にユニークなアプローチ。サビからギターがメロディをとる。テーマの後のAメロアドリブパートはフルートと口笛の掛合いで展開する。フルートのアドリブソロは秀逸。
以前にも書いたが、「イパネマの娘」という楽曲でサビ部分のアドリブソロを殆ど聴いたことが無い。どうしてかは分からないが、多分、このおかしなコード進行でのアドリブソロがプレイヤーにとってやりにくいものではないかと想像する。
アルバム『ゲッツ=ジルベルト』でのスタン・ゲッツのような流麗なソロが難しいのであろう。このトラックもアルメイダがギターでアドリブをプレイすると思いきや、サビのメロディを弾いていて、その例外ではない。
■ 推薦アルバム:ハンク・モブレー『ディッピン』(1966年)

ハンク・モブレーは1930年生まれのテナー・サックス奏者。ドラマーのアート・ブレイキーやピアニストのホレス・シルバら著名ジャズマンとの共演歴があり、1961年にはマイルス・デイビスのスターサックス奏者であるジョン・コルトレーンの後釜として、同バンドのアルバム『いつか王子様が』に参加している。
アルバム『ディッピン』は1966年にリリースされたハンク・モブレーの名盤。
メンバーはハンク・モブレー (ts) リー・モーガン (tp) ハルロド・メイバーンjr. (Pf) ラリー・リドリー (B) ビリー・ヒギンズ (dr)。
推薦曲:「リカード・ボサノバ」
イージー・ゴーメのヒット曲で知られる、「リカード・ボサノバ」。別タイトルは「ギフト」。この曲もボサノバジャズの名曲として知られている。
ハルロド・メイバーンjr.のピアノバッキングからテーマメロディが始まる。リズムは4ビートとは異なるラテンビートだ。
ハンク・モブレーの美しい音階をもったアドリブが印象的でスタン・ゲッツのような滑らかさはないが数回聴けば覚えてしまう程のメロディラインだ。
このトラックで素晴らしいのはなんといってもリー・モーガンによるトランペットソロ。メイバーンのピアノもいいが、モーガンのグルービーなトランペットソロが秀逸。ドライブしまくり…ジャスにドライブというという表現は適切でないかもしれないが、あえてドライブという言葉を使いたくなるほどの押しの強いソロだ。
哀愁を帯びたメロディが乗るコード進行なのだが、サウダージ感のあるメロディが出てきたかと思うと、トランペット特有のブローに加え、そこに粗野ではあるがとめどなく溢れるジャズマンのパッションを感じるメロディが重なる。最高レベルのソロを是非聴いて欲しい!
■ 推薦アルバム:ヨーロピアン・ジャズトリオ『黄昏のサウダージ』(2007年)

1984年にオランダで結成されたピアノトリオ。3人が奏でる音楽は哀愁の中に品の良さを感じる。イントロの微妙なニュアンス、音列、構成、メロディフックの作り方など、多くの工夫が見られる。また、ピアニストであるマーク・ヴァン・ローンの音色とセンスの良さも光る。このアルバムはアントニオ・カルロス・ジョビン生誕80年のトリビュート盤として制作された。
ボサノバの重要曲がピアノトリオで聴けるアルバムでアントニオ・カルロス・ジョビンの6曲、ルイス・ボンファの2曲やマイケル・フランクス、ポール・マッカートニーの曲も取り上げている。聴きどころはジョビンの重要曲だ。
推薦曲:「想いあふれて(シェガ・ジ・サウダージ)」
マーク・ヴァン・ローンのピアノが美しく響くジョビンの名曲。シェガ・ジ・サウダージの冒頭はあのイントロではなく、リリカルなデザインされたイントロが提示される。
この辺りはヨーロピアン・ジャズトリオの真骨頂だ。
楽曲の幾つかの部分でキメのメロディをフェイクしたり、本来はない休符を入れたりとEJT印のアレンジが光る。この工夫がジョビンの音楽を新たな局面に導いてくれる。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ローリンド・アルメイダ、ハンク・モブレー、リー・モーガン、ヨーロピアン・ジャズトリオなど
- アルバム:「Jazz Inspiration:Bossa Nova Jazz」「ディッピン」「黄昏のサウダージ」
- 曲名:「イパネマの娘」「リカード・ボサノバ」「シェガ・ジ・サウダージ」
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