ベースの弦といえば、一般的なラウンドワウンド弦のほか、暖かみのあるサウンドが魅力のフラットワウンド弦が有名です。
しかし、ベースの弦の種類はそれだけではありません。目にする機会は少ないですが「ブラックナイロン弦」というジャンルも存在しています。ブラックナイロン弦とは、金属の芯に黒いナイロンをコーティングしたものです。フラットワウンド弦よりもさらに暖かみのあるサウンドを楽しめます。

ブラックナイロン弦の太くて甘いサウンドはウッドベース的と表現されることもありますが、実際の使用感からすると、ウッドベースは言い過ぎ。感覚的にはカニとカニカマくらいの違いがあります(どちらがよいという話ではなく、それぞれに魅力があるという意味です)。違いはあるものの、方向性は似ているため、暖かみのあるサウンドが欲しい方には試してみる価値があるでしょう。一方、現代的なベースサウンドが好きな方にはまったくもって不向きな弦といえるかもしれません。
ブラックナイロン弦は、ビートルズ時代のポール・マッカートニーが使用していたことでも有名です。Get BackのMVで有名なルーフトップコンサートでもポール・マッカートニーがブラックナイロン弦を張ったヘフナーのバイオリンベースを演奏している姿を見ることができます。マイナーなブラックナイロン弦が現在も製造・販売を続けられているのは、ルーフトップコンサートの影響もあるのかもしれません。ポール・マッカートニーファンのベーシストであれば、一度は試してみたいと考えるでしょうから。
気になるお値段ですが、ベース弦としては比較的リーズナブル。2024年6月現在、ブラックナイロン弦はラベラ、ダダリオ、フェンダーがリリースしていますが、最もお求めになりやすいフェンダーの製品であれば4,000円台で入手可能です。さらに、弦の表面がナイロンで覆われているため、弦が劣化しにくいこともポイント。長期間使用できることを考えれば、コストパフォーマンスはかなり高いと言えます。
DADDARIO ( ダダリオ ) / ETB92 ブラックナイロン Tapewound Bass Medium 50-105
La Bella ( ラベラ ) / 750N Black Nylon Tape Light 50-105 ベース弦
弦が黒いという見た目の特徴的なポイント。かなりのインパクトがあります。ただし、サウンドの特徴があり過ぎるため、見た目の効果だけで購入するのはおすすめできません。見た目のインパクトだけを求める方は、DRのブラックビューティーなどを購入した方が満足できるはずです。
続いては、ブラックナイロン弦が気になった方に向けて、弾き心地について紹介していきます。私はFenderのブラックナイロン弦(9120 Nylon Tapewound Bass Strings)を愛用しており、その感覚のレポートです。
FENDER ( フェンダー ) / 9120 Nylon Tapewound Bass Strings
まず、触り心地はかなり硬め。左手はプラスチックの棒を触っているような感覚です。ナイロンという名前から柔らかい触り心地を想像していましたが、想像とは全く異なっていました。ラウンドワウンド弦よりも触り心地は硬く感じます。一方、弦のテンションは低く、押さえやすいことも特徴。弦は硬いけれど押さえやすいという不思議な演奏感です。弦表面の摩擦が低く、滑りが非常に良いことも特徴。グリッサンドを多用する方には使いやすく感じるかもしれません。
一方で指弾きしている右手の感覚はいつも通り。特に違和感はありません。とはいえ、これは個人的な感覚です。
ブラックナイロン弦は暖かみのあるサウンドが特徴のため、指弾きがメインと思われるかもしれませんが、ピックで演奏しても問題ありません。ブラックナイロン弦+ピックのサウンドは独特で、それはそれで気に入っています。ピックでナイロンが傷つかないか気になる方もいるかもしれませんが、ピックの影響でナイロンがダメージを受けたことは今のところありません。
ナイロン弦ということで、ユルユルの弾き心地を想像する方もいるかもしれませんが、芯には金属が通っており、それなりの張りもあります。ラウンドワウンドと比較するとテンションは低めといった程度です。
ここまではブラックナイロン弦の魅力について紹介しましたが、最後にブラックナイロン弦の購入を考える際に注意しておきたいポイントについて説明します。
ひとつ目は弦の太さ。Fenderのブラックナイロン弦のゲージは058、072、092、110です。かなり太めなので、ナットに通るかをチェックしておいた方が良いでしょう。また、弦の根本部分はさらに太いため、ブリッジの穴や溝を通らない可能性があることも留意しておくべきポイントです。
弦の表面がナイロンでコーティングされているため、弦アースが取れないことも意識しておく必要があります。ノイズを拾いやすいベースであれば、避けた方が無難かもしれません。
以上がブラックナイロン弦の紹介でした。繰り返しになりますが、暖かみのあるサウンドが欲しい方にとってはサウンド的にもお値段的にも魅力的な弦です。気になった方は、ぜひ一度トライしてみてください。
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