歪みエフェクター学第二講です。
前回第一講ではTube Screamerを源流とするTS系のご紹介でした。
まだ読まれていない方は、そちらも良ければ読んで行ってください。
さて、今回ご紹介するのはトランスペアレント系です。
聞き馴染みのない言葉である、トランスペアレントってなんぞ?ってことで、辞書で引いてみると、次のように出てきました。
トランスペアレント transparent
透けているさま。透明なさま。「―なネットワーク環境」
つまるところ、透明系ということになります。
トランスペアレント系(主にオーバードライブ)に分類される歪みエフェクターの特徴は以下の通りです。
- 歪みのキャラクター感が薄い
- アンプやギターの音を変えず、音抜けの良さや輪郭感を良くする作用を持つ
- ローゲインセッティングが主であることが多いため、バッキングやネオソウル系の甘いリードトーンに用いられる
要するに、存在感は薄いくせに、音の存在感をぐっと押し出してくれるペダルなのです。
では、トランスペアレント系オーバードライブの源流はなんなのでしょうか。
それは間違いなく、Paul Cochrane – Timmy Overdriveです。
Paul Cochrane – Timmy Overdrive
知っている人は知っているかと思います。
Paul Cochrane氏が、自作のTIMというエフェクターの簡略版として製作したエフェクターです。
このTimmyにはBass、Trebleを調節するつまみがついているのですが、我々のよく知るツマミとは逆方向に作用します。
どういうこと?と思われるかもしれませんが、文字通り逆方向なのです。
時計回りに回すほど、BassやTrebleがカットされていきます。
初めて触る時にはこの仕様にびっくりするかもしれませんが、それはTimmyのV1、V2の二世代の仕様で、最終版のV3、MXRとコラボして現行販売されているCSP027 Timmy Overdrive(のちほど紹介します)では大抵のエフェクターと同じで時計回りに回すとブーストされてゆく設計になっています。
その2バンドEQはGAIN回路の後段に配置されているので、歪み量を増やしても極端に変化しないような設計になっているようです。
とにかく透明性を実現するためのEQ設計、ということなのでしょう。
さて、そんなTimmyをはじめとするトランスペアレント系オーバードライブもなんだかんだ各社から発売され、各社それぞれの「トランスペアレント」の解釈が伺えます。
そういった部分に関しては、TS系と同じですね。しかしながら音に関して、TS系のミドルブーストのような癖がなく、あくまでも原音に忠実なのが特徴。
ここからはいくつか、トランスペアレント系オーバードライブをご紹介していきます。
VEMURAM - Jan Ray (VEMURAM公式サイト)
トランスペアレント系オーバードライブを語るうえで絶対に外せない存在、Jan Rayです。
発売当初にセッションギタリストとして名高いマイケル・ランドウのエフェクターボードに組み込まれたことで話題となりました。
実はVEMURAMは国産エフェクターブランドで、東京に拠点を構えていることはご存じですか?
国産でありながら、海外ギタリストを層として狙っているようで、公式サイトは英語で用意されています。
実際に海外ギタリストからの人気は高く、高評価を得ているブランドです。
さて、そんなVEMURAMが販売するJan Rayですが、音のモデルとなったのは60年代のFenderアンプ、通称ブラックフェイス(または黒パネ)の有名なセッティング、Magic 6のようです。
Magic 6とは、Volume 6、Treble 6、Middle 3、Bass 2(6, 6, 3x2=6)のセッティングのことを指します。クリーンとクランチの間のような太いクリーンサウンドを堪能できる、魔法のセッティングとして当時流行しました。
その極上サウンドを軸に、歪み感を加えたのがJan Rayというわけです。
トランスペアレント系でありながら、知っている人は「Jan Rayの音だ」と評せてしまう、クセのない特徴的なサウンドです。
正直、個人的にはローゲインで右に出るペダルは存在しないと思います。私は大好きです。高いけど。(おおよそ44,000円)
Gain、Treble、Bassのどれをどの位置に設定しても使える音が鳴ってしまうため、セッティングに非常に悩めます。悩んでしまうのではなく、悩めてしまうのです。
付属ドライバーで調節できるサチュレーショントリマーで倍音感を調整でき、ジャッキジャキのエッジの効いた尖ったサウンドから、メロウな温かいサウンドを作ることもできます。
薬物みたいなペダルです。一生こいつでローゲインバッキング、クリーン寄りのリードをしていたくなります。無人島に一つ持っていくならこいつです。
いつになったらサウンドハウスで取り扱ってくれるんだ〜〜〜!!!!と、歯痒く思っています。
JHS Pedals - Morning Glory (JHS Pedals公式サイト)
またサウンドハウスに取り扱いないやつじゃん!!!とお怒りの皆様、大変申し訳ございません。ですがこのMorning Gloryもトランスペアレント系を語るうえで外せない存在なのです。
先ほど取り上げたJan Rayは、シングルコイルのギター、特にストラトキャスターと組み合わせた時に最高のポテンシャルを発揮し、これなしでは生きていけないと思えるほどに魅了してくれるのですが、ハムバッカーのギター、要するにレスポールと組み合わせた時は好みがはっきりと分かれます。
しかしながらこのMorning Gloryは両者に寄り添う音で、あまり歪ませずにレスポールを弾いても満足させてくれます。
Jan Rayと違ってEQコントロールがなく、TONE一個という仕様。なので、高域をシェイピングするだけという単純な操作しかできませんが、それで十分だと思わせてくれるサウンドです。
GAINスイッチで歪み量を底上げすることができるので、より幅広く使うことができます。真にこのペダルに魅入られたなら、GAINスイッチオンとオフの2台を用意してスイッチャーで切り替えて使う、なんてことをしてしまってもいいくらいに使い勝手の良いペダルです。
たくさん書き連ねましたが、音のモデルとなったのはMarshall Bluesbrakerのようです。
Bluesbreakerのサウンドは、完全に歪み切らないふくよかで豊かなもの。それをJHS Pedalsが目指し、時代に沿って改良を重ねてたどり着いたのがMorning Gloryです。
数種類のギターを使い分ける方、トランスペアレントなハイゲインが欲しいという方におすすめです。
MXR – CSP027 Timmy Overdrive
やっと登場しました。現行版ともいえるTimmyです。
オリジナルのTimmyのサウンドは継承しつつ、ダウンサイジングしつつもブラッシュアップしたのが当モデルです。
小型ながらも音はTimmyそのもの。本家大元を味わいたい方におすすめです。
なお、先述したように当モデルはEQを時計回りに回すとブーストされるので、使用感に戸惑うこともないかと思います。
ただこちらはTrebleは歪みの後段、Bassは歪みの前段で作用するようになっているみたいです。
前回の記事で紹介したTS Miniと組み合わせれば、音に妥協せずに極小ボードが組めちゃいますね。
結構な文量になってしまったので、ここからはわんこそばの勢いで紹介。
ELECTRO-HARMONIX – CRAYON
トランスペアレント系の中で最安です。ゲイン幅が広く、ローゲイン時のピッキングへの追従性は抜群。MCの間につまみを弄ればすごく化けます。ゲインはあえて低めにして、2バンドEQをメインにした音作りもしやすいのがいいところです。倍音が豊かなので、ブースターにすればほどよくギターを目立たせてくれます。
MAD PROFESSOR – Royal Blue Overdrive Factory
過去に一度紹介したことがありますね。Sweet Honey Overdrive で有名なMAD PROFESSORのトランスペアレント系です。なんとなく「青」からトランスペアレント感がします。こちらもゲイン幅は広いですが、ゲインを上げてゆくとミドルが強調されていくように感じます。Jan Rayと同じく2バンドEQの効き具合が絶妙なのでよりセッティングが楽にできます。
トランスペアレント系オーバードライブの紹介でした。キャラ感が薄いのが良いところであり、悪いところでもあります。だからこそ、メーカーごとにキャラ付けをしやすいのかもしれません。
探せばもっとあるでしょう。しかしながら、BOSS – BD-2 のTONEを絞ってみたり、ケンタ系のTONEを上げてゲインを下げて使えば、なんとなくトランスペアレント系な音がします。
既存のペダルでも代用しようと思えばできてしまいそうなのにここまで展開され流行しているトランスペアレント系。みなさんもおひとつ、いかがですか?
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