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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その152 ~伝説が続くキング・クリムゾンというバンド パートⅢ~

2023-09-29

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

傑作アルバム「クリムゾン・キングの宮殿」リリース後

大ヒットしたアルバムであり歴史的名盤といわれるファーストアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」。
次作であるセカンドアルバム制作のさなか、クリムゾンにバンド解散の危機が訪れます。
今回のテーマはキング・クリムゾンを襲った2つの困難から、セカンドアルバム「ポセイドンの目覚め」とキング・クリムゾンというバンドについて考えたいと思います。

キング・クリムゾンに影を落とすバンド解散危機

ファーストアルバムリリース後、クリムゾンの頭脳であったサックス、フルート、キーボード担当のイアン・マクドナルドと、ドラマーのマイケル・ジャイルスが新ユニット「マクドナルド&ジャイルス」結成のため、キング・クリムゾンを脱退。クリムゾンは重要メンバー2人を失うことになります。
それに加えボーカリストでありベーシストのグレッグ・レイクはナイズのスターキーボーディスト、キース・エマーソンと新しいバンドを画策し、エマーソン・レイク&パーマー(EL&P)というスーパーバンド結成に舵を切ります。

崩壊しかけているキング・クリムゾンのバンドリーダー、ロバート・フィリップはレコード会社との契約を果たすため、セカンドアルバムの制作に取り掛かる必要がありました。バンド存続とニューアルバム制作という2つの難題に立ち向かうロバート・フィリップのプレッシャーは想像を超えるものがあったと考えられます。
結果、クリムゾンのメンバーはリーダーでギタリストのロバート・フィリップと、詩を書くピート・シンフィールドの2人だけになります。しかも演奏できるのはフィリップ1人だけという過酷な状況でした。
そんな背景から出来上がったのがセカンドアルバム「ポセイドンの目覚め」です。

■ 推薦アルバム:キング・クリムゾン『ポセイドンの目覚め』(1970年)

ロバート・フィリップ以外、演奏者がいないという状況からメンバーを集めてリリースされたキング・クリムゾンのセカンドアルバム。
アルバム構成はファーストアルバムの焼き直し的要素が散見されるものの、2021年の来日公演でこのアルバムから演奏している楽曲も多数あり、フィリップの中ではそれなりの位置にあるアルバムと想像できる。
実際、アルバム冒頭や最後に配置された楽曲「ピース」は現在、キング・クリムゾンのライブでも歌われている。「冷たい街の情景」はフィリップがライブで好んで取り上げている楽曲だ。
新メンバーにはイアン・マクドナルドの後継者となるサックス、フルート奏者、メル・コリンズを据えた。メル・コリンズは現在のキング・クリムゾンに参加しているホーンプレイヤーでもある。
ドラマーは前作のマイケル・ジャイルスが叩き、ベースには弟のピーター・ジャイルスがサポートメンバーとして参加している。ファーストアルバムでベースを弾いたグレッグ・レイクはボーカルしかクレジットがない。これも新バンドEL&P結成の影響だろう。前回解説したメロトロンはフィリップが弾いている。ピアニストはジャズのフィールドからキース・ティペットが参加している。

推薦曲:「冷たい街の情景」

アルバム制作時間が限られる中、フィリップはレコード会社から“成功したファーストアルバムと同様なアルバムを”という命を受けていた可能性がある。この楽曲はファーストアルバム「21世紀のスキッツォイドマン」の作りを踏襲しているからだ。テーマや後半のユニゾンギメのフレーズ、ホーンセクションを中心にした楽曲展開や構成など「21世紀の~」を想起させる。
ロバート・フィリップは2021年の来日ライブでもこの楽曲を演奏。きっとお気に入りなのだろう。
「21世紀の~」程の難解なキメフレーズではないものの終盤のフレーズは高速ギターフレーズからキメに入るなど、二番煎じを排するフィリップの音楽家としての矜持を感じる。

推薦曲:「ケイデンスとカスケイド」

この楽曲もファーストアルバムの「風に語りて」とはネガとポジのような関係。「風に語りて」はフルートを中心にしているが「ケイデンスとカスケイド」はロバート・フィリップの弾くアコースティックギターが中心になっている。ボーカルはこの楽曲のみグレッグ・レイクではなくゴードン・ハスケルが歌っている。ここにもバンド崩壊の端緒が見える。とはいえ非常にキャッチーであり好感が持てる楽曲。
クリムゾンに新加入のジャズピアニスト、キース・ティペットのアコースティックピアノが美しい。メル・コリンズのフルートソロもイアン・マクドナルドの空席を埋めるにふさわしい演奏をしている。

推薦曲:「ポセイドンの目覚め」

ボーカリスト、グレッグ・レイクの表現力を生かした楽曲。メロディの美しさではクリムゾンの中でも上位に位置するものだ。英国人特有の暗さや屈折した想いを美しいメロディに乗せて歌わせたらグレッグの右に出る者はいないだろうし、当時の彼はそれを表現しうる能力を有していた。しかしそれはあくまでキング・クリムゾンでボーカルをとるグレッグ・レイクに限ったことだ。レイクはクリムゾンからEL&Pに移籍するがクリムゾンよりも思索的要素が薄いバンドのため、レイクのボーカルにクリムゾンの深みを見出すことができなかった。
後年、グレッグ・レイクがEL&Pのライブで「エピタフ」のサビを歌う演出があった。しかし音楽はコピーできてもキング・クリムゾンというバンドの精神性までの表現には至らず、随分滑稽に聴こえたものだ。EL&Pのグレッグ・レイクに「エピタフ」を歌ってほしくなかったというのがクリムゾンファンにとって正直なところだろう。

「ポセイドンの目覚め」や「エピタフ」「クリムゾン・キングの宮殿」といった楽曲にはリーダーであるロバート・フィリップやピート・シンフィールドの強固な精神性が宿っている。そのワン&オンリーなコンセプトやメロディラインはフィリップがクリムゾンというバンドにかけた魔法であり他のバンドにはないクリムゾンの特徴でもある。

推薦曲:「キャット・フード」

「キャットフード」という一種毛色の変わったクリムゾンの楽曲。
新加入のジャズピアニストであるキース・ティペットがピアノを弾き、アバンギャルドな新風を吹き込んでいる。
このキース・ティペットの存在が4thアルバム「アイランズ」で訪れるバンドの危機を救い、珠玉の楽曲が生まれる端緒になる。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ロバート・フィリップ、イアン・マクドナルド、グレッグ・レイク、メル・コリンズ、キース・ティペットなど
  • アルバム:『ポセイドンの目覚め』
  • 曲名:「冷たい街の情景」「ケイデンスとカスケイド」「ポセイドンの目覚め」「キャット・フード」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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