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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その145 名プロデューサーの名盤特集 パート8 ~トミー・リピューマとマイケル・フランクス編~

2023-07-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

音楽を聴くシチュエーションとして様々な要素が考えられますが、現在の私にとって一番の要素はリラクゼーションと自己セラピーがあげられます。

私の音楽キャリアはプログレシブロックを入口に、学生時代からのバンド活動を経て現在に至っています。日常的にCDトレイに乗せるのはラテン系のジャズアルバムとブラジル系のボサノバアルバムです。特に気温が上昇し、湿度が高い日本の夏には涼しいボサノバ系が一番です。
その他には電気系ジャズバンドで演奏しているスタンダードジャズやフュージョンのアルバムです。エリック・クラプトンと西海岸系の2つのロックバンドにも参加していますがロック系の音は家で聴くことはほとんどありません。あまりリラックスできないのがその理由です。

長い間、音楽に関わってくると自分の中に1つの理想的なバンド像が出来上がってきます。私の理想のバンドはロック系なら24丁目バンド、もう少しジャズ的要素が入るのならマイケル・フランクスです。
24丁目バンドは全員がボーカルをとれ、ジャズ的要素も理解しながらロック的音楽アプローチができるバンド。
マイケル・フランクスはポップス的要素やボサノバ的要素を持ちながらもジャズのメソッドを理解した演奏に、洗練されたボーカルが乗るという音楽。
このマイケル・フランクスにもトミー・リピューマは深く関わっています。

インテリジェンス溢れるマイケル・フランクス

マイケル・フランクスは1944年生まれのアメリカのミュージシャンで両親共にジャズを聴いていたことから、幼少期から音楽が体に刻まれたといわれています。大学で学士、大学院で修士を取得したインテリ・ミュージシャンです。そんな彼の指向は音楽には勿論、アルバムジャケットにも反映されています。
アルバムタイトル「スリーピング・ジプシー」はアンリ・ルソーが描いた同名タイトルの画からとられたと言われていますし、アルバム「タイガー・イン・ザ・レイン」もアンリ・ルソーの同名絵画から名付けられています。それに加えルソーの同名絵画もアルバム・ジャケットとして取り上げるなど、普通のミュージシャンとは異なる音楽へのアプローチが見られます。

マイケル・フランクス/タイガー・イン・ザ・レイン(1979年)

■ 推薦アルバム:マイケル・フランクス『アート・オフ・ティー』(1975年)

マイケル・フランクスの記念すべきメジャーデビュー・アルバム。

このアルバムの前に『Previously Unavailable』というファースト・アルバムを制作しているがトミー・リピューマは関わっていない。このアルバムを聴くとプロデューサーの存在がどれだけ重要かが理解できる。

アーバンライクでジャズやボサノバといったテンションノートを含むクールで洒落たサウンドが聴ける。こういったサウンド志向はジョン・ゲリン(dr)、ウィルトン・フェルダー(b)、ジョー・サンプル(key)、ラリー・カールトン(g)、ニック・デカロ(st.arr)、マイケル・ブレッカー(t.sax)、デヴィッド・サンボーン(a.sax)といった高い技術を持ったミュージシャン達によって実現した。

トミー・リピューマはマイケル・フランクスの音楽を理解し、彼の頭に描かれた画を実現するために上記のミュージシャン達を集めた。余分な装飾をせずに楽曲の向かう方向が見えていた結果がこのアルバムの評価につながる。それが間違いではなかったことを48年の時が証明している。

推薦曲:「モンキー・シー・モンキー・デュー」

16ビートのポップソング。アルバムリリースが1975年ということは48年前の楽曲ということになる。50年近く前の楽曲とはとても思えないほどの展開と構成。非常に洗練されている。この洗練をもたらしたのはプロデューサーであるトミー・リピューマの「技」意外には考えられない。
高度な演奏能力を持ったセンスの良いミュージシャンを使い、ぜい肉をそぎ落とした曲構成をすることで時代を超越した普遍的楽曲に仕上っている。

推薦曲:「Popsicle Toes」

バイブとフェンダーローズピアノが織りなすブルージーなリフから始まる4ビートベースの楽曲。2コーラス目の歌に入る直前にリズム隊がフェイクを入れるのが非常にお洒落!途中で展開が変わるジョー・サンプルのフェンダーローズピアノソロはジャズ的ではあるもののメローディを意識した展開。一方、ブルージーなリフ上を踊るサンプルのローズはより土着的な味わいで楽曲に変化を与えている。

■ 推薦アルバム:マイケル・フランクス『スリーピング・ジプシー』(1977年)

マイケル・フランクスの最高傑作であり、トミー・リピューマのプロデュースが理想的な形で成果を上げたアルバム。レコーディングメンバーはジョン・ゲリン(dr)、ウィルトン・フェルダー(b)、ジョー・サンプル(key)、ラリー・カールトン(g)、マイケル・ブレッカー(t.sax)、デヴィッド・サンボーン(a.sax)といった強力面子。ファースト・アルバムに続き腕利きミュージシャンを使ったトミーの理想的な音楽がこのアルバムで完成を見る。

推薦曲:「ダウン・イン・ブラジル」

スピード感のあるボサノバベースの楽曲。ジョー・サンプルのアコースティック・ピアノのソロ構成はよく考えられており、フレーズも冴えわたっている。ピアノソロを受けるラリー・カールトンのギターソロもそれに負けず劣らず素晴らしい。アウトロー部などで聴けるラリー・カールトンのウエス・モンゴメリーばりのオクターブ奏法も洒落ている。

推薦曲:「アントニオの唄」

ブラジル音楽に心酔するフランクスがブラジル音楽の巨匠、アントニオ・カルロス・ジョビンに捧げた名曲。
気怠く美しいメロディラインはマイケル・フランクスの最も得意とするところだろう。ジョー・サンプルのアコースティック・ピアノソロが歌いまくっている。デビッド・サンボーンのサックスソロも秀逸。高い演奏力をもつ若いプレイヤーたちの息遣いが楽曲をラグジュアリーな世界に引き上げている。
これらの楽曲を聴くとトミー・リピューマ人脈は1970年代後半には既に出来上がっていたことが分かる。
数多くのミュージシャンにカバーされた。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:マイケル・フランクス、ジョー・サンプル、デビッド・サンボーン、マイケル・ブレッカー、ラリー・カールトンなど
  • アルバム:「アート・オブ・ティー」「スリーピング・ジプシー」
  • 曲名:「モンキー・シー・モンキー・デュー」「Popsicle Toes」「ダウン・イン・ブラジル」「アントニオの歌」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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