WAVESというと、「プラグインエフェクトのメーカーだ」と思われる方も多いことでしょう。事実、世界初のプラグインエフェクトを1992年にリリースしたWAVESは、現在170種類に及ぶプラグインを開発(そして1つも廃盤にせず)し続ける、世界最大のプラグインデベロッパーと言えます。
しかしここ数年、WAVESはヴァーチャル・インストゥルメンツ(ソフトウェア音源)の開発にも力を入れ、開発チームに世界中から先鋭のサウンドデザイナーを招集。エフェクトプラグインとは違うチーム編成で、最高峰のソフトウェア音源開発に取り組んでいるようです。
実は、そんなWAVES製ソフトウェア音源を全てまとめたバンドルがあります。
それが、こちら!
WAVES (ウェーブス) / Inspire Virtual Instruments Collection
11種類のヴァーチャル・インストゥルメントを収録し、グランドピアノ、エレクトリック・ピアノ、エレクトリックグランド、クラビネットなどの代表的な鍵盤楽器音源から、アナログモデリング、FMシンセ、エレクトリックベース、ボコーダーまで幅広くカバーをしており、様々なジャンルの楽曲制作において活躍します!
それでは、WAVES Inspireに収録された音源をチェックしていきましょう!
充実の鍵盤楽器音源
Grand Rhapsody Piano:グランドピアノ音源
1台のピアノになんと15GBもの容量をかけてサンプリングされた贅沢なピアノ音源。サンプリングに使用されたのは、ロンドンのメトロポリススタジオに常設されているイタリア製ピアノ、FAZIOLIのF228。このスタジオにあるこのピアノといえば、フレディ・マーキュリーやアデルが実際にレコーディングでも使用したものとして有名ですね。
ロードしてパッと弾いてみると、重厚感も濃密さもあるゴージャスなピアノサウンド。充実した8種類(マイクの種類だけでなく、設置の距離にもバリエーション有)ものマイクの中から3種類をブレンドして出力することができるので、ピアノ・ソロ楽曲からジャズのアンサンブル、ポップスのバッキングまで幅広く使用できることでしょう。
WAVESは"プラグインエフェクト"のメーカーというイメージが強かったのですが、完成度の高さに驚きました。マイクの設定次第で普通のピアノだけでなく、映画音楽に映えそうな奥行きある音から、果てはアップライトピアノのような響きまで得られるのはすごいですね。

WAVES日本代理店のメディア・インテグレーションのデモ音源
デフォルトプリセットのピアノ
映画・CM音楽のような深いリバーブが特徴的なピアノ
ペダルを踏んだ時に発するノイズを多めに加えたピアノ
Electric 88 Piano:Rhodes音源
ポップス、ジャズ、クラブミュージックなど、現代の音楽に欠かせない楽器、ローズピアノ。このElectric 88 PianoはヴィンテージのRhodesをサンプリングした音源です。
通常エレクトリック・ピアノのレコーディングには、ライン出力をするかギターアンプを鳴らすかなどの方法がありますが、このElectric 88 Pianoはその両方をカバーしています。どちらの音もヴィンテージローズのサウンドをうまくキャプチャーしており、実際のローズを演奏しているかのように浸れます。また、音色はピックアップが拾った音、トーンバーを叩くコツコツとした音、メカニカルノイズ(スーツケースの電源をオフ、あるいは何にも繋いでいない状態で鍵盤を弾くと鳴る”あの”音)、そして離鍵時に本体から出るノイズ(カタッ、というノイズ)をブレンドすることができるので、ミントコンディションのローズから使い込まれたローズまで、どんなサウンドでも作ることができるでしょう。

また、ローズに欠かせないトレモロ、フェイザー、ワウ、アンプや歪み系、ディレイやリバーブも網羅しているところはさすがのWAVES。音作りに欠かせないエフェクトは充実&ハイクオリティ。
デフォルトプリセットのエレクトリック・ピアノ
アンプを通し、エフェクトを使ったエレクトリック・ピアノ
鍵盤系はこの他にも
Electric Grand 80:ヤマハが1978年に発売した、いわゆる「電気式グランドピアノ」。グランドピアノの代用品として登場したものですが、お世辞にもリアルなグランドピアノとは言い難い製品でした。しかし、独特のキャラクターを持ったその音色は、のちにロックやポップスのアレンジで重宝されるようになるのです。Electric Grand 80はそんなCP80をサンプリングした音源ですが、独特のチープさをうまく再現しています。Electric 88 Pianoと同様にメカニカルなノイズ成分だけを好みで混ぜ込むことができるため、あらゆるコンディションの再現も楽々。この音色がハマりそうなポップスのシーンは、結構ありそうです。
Clavinet:製品名そのまま、クラビネットの音源。スティービー・ワンダーの楽曲、「迷信」があまりにも有名ですが、ファンキーな鍵盤楽器といえば何と言ってもクラビネットでしょう。このWAVES ClavinetはD6をサンプリングしたものだそうです。エフェクトを何も通してない状態のモチッとした粘りのある音色を聴くと、サンプリングがかなり高いレベルで行われたものだなと感じます。サステインを削るMute、他の音源同様にメカニカルノイズや離鍵時のノイズを混ぜられ、ワウエフェクトは「まさにこれ!」と思うかかり方をしてくれます。
Electric200:Rhodesと双璧をなすエレクトリック・ピアノ、ウーリッツァーをサンプリングした音源。Rhodesに比べてもレンジが狭い楽器ですがポップスとの相性もよく、カーペンターズの楽曲でその名演をよく聴くことができます。WAVES Electric 200はその独特なキャラクターをうまく掴んでいて、即戦力のポテンシャル。近年、あらゆるジャンルをミックスしたような超ハイブリッドなJ-POPアーティストが大活躍していますが、このElectric 200はそういったアレンジにも最適なのではないでしょうか。
といった音源が収録されています。
ここまでの音源はいずれもヴィンテージ鍵盤楽器をサンプリングしたものですが、上でも書いたように単に楽器の音を出しているだけでなく、楽器そのもののノイズや構造上でやむを得ず出てくる軋みのような音までを精彩にサンプリングすることで、楽器そのものをサンプリングした、といってもいいほどのクオリティになっています。
また、プリセットが秀逸。名曲になぞらえたプリセット名もあれば、大胆な設定を施したクリエイティブなものもあります。プリセットが充実しているというのは、エフェクトプラグインまでを含めたWAVESならではともいえますね。
3種のシンセサイザー音源は、いずれも強烈
シンセサイザーのカテゴリでは、発音方式の異なる3つの音源が収録されています。一般的なアナログ・モデリング・シンセサイザー、元から収録された膨大なウェーブに加えてオリジナルウェーブの読み込みにも対応したウェーブテーブルシンセサイザー、そして、音作りのしやすさに優れるFMシンセサイザーの3つです。いずれのシンセもノート指定ができるアルペジエイターを備えていて、WAVESならではのエフェクトを一通り備えています。
これらソフトウェア・シンセサイザーのクオリティにも驚きを隠せません。サウンドはもちろん、操作性も非常に優れていると感じます。
Element 2

一般的なアナログ・モデリング・シンセサイザー。VCO/DCOの切り替え可能な2オシレータとサブオシレータ、ノイズオシレータに加え、各オシレータにかかるリングモジュレータを備えています。私が最も驚いたのはこのオシレータ部分で、エフェクト等を全てバイパスした状態で聴いてみると、かなりファット。WAVES製のフィルターと合わせて、ベース、リード、パッドと色々な音作りを楽しめます。
複雑なモジュレーションなど充実の機能はもちろんですが、まずはこの素のオシレータを体感してほしいシンセサイザーです。
CODEX

ウェーブテーブルシンセサイザー。あらかじめ持っているウェーブテーブルのみならず、自前のファイルを読み込ませて使うこともできます。ウェーブテーブルシンセでは、ロードした波形の特定ポイントを「どこからスタートして、どこまで再生して、どこの部分をループさせるか」でその表情は深みと複雑さを増しますが、CODEXはそのポイントが視覚的にわかりやすいため、「偶然性に頼りすぎない」音作りができます。
ウェーブテーブルシンセに精通した方も、初めてそんな名前を聞いたという方も、誰でも「今まで聞いたことのない」音を作り出すポテンシャルを持った、奥が深い音源です。
Flow Motion

YAMAHAのDX7に代表されるFMシンセシス。このFlow Motionは一歩進んだFMシンセシスができる4オペレータのシンセ音源です。FMシンセといえば「難しくて分かりにくい」というイメージをもたれるかもしれません。しかし、FMシンセならではの他では得られない金属的な響き、幽玄なサウンドスケープはとても魅力的です。
あまり見慣れないタイプのグラフィックが特徴的ですが、モジュレートの流れが分かるように配置されています。関連性が把握できると、時間を忘れて音作りの深みにハマってしまうほどです。
特筆すべきはスナップショットシーケンサー。これは、アルペジエイターとは別に動くシーケンサーで、ノート(音階)ではなく、各オペレータの「状態」を保存しておくもの。KORG製品にあるモーションシーケンスに近いと言えますが、これをステップシーケンサーに収めることで、BPMに合わせて変化させることができます。
こちらの動画(1:25〜)で、かのリチャード・ディヴァインがスナップショットシーケンサーについて語っています。
このWAVES Inspireバンドルには、エレクトリックベース専用の音源も2種類収録されています。指弾きのベースBass Fingersと、スラップ(チョッパー)ベースBass Slapper の2種類です。指弾きで長いサステインまでを収録しているBass Fingerは16GBもの容量。スラップでサステインが短いBass Slapperは5GBの容量を、それぞれ1本のベースを再現するためにサンプルされています。

8つのベロシティ・レイヤーに加えて、6つのラウンド・ロビン(同じベロシティーが2回連続して入力されても、6つのバリエーションレイヤーが自動で入れ替わりながら再生される機能)を備えているため、マウスクリックで入力しただけのベースラインとは思えないほど、表情のあるベースサウンドに仕上がります。
また、ポジション移動によるトーンの違いにも重点が置かれているようで、3弦解放のAと4弦5フレットのAの違いを(ベーシストにはこだわりのポイント!)キースイッチで難なく行えるのは、ニュアンスを大事にしたい方にとっては嬉しい部分ですね。使用する弦をリアルタイムで制限したり、解放したりするパラメータもあるので、まさにニュアンス重視の方のための音源と言ってもいいでしょう。
指弾きとスラップが揃っているということで、いつか「ピック弾き」と「フレットレスベース」が登場して欲しいと思うほどのクオリティです!
ここまでの10種に加えて、ボコーダープラグインのMorphoderを収録した合計11種の音源バンドル、WAVES Inspire。プラグインエフェクトではすごいブランドだけど、音源は正直どうなんだろう?というイメージを打ち壊す、どれも即戦力にできるような音源ばかり。
ソフトウェア音源のクオリティ底上げにも、きっと活躍することでしょう!