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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 ~ボサノバのジャズ名曲、名盤特集~その105

2022-11-15

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

ボサノバジャズパートⅤ

ボサノバジャズをテーマに取り上げた前回に続き、お薦めのボサノバ楽曲をジャズで切るジャズ的ボサノバパートⅤです。

ブラジルミュージシャンによるジョビン・ジャズ

前回はジャズミュージシャンがボサノバを取り上げたらどうなるのかという括りでお送りしました。
今回はブラジル人ミュージシャンがジョビンの楽曲をどう料理するのかという異なった切り口でのボサノバ検証と名盤をご紹介できればと考えています。
当然そこにはジャズのスキルを持った音楽家としての素養があり、ジョビンの影響を受けてジョビンとも共演歴がある「ジョビン由来」のミュージシャンが登場します。

華々しい活躍を見せるブラジル人ミュージシャン、マリオ・アジネ

マリオ・アジネは1957年リオデジャネイロ生まれのシンガーであり、ギタリスト、作曲家、アレンジャー、プロデューサーなど、八面六臂の活躍を見せる音楽家です。
16歳からブラジルで音楽理論を学び、アメリカやオーストリアでもピアニストや作曲家に師事し、音楽的な教養を深めるというアカデミックなキャリアを持っています。
マリオは1981年にはプロデューサーのロバート・メネスカルに招かれ、ポリグラムでアレンジとレコード制作の仕事をするなど、多くのブラジルミュージシャンと関わり、その手腕に注目が集まりました。その後、アントニオ・カルロス・ジョビンに認められ、自身のアレンジがジョビン・バンドに採用。
ギタリストとしてもジョビンの数々の名盤やライヴに参加し、ジョビン・ファミリーの音楽的キーマンとしても知られています。

■ 推薦アルバム:マリオ・アジネ『プラス・ジョビン・ジャズ』(2011年)

マリオは音楽を演奏し、歌い、作曲する(それだけでも十分ですが…)だけでなく、高度な音楽教育を受けた成果をこのアルバムに反映させています。
私はどうしてマリオがオーケストラでジョビンのジャズアルバムを作るのだろうと、当時、その意味を理解できませんでした。しかし、背景には膨大な音楽的知識があったのです。

このアルバムは2007年にリリースされたアルバム『ジョビン・ジャズ』の続編。
ジョビンの重要曲をジャズという切り口で捉えたアルバムで、アプローチ方法はジョビンミュージックを知り尽くし、音楽的インテリジェンスの高いマリオならではの作品と言える。
ジョビンという音楽を素材とし、ブラスアンサンブルで表現するというマリオならではの音楽的演出が奏功している。
一方、これだけ多くのミュージシャンが取り上げるアントニオ・カルロス・ジョビンの音楽的価値も敬服に値するものであると思う。

推薦曲:「アンティグア」

このトラックはアントニオ・カルロス・ジョビンの永遠の名盤『WAVE』にクレジットされている。
ガットギターとピアノのバッキングにホルンが被るイントロは品のあるジョビンミュージックへのリスペクトが伺える。Aメロをブラスとピアノが交互に歌い、2コーラス目はまた違うブラスアンサンブルでピアノと交わる。1つの楽曲でアレンジ的には同じことをしていない。サビはトランペットが主役でピアノが後に続くなど、入り組んだアレンジは難しいパズルを思わせる。
アドリブのソロパートはピアノとエレクトリックギターの掛け合いという、めくるめくマリオ・アジネワールドを味わうことができる。

推薦曲:「ウェイブ」

言わずと知れたジョビンの名曲。冒頭はサビを木管系アンサンブルが歌い、イントロはギターとブラスアンサンブル。Aメロはサックスが歌い、2コーラス目はフルート系が担当する。聴こえる音は本当に爽やかの一言。木管系中心のサビのアンサンブルも「WAVE」という楽曲をマリオがリスペクトしているのが良く分かる。アドリブソロはサックス。途中でドラムがリズムをフェイクしたフィルを入れるのがお洒落!
マリオのアレンジは淡い色で描かれた水彩画を想起させる。

60年代のジャズ・ボッサの脂っこさ(悪い意味ではない)を思うと、隔世の感がある。マリオのアレンジはボサノバの持つ空気感と洒脱感が同居している。料理の仕方で音楽がここまで変わるという好例ではないかと思う。

■ 推薦アルバム:マリオ・アジネ『ペドラ・ボニータ』(1993 年)

私が最初にマリオ・アジネの音楽に触れたのがこのアルバム。アルバムを聴く限りはオーケストラを編曲できる能力を有していたとは夢にも思わなかった。
ゲストにアントニオ・カルロス・ジョビンやイバン・リンス、ジョイス、小野リサらを招いたマリオ・アジネの傑作。

推薦曲:「マラカンガーリャ」

アントニオ・カルロス・ジョビンを招いて録音されたトラック。2コーラス目から多数の女性ボーカルと一緒に歌うアレンジとなり、ジョビン後期のアレンジャーがマリオだったのに納得がいく。
ピアノソロの途中で意図的にアウトしたノートを弾くのはジャズ的なアプローチであり、ジョビンのピアノソロでは珍しいと思ったところでディサフィナードの一節が…この辺りもジャズ的な世界であり、ブラジル側のジャズの捉え方を垣間見ることができる。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:マリオ・アジネ、アントニオ・カルロス・ジョビン
  • アルバム:「ジョビン・ジャズ」「ペトラ・ボニータ」
  • 曲名:「アンティグア」「WAVE」「マラカンガーリャ」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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