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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その141 名プロデューサーの名盤特集 パート4 ~トミー・リピューマとスタッフ編~

2023-07-15

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

噂に聞いた凄いバンド「スタッフ」

1970年代後半に音楽を聴く人の間で話題になったバンドがありました。その名は「スタッフ(Stuff)」。

1977年4月に東京晴海で「ローリング・ココナツ・レビュー・ジャパン・コンサート」というベネフィットコンサートが開催され、80人ほどのミュージシャンが無償で出演し約15,000人の聴衆を動員しました。そこに参加していた初来日の「スタッフ」が大きな話題となったのです。主要メンバー2人を欠くものの、その演奏力に聴衆は舌を巻きました。

私は「スタッフ」の演奏の素晴らしさを、当時の軽音楽部の友人から何度も聞かされていました。
それほど凄いのならぜひとも観てみたいという想いが芽生え、その想いは同年の11月に実現することになりますが、その話は後程…。

セッションミュージシャンの集合体

「スタッフ」というバンドはベースのゴードン・エドワーズが中心になって結成されました。ギターのエリック・ゲイル、コーネル・デュプリー、キーボードのリチャード・ティー、ドラムはスティーブ・ガットとクリス・パーカーという6人編成のツインギター、ツインドラムのバンドです。

この6人のメンバーはニューヨークではファースト・コールと呼ばれる腕利きのミュージシャン達。彼らは数百のセッションに参加をし、数百もしくはそれ以上のレコードにクレジットされています。レコーディングメンバーとして顔を合わせることもあったでしょう。しかし、そのメンバーでバンドを構成し、成功するかどうかは別の話です。

いい音楽を形作るために必要なのはミュージシャンの力量、これが一番重要であることは間違いありません。しかし上手いミュージシャンを集めればいい音楽が作れるのか、いいバンドになるのか…そうではないはずです。

そこで必要になるのはどういうアルバムを作るのか、どういう曲を揃えるのかなどミュージシャンの特性を理解し、進むべき方向性を考えるプロデューサーの存在です。何を売りにするのかがプロデューサーの手腕を問われるところです。

御大、トミー・リピューマの登場!

「スタッフ」のファーストアルバムは巷で話題となり、インスト・バンドでありながら想像を超えたヒットにつながります。
1976年というとロックブームと枝分かれする形で、ジャズとロックが融合したクロスオーバーサウンドが流行の兆しをみせた時代です。

「スタッフ」の成功はこの時流に乗る形になりました。社会がロックとはまた異なる、洗練された音を望んでいた背景もあったのでしょう。クロスオーバーという音楽は様々に形を変え、フュージョンというカテゴリーに集約され、玉石混合の1つのジャンルを形成します。その先鞭を付けたバンドが「スタッフ」と言っても過言ではないと思います。ボーカル無しで売れる音楽を作るのは、当時かなり難しい挑戦だったと想像できます。

そこで登場するのが御大、トミー・リピューマ。トミーはビジュアル的にはパッとしないバンド、ボーカルの無いインスト・バンドを素晴らしい大人のアルバムに仕上げました。そこにプロデューサーとしての手腕が見え隠れします。シンプルで抑制されたサウンド。しかもポップであること…トミー・リピューマの音楽制作に常に付いてまわるキーワードです。

「スタッフ」としての強み…それは並外れた彼らの演奏力です。トミーはそれを強調した耳当たりのいい、洗練された新しいアルバムを生み出しました。

スタッフLIVEの凄さを体験。彼らは半端なかった!

スタッフは1977年11月、2度目の来日をします。私はスタッフを新宿の厚生年金会館のホールで観ることができました。ローリング・ココナッツ・レビューではエリック・ゲイルとスティーブ・ガットは演奏に参加しませんでしたが、フルメンバーのライブは素晴らしいものでした。

私の印象に残っているのは、リチャード・ティーのグルーブしまくるアコースティックピアノ、特にリチャードの左手は強力でした。後にリチャード・ティーはさらに多くのセッションに参加し、一聴して分かるそのアコースティックピアノの音が世界を席巻したことを昨日のことのように記憶しています。当時の鍵盤弾きは誰もがリチャード・ティーのように弾きたいと試みましたが、あの強力グルーブを出せる人はなかなかいませんでした。

ライブ中にスティーブ・ガットとクリス・パーカーがドラムソロの掛け合いをしました。その時のスティーブ・ガットのソロが凄すぎて凄すぎて……。その後のスティーブ・ガットの活躍は皆さんご存じの通りです。

■ 推薦アルバム:『Stuff』(1976年)

スタッフの歴史的名盤。スタッフの全てがこのアルバムに集約されているといっても過言ではない。スタッフはこの後に数枚アルバムをリリースするのですが、このファーストアルバムがベストといえるでしょう。プロデューサーであるトミー・リピューマの力がいかんなく発揮されています。

バンドのカラーを決めるギタリスト、エリック・ゲイルとコーネル・デュプリーの2人はどちらかといえばR&B的要素が強い泥臭い音を出すタイプのプレイヤー。特にコーネル・デュプリーはその要素が強い。ネイティブなルーツの香る音楽になるところを上手く中和しているのがリチャード・ティーのフェンダーローズピアノ。リチャードもアコースティックピアノを弾けばR&Bの要素が強くなるところを、ローズピアノとハモンドの音色がバンドサウンドを包み込み洗練されたサウンドの一翼を担っています。この辺りの匙加減はトミー・リピューマの指示なのか、リチャード・ティーのアイディアなのかは分かりません。いずれにしろ、どちらかといえば垢抜けないミュージシャンたちからこういった音を引き出すのがトミーの才能なのでしょう。

推薦曲:「My sweetness」

某国営放送ラジオ番組のテーマ曲としても広く知られています。エレクトロハーモニクスのフェイザー、「スモールストーン」を薄くかけたフェンダーローズの音がこのアルバムの洗練度を引き上げているように感じます。元々、ポップで覚えやすい曲。リチャードの弾くハモンドオルガンもいい味を出している。ポップなのにどこか品のある音と楽曲のムードはトミーが作り出したマジックだ。

推薦曲:「Want some of this」

スタッフの特徴が凝縮された楽曲。グルービーでファンキー。途中で聴けるリチャード・ティーのアコースティック・ピアノソロはこのアルバムで白眉の1つ。リチャードのアコピのフレーズが彼を世界に知らしめることになります。強力なグルーブするピアノのフレーズに、当時、多くの人がノックアウトされました。
以前、キーボーディストの深町純氏がリチャード・ティーのプレイを真近で見て、どう弾いていたかを松任谷正隆氏に嬉々として伝えたのは有名な話。それだけ国内のキーボードプレイヤーもリチャード・ティーの奏法に憧れを抱いていたのだ。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:リチャート・ティー、コーネル・デュプリー、エリック・ゲイル、スティーブ・ガット、クリス・パーカー、ゴードン・エドワーズ
  • アルバム:「Stuff」
  • 曲名:「My sweetness」「Want some of this」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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