■ ノーチラスのサウンドエンジン Polysixが進化したPolysixEX
コルグのワークステーション・シンセサイザー、ノーチラスの探求リポートです。
今回はノーチラスに内蔵されているサウンドエンジン、PolysixEXの音色を作る過程やディスプレイ操作、実際に音を出した感想などを交え、展開したいと考えています。
KORG ( コルグ ) / ノーチラス NAUTILUS-61
ノーチラスに内蔵された、コルグの歴史に残る6音ポリフォニックPolysixをシミュレートしたPolysixEX。実際は6音ポリではなくポリ数はその30倍、ポリ180です。
フルスケールの鍵盤、88Keyを全て押さえても、88音ポリですから180音ポリフォニックというのは凄い数字です。
この驚くばかりのスペックは、コルグの電子回路モデリング・テクノロジー「CMT」 (Component Modeling Technology)が現実にしています。
ノーチラス購入当初、マニュアルをあまり読まない私はノーチラスの何処をどうすれば自分の目指す音にたどり着くのかが分らず、殆ど手探りの状態でした。実際にマニュアルを見ても個々のサウンドエンジンにたどり着くプロセスまでは記載されていません。アナログシンセサイザーなら、どうすればいいのかは大概、見当もつくのですが…。以前、所有していたヤマハのMODXの方がまだ、ノブやスライダーが多い分、分かり易かった印象があります。
それでは操作のプロセスを見ていくことにします。ノーチラスの様な階層を辿るワークステーションタイプは画面表示を細かく説明していくと長くなってしまう為です。
もし分からない場合はサウンドエンジンEP-1のリポート前半の音色選択までの箇所をご覧ください。
■ PolysixEXの音を出すプロセス
1. 音色選択の画面より左上の>マークをタッチ

この場合はディスプレイEP-1音源の左上にある「>」を指でタッチし、プログラムセレクト・ディスプレイから画面左端のPianoやOrgan、Brassなど音色のカテゴリーが並んでいる画面を出す。
2. 音色のカテゴリーが左端に並ぶ

上記のディスプレイではKeyboardのEP-1音源が選択されている。
3. 音色ディスプレイのアップサイズ

音色カテゴリーが左側に並ぶディスプレイからBrassを指でタッチし、ブラス音色が並ぶ画面を出す。ブラス音色にはPolysixEXのサウンドエンジンが含まれていると判断。
4. ブラス音色が並ぶディスプレイ

ブラス音色カテゴリーからPolysixEXのシミュレート音源を使った音色を指でタッチして選択する。この段階ではPolysixEXエンジンが使われているかは分からない。Classical Ana Synthと表示がありAna→アナログと判断し、この音色を選択。
5. QUICK ACCESボタンでAのボタンを押す

QUICK ACCESボタン左中央のAボタンを押すとPolysixEXのエディット画面が現れる。
ブラス音色の中にはPolysixEX以外のエンジンも使われている。当該エンジンが使われている場合、PolysixEXのエディット画面が出る。
6. PolysixEXのエディット画面

旧来のPolysixパネルを模した画面。
7. PolysixEXのエディット画面のアップサイズ

画面左側上部にはPolysixEXと示されている。有効の場合、PolysixEX文字の横に緑色の縦線で表示される。ディスプレイ左側にあるVALUEダイヤルを回し、使用するサウンドエンジンを選択することができる。
この画面でもエディットは可能だが、更に詳細なエディットが必要な場合はQUICK ACCESボタンのAを押し、次の階層画面に入る。
8. 6画面の次の階層

パラメーターを操作する場合は画面を指でタッチし、変更したいパラメーターを有効にする。有効になったパラメーターは黄色い□でマークされる。
実際に指でも操作が可能だが、ディスプレイがそこまで大きくないのでVALUEダイヤルを回転させた方が操作的には楽かもしれない。
スライダーならば分かり易いが回転させる小さなノブを指で操作するのは面倒くさく、丁度良い値に持っていくのに苦労する。また、VALUEダイヤルを使う場合もかなりダイヤルを回転させる必要がある。
アナログシンセのVCFを操作する場合、カットオフやレゾナンスのノブを何度も回し戻したりする中で音色を探ることが多い。パネル上でこの行為をするのは不可能。この辺りは実際のノブがあるアナログシンセサイザーの方が操作はしやすく感覚的だ。
ノーチラスはPolysixEXだけでなく、9つのサウンドエンジンがあり、それを全てノブに反映することは現実的には不可能なため、ディスプレイを使っての体裁になるのは致し方ないことなのだろう。
9. 筆者所有のPolysix

鍵盤は現在のノーチラスに比べるとタッチが悪く、モソモソしている。当時のシンセサイザーの鍵盤はこの程度だった。
シンセサイザーのカテゴリーとしては鍵盤で圧倒的に弾き易かったのはヤマハDX7、DX7Ⅱの鍵盤。素晴らしかった。
10. Polysixのパネル TUNE、VCO、MGなどが確認できる

11. Polysixのパネル VCFやEG、EFFECTSなどのパラメーターが確認できる

当時のPolysixの音はポリフォニックシンセの黎明期だけあって、音的に目を見張るものではなかったように思う。
音楽を聞いている人にとってレコードから流れてくる音が全てであり、プロミュージシャンが出している音を安価なポリシンセにも期待していた。私もその1人。
しかし170万円のプロフィット5の音が出たのかと言えばそんな筈はない。
この手の安価なポリシンセを使い、裕福でない若手のミュージシャンが作った音楽が出てくるのはもう少し先の話。レコードになってしまうと意外に分からなくなってしまうという側面もあった。
でもTOTOのブラスの音をPolysixで出せたのかと言えばそれは無理!という話になる(笑)。
■ Polysixでは出なかった音がPolysixEXで可能になった!
PolysixEXのエディット画面

Classical Ana Synthのパラメーターディスプレイの右下に、画面左下で有効にしたパラメーター、EG(エンベロープジェネレーターのアタック)の数値が表示される。
この階層では有効になったパラメーターの数値を確認できる。
PolysixEXには通常のアナログシンセサイザーのベーシックな要素はほぼ揃っている。
音を作るための音源であるVCOやVCF、VCA、ADSR(エンベロープ・ジェネレーター)、LFOなどだ。パラメーターの値を変えれば当該パラメーターの数値がディスプレイ右下に表示されるため、細かく音を作り込む際には便利な機能だ。
旧来のシンセシス機能に加え、さらにこのPolysixEXには新たな機能がある。その機能を使った新しい音も数多く聞くことができる。この新たな機能を使った音色が凄い。
簡単なところだと音を重ねることが可能。PolysixEXの音とアコースティックピアノのサンプリング音、CXのオルガンサウンドなども重ねることができる。6音ポリでは到底考えられないことだ。
アナログシンセサイザーを操作した方なら理解できる筈なので、このリポートではVCAのノコギリ波を変える、矩形波でパルスワイズモジュレーションを操作するという話は割愛する。
普通のアナログシンセでできる操作に関してノーチラスのサウンドエンジンでできないことはほぼなし。
その音自体はPolysixよりも端正になっていて、中高音では若干、細くなっている気もする。その一方で中低域はPolysixよりも出音はパワフル!という印象を受けた。
ノーチラスはワークステーション・シンセサイザー。PolysixEXはそのワン・オブ・ゼムだと理解すれば楽器として文句はない筈だ。
■ 旧来のPolysixでは出なかった音、Night Times!
Night Timesパラメーター画面

これまでのPolysixでは出なかった音がこのNight Times。モワーっとしたPolysixの得意なパッド音。この音のみならPolysixで出せたが、その音に加えて、カラカラという高音部でのデジタル的持続音が混じっている。
上記ディスプレイからも理解できるが上部のパラメーターがパッド音、下部のパラメーターがカラカラという宇宙的、SF的な音。これはサウンドエンジンPolysixEXのなせる技。もう1つのPolysixEXの音を重ねることでデジタルシンセサイザー的音が作られている。
■ Night Timesの秘密はアルペジェーターだった!
Night Timesのアルペジェーター画面

デジタルシンセ的であり宇宙的、SF的音の正体はもう1つのPolysixEXのサウンドエンジン。矩形波の高音に比較的早いスピード設定でアルペジェーターをかけているため。2つの音を重ねることで、これまでには考えられなかったPolysixの音が可能になった。
ノーチラスにはコルグの財産である過去の音源を見事に生かした新しいハイブリッド音が含まれています。このワークステーションシンセサイザーには、こういった音を探すという楽しみも味わえます。
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