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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その125 ~珠玉のシンセサイザーソロとアンサンブル 海外編~

2023-03-14

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

TOTOのポリフォニックシンセサイザーソロとアンサンブルの妙味

前回はTOTOのファーストアルバムからシンセサイザーソロとポリフォニックシンセサイザーによるアンサンブルなどを取り上げました。
今回は TOTOによるシンセサイザーソロとアンサンブルの検証パートⅡです。

セカンドアルバムから4枚目に至るTOTOの黄金期

TOTOは2人のキーボーディストによる厚みのあるサウンドを誇る、一流のスタジオミュージシャンが集まった強力なユニットです。デビッド・ペイチとスティーブ・ポーカロの鍵盤屋2人にスティーブ・ルカサーのギター、デビッド・ハイゲントのベース、ジェフ・ポーカロのドラムという西海岸きってのファーストコール達が一堂に会しています。このバンドのメンバー達はクインシー・ジョーンズをはじめ著名アーティストのアルバムに多数クレジットされていることから、その腕前は推して知るべしでしょう。
特にジェフ・ポーカロとデビッド・ハイゲントが生み出すリズムはワン・アンド・オンリーで素晴らしいグルーブを私達に聴かせてくれました。
メンバー達はレコーディングに呼ばれるだけでなく、自分達の好きな音楽を作るという目的でTOTOを結成します。
その頂点が4枚目のアルバム「聖なる剣」であり、伏線となったのがセカンドアルバム「ハイドラ」だと私は考えています。もちろん、ファーストアルバムも最高です。

ポリフォニックシンセサイザーを武器としたアメリカンバンド

当時、TOTOというバンドは自分達の音楽をポリシンセの使用で他者と差別化を図っていたように思われます。あくまでポップ路線のアメリカンバンドですが、ファーストアルバムにもセカンドアルバムにもクラシカルなテイストが加味されています。
そこにはポリシンセを武器として使うバンドの試行錯誤が見られます。クラシカルな味わいを強調できるのはポリシンセの得意技であり、2人のキーボーディスがそれを上手く活用したことがTOTOを輝かせた要因であると思っています。

■ 推薦アルバム:『ハイドラ』(1978年)

セカンドアルバムの『ハイドラ』では、ファーストアルバムに強く見られたプログレ色やクラシカルな色合いを残しながらも、「ハイドラ」「St.ジョージ アンド ザ ドラゴン」や「99」「Mama」などのポップソングに上手くポリフォニックシンセサイザーを融合させている。
ここでもヤマハCS-80のポリシンセサウンドがアルバム色の大きな核になっている。

推薦曲:「ハイドラ」

冒頭部のSEがプログレ的色合いを感じさせる。イントロの生ピアノに被るファンファーレ的な音はCS-80によるブラス音。このポリシンセが得意とする音色だ。
スティーブ・ポーカロはTOTOのアルバムで殆どこの音色を使用している。
中間部にもCS-80のブラス音がちりばめられ、このポリシンセの貢献度の高さに圧倒される。CS-80なしでは成立不可能が楽曲。

推薦曲:「99」

シングルカットされた前期TOTOの名曲。クラシカルなアコースティックピアノのイントロにCS-80の美しいパッドが絡む。そして中間部のリフが印象的。
この楽曲でスティーブ・ポーカロによるシンセサイザーソロが聴ける。CS-80 によるもので前述のブラス音をベースにした音色。私はTOTOの全ての楽曲を聴いているわけではないが、TOTOの楽曲の中で一番メロディアスで展開を計算した構成になっている。
薄めにかけられたポルタメントがシンセサイザーソロの効果を引き立てている。

推薦曲:「A Secret Love」

ポリシンセCS-80 から始まるアコースティクピアノとのデュオアンサンブル曲。
CS-80によるブラス音のイントロが美しい。背景に流れる滲んだパッド音もCS-80お得意な音だ。アウトロ部分で鳥の鳴き声を思わせるSEも多分CS-80によるもの。イエスの名曲「危機」のイントロ音を想起させる。

■ 推薦アルバム:『聖なる剣』(1982年)

TOTO4枚目のアルバム「聖なる剣」が全米4位を記録し大ヒットとなった。グラミー賞ではレコード・オブ・ザ・イヤーやアルバム・オブ・ザ・イヤーといった主要部門など6部門を獲得。
 シングルカットされた「アフリカ」は全米1位、「ロザーナ」が全米2位、「ホールド・ユー・バック」が全米10位など、良質な楽曲がクレジットされTOTO史上最高の傑作アルバムが誕生した。
  このアルバムではTOTOのトレードマークであったクラシカルでプログレ的タッチは影を潜め、シンセサイザーなどキーボードをメインに据えた新たなロックバンドが誕生したと考えることもできる。
 また、リズムの要だったベーシストのデビッド・ハイゲントが脱退し、ポーカロ兄弟のマイク・ポーカロがその後を継いだ。
2人のキーボーディストを前面に出し、新しいバンドアンサンブルの構築を模索したTOTO。シンセサイザーソロをフィーチャーしたシングル2曲が全米1位と2位を獲得し、彼らのツインキーボード作戦は見事にこのアルバムで花開いた。

推薦曲:「ロザーナ」

シングルカットされ全米2位を獲得。ライブでのスティーブ・ポーカロのシンセサイザーソロはローランドのジュピター8を使用していることから、オリジナル曲もジュピター8であることが想定される。
スティーブお得意のブラス系シンセ音は、CS-80とはまた異なるザラっとした音色で奏でられている。
ソロ終盤の音階が下がる部分ではジュピター8の左側にあるピッチベンドレバーを操作し、音程をコントロールしている。ピッチベンドダウン後のグリッサンドはキラキラした音も混じっており、複数のシンセをダビングしたものと思われる。

ローランド ジュピター8

Roland Jupiter-8 Synth, CC BY-SA 2.0 (Wikipediaより引用)

ローランドの大ヒットしたアナログポリフォニックシンセサイザー。
価格は98万円と高価でアマチュアでは購入が難しかった。
この楽器は鍵盤を2 つのゾーンに分割し、各ゾーンで別々の音色を設定できた。
鍵盤をスプリットすることで演奏幅も広がった。

ROLAND ( ローランド ) / JUPITER-X

ROLAND ( ローランド ) / JUPITER-X

JUPITER-8を彷彿させるデザインと最新の音源を搭載した61鍵のフラッグシップ・シンセサイザー。

推薦曲:「アフリカ」

シングルカットされた「アフリカ」は全米チャート1位を獲得!アフリカの太鼓をイメージする音をループさせ、そこに美しいメロディーラインが展開する。
ボーカリストはキーボードのデビッド・ペイチでサビの高音部からボーカリストのボビー・キンボールが歌う。ボーカリストが複数いるのもTOTOの強みだ。
イントロのバッキングはCS80 のブラス音。そこにカリンバ音のオブリガートが加わりアフリカンテイストを強調する。この音はFM音源(4オペレレータ)のデジタルシンセサイザーGS1。この後にヤマハのFM音源(6オペレータ)のデジタルシンセサイザー、DX-7が発売され、DXの音が世界を熱狂の渦に巻き込んでいく。
シンセサイザーソロはソフトなアナログ音(CS-80)とカリンバ音(GS1)のユニゾン。途中からシロフォン系の音も混ざっている。この音もGS1の得意とする音だ。

ヤマハGS1

(ヤマハHPより引用)

大ヒットデジタルシンセサイザーDX7(6オペレータ)のベースとなったFM音源(4オペレータ)のデジタルシンセサイザー。当時の価格は260万円!
DX7と同様、カリンバやマリンバなど非整数倍音を含む打楽器系の音を得意としていた。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:TOTO、スティーブ・ポーカロ、デビッド・ペイチなど
  • アルバム:「ハイドラ」「聖なる剣」
  • 曲名:「ハイドラ」「99」「A Secret Love」「ロザーナ」「アフリカ」
  • 使用楽器:ヤマハCS-80、GS1、ローランドジュピター8など

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

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