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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その124 ~珠玉のシンセサイザーソロ 海外編Ⅱ~

2023-03-11

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

国内アルバムのシンセサイザーソロから海外編へ

国内盤のシンセサイザーソロを軸として、シンセサイザーの効果的な使われ方などを検証しています鍵盤狂漂流記。これまでは単体アーティストのアルバムで括ってきました。
国内盤では1人のアーティストの全アルバムの中に1曲程度はシンセサイザーソロを見つけることができますが、複数のアルバムでシンセソロがフューチャーされているかといえば、そうでもありません。それだけ楽曲におけるシンセサイザーソロの出番は少ないのです。
今回の特集にあたり、色々とリサーチを試みましたが探しきれなかった部分もあります。シンセサイザーが活躍している国内アルバムを発見できた際には再トライしたいと思いますのでお楽しみに!
そこで今回は海外に目を向けることにします。

海外でのシンセサイザー使用率の高いバンド、TOTO!

そんな状況を受けて一番最初に頭に浮かんだのがTOTOです。なんといってもTOTOはデビッド・ペイチとスティーブ・ポーカロという2人のキーボーディストを有するバンドで、アメリカのロックバンドとしてツインキーボードというスタイルでの楽曲作りを売りにしていました。当時のロックはなんといってもギターが主体だったのでプログレファンだった私としては過度な期待を持ってTOTOに接していました。
ポリフォニックシンセサイザーを前面に打ち出したプログレッシブなTOTOテイストは、2人のアンサンブルから生み出されます。デビッド・ペイチがピアノ系を担当し、スティーブ・ポーカロがシンセサイザーやオルガンなど持続音系を担っていました。4枚目のアルバムはグラミー賞も獲得し、アメリカ西海岸を代表するバントとして知られていました。

当時、TOTOはアメリカン・プログレハードロックともいわれ、イーグルスやドゥービー・ブラザースとは違うポップで洗練された音楽を聴かせてくれました。20歳前の私にとって、 この音はとてつもなく新鮮でした。
私の知る限り、ロックにツインキーボードを導入したのはこのTOTOが初めてです。
デビュー当時の写真を見るとスティーブ・ポーカロは「CS-80」を、デビッド・ペイチはヤマハエレクトリック・グランドピアノ「CP-70」 を演奏しています。

(ヤマハHPより引用)

ヤマハCS-80

CS-80は1977年に発売された6音ポリフォニックのシンセサイザー。UKのエディ・ジョブソンやヴァン・ゲリスなど、多くのプロが使用。当時の価格は128万円とアマチュアが購入できる機材ではなかった。このポリシンセはTOTOのファーストアルバムやセカンドアルバムに使用されTOTOの音楽を支える重要な役割を果たした。
また、音色的にも優れ、パッドの滲むような音色や壮大なブラス音など、このシンセサイザーでなくては出せない音色も多くあった。単音でも存在感ある音色でソロにも対応した。鍵盤上部に細長いリボンコントローラー(2センチ程のフェルト状の細長いタッチセンサー)が装備され、和音を押さえてリボンコントローラーを左右に動かせば和音によるポルタメント効果を得る事ができた。

■ 推薦アルバム:『宇宙の騎士』(1978年)

TOTOのアルバムで一番出来がいいのがこのアルバム(諸説あるが…)。その根拠は楽曲が優れていることに尽きる。「ホールド・ザ・ライン」のようなアコースティックピアノによる和音によるリフを構築した楽曲は斬新で当時聴いたことが無かった。また、「愛する君に(I'll Supply the Love)」「ジョージ・ポージー(Georgy Porgy)」などの佳曲揃いで捨て曲の無いアルバムになっている。
そして何よりも楽曲を引き立てるポリフォニックシンセサイザーの使われ方が絶妙であるという点。
このアルバムではヤマハのポリシンセCS-80 が大活躍している。CS-80 なしではこのアルバムの存在もTOTOというバンドの訴求も無かったといっても過言ではないだろう。ロックにプログレ的なテイストを持ち込みそのムードを演出し、際立たせたのがポリシンセの存在だった。もし、モノフォニック(単音)シンセサイザーしかなかったら、TOTOのファースト・アルバムはできていなかったのではないか。
和音によるオーケストレーション、バックグラウンドで静かに流れるパッド音、ソロと共存したブラスコードのバッキングなど、ポリシンセの存在意義を広く知らしめるアルバムとなった。
そういう意味で単音しか出せなかったモノフォニックシンセサイザーから6音の和音を出せるポリフォニックシンセサイザーに進歩したことは音楽にとっても大きな転換点になったといえる。

推薦曲:「子供の凱歌」

オーケストラを想起させるCS-80のサウンドが鳴り響く。ホルンやトロンボーン的な分厚い音に生ピアノのアルペジオが絡み、ポルタメントがかかったアナログシンセの音が被ると、このアンサンブルがアメリカのロックかと疑問符が付くプログレ的展開が素晴らしい。
私がTOTOのライブを観たのは1982年の2度目の来日でした。当時は4枚目のアルバムリリース直後でした。スティーブ・ポーカロのライブ機材はヤマハGS1(4オペレーターのFM音源シンセサイザー)の上にCS-80を置き、反対側にローランドのジュピター8、その上にミニモーグがセットされていました。鍵盤を体の両脇に並行に設置するキース・エマーソンスタイルで自分自身のプレイがよく見えるように演出していました。一方、デビッド・ペイチもスティーブと同様にGS-1の上にCS80 を置き、右手側はCS-80 に対して直角にアコースティックピアノを設置。その上にジュピター8を乗せプレイしていました。

(ヤマハHPより引用)

ヤマハGS1

大ヒットデジタルシンセサイザーDX7(6オペレータ)のベースとなったFM音源(4オペレータ)のデジタルシンセサイザー。当時の価格は260万円!
DX7と同様、カリンバやマリンバなど非整数倍音を含む打楽器系の音を得意としていた。

推薦曲:「愛する君に」

「子供の凱歌」の終わりを受け、スティーブ・ルカサーのギターカッティングからこの曲は始まる。曲の後半にCS-80の出番が訪れる。キメの後に登場するのがスティーブ・ポーカロのプレイするCS-80によるソロとバッキングの合わせ技。ファンキーで勢いのあるスティーブ・ポーカロのソロはシンプルではあるが非常に印象的。
直後にアコースティックピアノが絡み大団円を迎える。この辺りのツインキーボードの展開はTOTOの真骨頂だ。
私が観たライブではステージ上にあるジュピター8で単音ソロを弾き、振り返ってCS-80でブラス音のバッキングをするという派手なステージアクションを繰り広げていた。

推薦曲:「ジョージー・ポージー」

スティーブ・ルカサーのスライド・ギターソロの裏に流れるCS-80の滲むようなパッド音やストリングスの音、キメのオケヒット的な音などがこの楽曲のムードを形成している。
TOTOはボズ・スキャッグスの名盤、「シルク・ディグリーズ」の演奏を担当したボズのバックバンドが独立したバンドであり、まさにこの曲はボズ・スキャッグスそのもの。

推薦曲:「ガール・グッドバイ」

太いシンセベース音とオーケストレーション、ホルンを思わせるブラス音。そこにシーケンスフレーズが被れば、文句無しの英国プレグレシブロック的世界が幕を開ける。このイントロを演出しているのもヤマハのポリシンセCS-80だ。厚みがあり、柔らかく野太いCS-80の音は当時のシンセ音のトレンドとなり、「TOTOホーン」なる音色の固有名詞を生み出した。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:TOTO、スティーブ・ポーカロ、デビッド・ペイチ
  • アルバム:「宇宙の騎士」
  • 曲名:「子供の凱歌」「愛する君に」「ジョージー・ポージー」「ガール・グッドバイ」
  • 使用楽器:ヤマハCS-80、GS1、ローランドジュピター8、アコースティックピアノなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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