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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 ~ボサノバのジャズ名曲、名盤特集~その102

2022-11-14

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

ボサノバジャズパートⅡ

ボサノバジャズをテーマに取り上げた前回に続いて、お薦めのボサノバを切り口にしたジャズを取り上げます。

ボサノバジャズ名曲を聴く方法

ボサノバジャズというジャンルが存在するのかは分かりませんが、ボサノバを素材にしたジャズのアルバムは数多く、ボサノバジャズとしてコンピレーション盤が多くリリースされています。
コンピ盤と聞けば有象無象の音楽を寄せ集めて販売しているという印象がありますが、私の購入したこのアルバムはなかなかたいしたもので、ローリンド・アルメイダの「イパネマの娘」に始まり、ジョー・ヘンダーソン「ブルー・ボッサ」、デューク・ピアソン「サンダリア・デラ」などなど、ボサノバやラテンの名曲がずらりと並んでいます。
私がジャズに精通する先輩から言われたことがあります。
「ジャズアルバムでは1枚の中で曲が全ていいことなんて殆ど無い。アルバム1枚に1曲いい曲があればそれで儲けもの」というのがその内容でした。
アルバム全てがいい曲というのは私の中では数枚しかありません。例えば、キングクリムゾンのフォーストアルバム、「クリムゾンキングの宮殿」、ピンク・フロイド「狂気」、イエス「危機」(私の少年期はプログレファンの為)、スティング「ブルータートルの夢」など、Jポップならば、鍵盤狂漂流記でご紹介した南佳孝「サウス・オブ・ザ・ボーダー」や山下達郎「スペイシー」「ゴー・アヘッド」、ウエストコーストロックではリンダ・ロンシュタットの「風にさらわれた恋」(グラミー受賞)と50年以上、音楽を聴き続けても頭に浮かぶ名盤は決して多くありません。
そういう意味でボサノバジャズをお聴きになりたい方はコンピレーション盤を購入するのも悪くはないと思います。やはり、当たりはずれはありますが…(笑)

■ 推薦アルバム:ポール・デスモンド『テイク・テン』(1963年)

デイヴ・ブルーベック・カルテットで「テイク・ファイヴ」の大ヒットをもたらしアルト・サックス奏者、ポール・デスモンド。
前回、紹介の「ボッサ・アンティグア」はこのアルバムの翌年にリリースされた。
デイブ・ブルーベックという花形ピアニストから離れてジム・ホール(G)というコードプレイヤーを招きリリースしたアルバムは、全てがボサノバというわけでない。「アローン・トゥゲザー」など、スタンダードの名曲もクレジットされている。
しかし、デスモンドのトーンでスタンダードを奏でても何故か爽やかな楽曲になり、(重めのピアノが無いというのにも一理あり)アルバム全体の設えもがデスモンド印になってしまう。その清新さはある種の緊張を強いられるジャズというカテゴリーに一石を投じた形になった。

デスモンドはこのアルバムの成功に味をしめて次作の「ボッサ・アンティグア」を制作したのではないか、またはレコード会社からの提案も考えられる。

推薦曲:「オルフェのサンバ」

とてもポップな楽曲…なんて書くといかにも下世話感が漂いますが、全くそんなことはありません。
ポール・デスモンドというミュージシャンはこういったキャッチーなメロディを書くことが先天的に得意だった人ではないかと思います。一度聴いたら忘れられないポップなメロディ。まさに「テイク・ファイブ」のサビも同様。それがデスモンドの真骨頂なのでしょう。実際にデスモンドはポール・サイモンの楽曲「明日にかける橋」を自身のアルバムで取上げるなど、ポップス寄りのアプローチも見せています。
爽やかで暑苦しくなく、夏の日にビールを飲みながら聴けば最高ではないかと思う程の楽曲です。ジャズのミュージシャンでありながら、別の回路も持っていた稀有なミュージシャンがポール・デスモンドではないかと思います。

■ 推薦アルバム:マイルス・デイビス 『クワイエット・ナイト』(1963年)

マイルス・デイビスと「音の魔術師」と言われたギル・エバンスとのコラボレーションが生み出した4作目のアルバム。
前作の傑作アルバム『スケッチ・オブ・スペイン』を制作した際にはレコーディングが終わった後、『スケッチ・オブ・スペイン』は当分聞きたくないという程、マイルスはレコーディングに集中したという。その理由がギル・エバンスの書いた譜面が難解で演奏する際も難しかったとマイルスはコメントしている。
一方、ギル・エバンスを信頼しきっている様子もマイルス・デイビス自叙伝からuka窺える。それでなければ4枚も同じ人間と組んでアルバム制作をすることは無いだろう。
マイルスはこのアルバム「クワイエット・ナイト」ではジョビンの名曲「コルコバード」を演奏している。アルバムリリースが1963年であることから、当時流行っていたボサノバを取り上げたと想像できる。マイルスは後期、シンディー・ローパーの楽曲「タイム・アフター・タイム」やマイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」などを自身のアルバムで取上げるなど、ポップス寄りの発想をもっていた。 このアルバムでもボサノバを取り上げたのはマイルスの中にジャズ=4ビート=ビバップという既成概念に捕らわれない、音楽に境界線を引かないミュージシャンであったことが分かる。

推薦曲:「コルコバード」

アントニオ・カルロス・ジョビンの重要曲。数多のカバーが存在する。似通ったテーマがつづれ織りの如く繰り返され、サビに向かう。音の魔術師、ギル・エバンスのアレンジはブラスアンサンブルをメインに形成されている。そのアンサンブルの上をマイルスのトランペットがメロディをとる。ギルのアレンジは楽曲中に同じアンサンブルでのアプローチは無い。ワンコーラスが終わった後、「クワイエット・ナイト」には無い美しいい、アドリブパートなのか分からないメロディが展開される。そこにギルマジックのアンサンブルが寄り添う。素敵だと思った刹那、何故かフェイドアウトされる。2分40秒程の短尺。その意味をギルやマイルスに聞いてみたい。かなわないですが…。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ポール・デスモンド、ジム・ホール、マイルス・デイビス、ギル・エバンス
  • アルバム:「テイク・テン」「クワイエット・ナイト」
  • 曲名:「オルフェのサンバ」「コルコバード」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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