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蠱惑の楽器たち 34.音楽と電気の歴史10 ワイヤーレコーダー

2022-01-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

アナログ磁気録音の歴史は大きく分けて、第2次大戦中までのワイヤーレコーダーと、その後のテープレコーダーに大別できます。ワイヤーレコーダーは名前の通り、直径0.1mmほどの細い金属線に録音するレコーダーです。テープレコーダーが飛躍的に向上するまで、主にアメリカで通信記録用として使われていました。

■ 1888年 磁気録音構想発表 オバリン・スミス(アメリカ)

磁気録音の歴史は、オバリン・スミスが特許を取らずに磁気録音原理を誌上にて発表したのが最初とされています。そこには下記のような構想図がありました。図には鉄線ワイヤーを包むようにコイルがありますが、これが磁気ヘッドで、カーボンマイクと接続され、電池もつながっています。電池はカーボンマイクの駆動とワイヤーの磁化に必要な電流を流すために不可欠です。リール部の構想もしっかりしていて、巻取リールを手動等で回し、送りリールに軽くブレーキをかけておくことで、鉄線ワイヤーをピンと張るような構造になっています。磁気録音に必要な基本事項をすでに網羅しております。

■ 1898年 磁気記録の誕生 テレグラフォン ポールセン(デンマーク)

オバリン・スミスの発表から10年後、実際に機能するワイヤーレコーダーをヴォルデマール・ポールセンが発明しています。下は初期の試作品模式図になります。鋼鉄ワイヤーをドラムに巻いていたり、移動ヘッドなどの構造に、エジソンの蝋管の影響が伺えますが、数年後にはワイヤーの利点である巻き取り構造、固定ヘッドに変わっています。

基本原理はオバリン・スミスと同じで、音を電気信号に変換し、その信号をコイル状の磁気ヘッドによって、ワイヤーの磁化パターンを変化させて録音するというもの。再生は、その逆を行うというものです。まだ真空管が実用化されていないため、増幅は出来ませんので、再生するときは電話の受話器のようなもので聞くことしかできませんでした。名前もテレグラフォンなので、電話での利用を想定していたようです。試作品を作るにあたって、おそらくヘッド開発が一番苦労したと思われます。その後のテープレコーダーに使われるヘッドの原型がここにあります。

1907年にはDCバイアスによる歪低減や感度を上げるなどの音質改善も行っています。磁気録音は音声を電気信号に変換し、その電力と電磁石によって、媒体であるワイヤーを磁化させるわけですが、電力と磁化は直線的な関係ではありません。そこで、音声信号以外に直流電流をかけることで、歪などを軽減するわけです。

その後ポールセンはラジオ技術に専念し始め、磁気録音から距離を置きます。そのため、この時期に作られたワイヤーレコーダーは、わずかです。まだ真空管が実用化される前だったので、磁気録音は早すぎた発明だったといえるかもしれません。

真空管が実用化された1920年代には、ワイヤーレコーダーも実用製品として使われるようになりましたが、ワイヤーの利点である長時間録音が必要なシーンに限られていました。

■ 戦前まで録音機の主流はディクタフォン

ワイヤーレコーダーとテープレコーダーが台頭してくる1940年代まで、録音機の主流はエジソンの蝋管蓄音機の延長線上のディクタフォンでした。主に人の声を録音するために使われていました。ディクタフォンの問題は、録音するということは物理的振動で蝋管に刻むことなので、蝋管の再利用は手軽ではありません。また録音時間も数分から、せいぜい10分程度と限られていました。さらに乗り物の中のように振動するよな過酷な条件には不向きでした。初期は物理的な音の振動で蝋管を刻んで録音していましたが、後期では、マイクから音を入れて、電気的に刻むものへと改良されて行きます。しかし磁気録音の利便性には太刀打ちできませんでした。それでも後継のディクタベルトなどは、1970年代に入っても使われ続けます。

■ ワイヤーレコーダー全盛期

ワイヤーレコーダーが本格的に使われた期間は1940~1950年ぐらいで、それほど長くはありません。小型コンパクトで環境振動に影響を受けないため、軍用の無線録音用や航空機用として重宝されています。また振動に強ことや、長時間利用できるから鉄道での音楽プレーヤーとしてのニーズもありました。音質はそれほどよくありませんが、人の声を記録するには充分でした。

ディクタフォンとの比較となりますが、ワイヤーの再利用が出来るという点と、ワイヤーの長さに自由度があるため、1時間に及ぶ長時間録音も可能で、当時の録音装置としては優れていました。

1940年代には交流バイアスも使われるようになり、高音質化されていきます。交流バイアスは磁気録音には欠かせない技術ですので、次回解説したいと思います。

この時代のワイヤーレコーダーのワイヤーには18-8ステンレスが使われています。ステンレスは磁石にも付きにくい弱い磁性のイメージがあると思いますが、レコーダーとしては、その方が都合が良かったのです。強く磁化してしまっては、記録、消磁ともに困難になるのです。

また線の太さは0.1mm程度なので、当時のテープレコーダーに比べ、コンパクトに作ることが出来ました。これも優れていた点です。ワイヤーの送り速度は24インチ / 秒と高速です。テープの場合はコンパクトカセットで1.875インチ / 秒、オープンリールで15インチ / 秒、もしくは7.5インチ / 秒となりますので、かなり高速なのが分かると思います。1インチは25.4mmです。

■ テープレコーダーの躍進

しかし、戦時中ドイツにてテープレコーダーが飛躍的な進歩を遂げます。戦後になると、その技術は世界に広まり、さらに音質が向上していきます。1950年代になると、日本の東京通信工業(ソニー)もテープレコーダー市場に参入し、より高音質で使いやすいものへと進化していきます。テープレコーダーの高音質化の前にワイヤーレコーダーは次第に使われなくなっていきます。

次回はテープレコーダーの歴史を追ってみたいと思います。


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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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