マイクロフォンの歴史後半です。1930年代から現在までとなります。
1933年 クリスタルマイク
Astatic D-104
ロッシェル塩で作られたクリスタルは、微量の電力で駆動するため、電池不要の鉱石ラジオのイヤホンとしても使われていました。発明自体は1919年にアレクサンダーニコルソンがデモを行っています。マイクとして製品化したのは、おそらくAstatic社が最初だと思います。この手のクリスタルマイクは後にブルースハープ用として使われるようになります。独特な音響特性とサイズが合っていたのでしょう。
圧電素子(ピエゾ素子)としてのクリスタルは湿度に弱く経年劣化が激しいため、今はセラミックに置き換えられていますが、似て非なるものです。現在はクリスタルマイクを手に入れることは難しいと思います。またインピーダンスが高いので、他のマイクと同じようには扱えないという問題もあります。クリスタルイヤホンなどは薬局などで売っているロッシェル塩を使って工作することも可能です。下絵は2枚の圧電素子を貼り合わせたバイモルフで内部構造を描いてみましたが、様々な圧電素子の組み方があるので、初期のマイクがどのようになっていたかは不明です。
1938年 エレクトレット・コンデンサマイク(ECM)
Bogen No Voltage Velotron
エレクトレット素材という、半永久的に電場を形成し続ける素材があります。永久磁石の電気版という感じです。これをマイクに応用しようというものです。コンデンサマイクは外部電源が必要ですが、それを排除できます。しかし出力が小さいためアンプが必要になります。初期のワックスベースのエレクトレットは動作が不安定なため、アンプも含めて改善され続けます。1960年代になって実用的なエレクトレットコンデンサマイクが作られるようになり、小型音響機器が増えた始めた1970年代から爆発的に作られるようになります。写真の円筒状の小さいマイクにはFET(電界効果トランジスタ)も内蔵されていて、2~3V供給することで駆動できるようになっています。ノートパソコンのマイク端子などはECMを前提としたプラグイン仕様になっています。
下はECM内部を確認するためにスライスして分解したときの写真です。ダイアフラムは金属ぽく見えますが、ポリエステルにアルミ蒸着だと思われます。またダイアフラムとエレクトレットの間にはリング状の薄い絶縁体しかなく、わずかな隙間しかありません。エレクトレットは横から見ると積層してあるのが確認できました。エレクトレットの下にある黒い棒はシャープペンシルの0.5mm芯です。
2000年代以降
マイクの原理は大きくは変化せず、1930年代に一通り製品化されると、それらが高性能化していくという流れが何十年も続きます。それでも2000年以降に違った構造のマイクが目につくようになります。
MEMSマイク
携帯機器が、より高機能、高密度化されてくるとマイクも基板に実装しやすくする必要があります。そこでMEMSマイクが登場します。基本原理はコンデンサマイクで、エレクトレットとバイアス型の2通りがあります。コンデンサーマイクやECMとは製造方法やサイズが違い、ADコンバーターまで入れ込むことができるので区別されます。MEMSとはMicro Electro Mechanical Systemsの略で、半導体微細加工技術という意味になります。つまり極小に作ることが可能となります。結果的に振動、衝撃、耐熱性、電磁ノイズに強い優れたマイクができます。また組付けも他表面実装部品と同じように扱えるので、大量生産に向いています。現在の実用品ですと2~3mm程度の大きさが多いですが、研究段階ではもっと極小にすることが可能です。以前研究の最先端に触れたことがありますが、個人的には超極小MEMSマイクを数百個、隙間を開けて格子状に並べたいと思いました。将来的には驚くような活用がされるかもしれません。
MEMSやECMなど直径数ミリの小さいダイアフラムで受ける音と、高級コンデンサマイクのような直径1インチ程度のラージダイアフラムで受ける音は、収録できる音の傾向が大きく違うように感じます。カメラのフイルムに例えると、35mmと中判のような差です。大きいとグラデーションがやわらかく滑らかな印象を受け、逆に小さいと応答性能がアップする感じです。
光ファイバーマイク
光を使ったマイクで、磁気や電波などのノイズに強いとされていて、かなり特殊な用途向けとなります。原理的にはダイアフラムに光ファイバーを使って光を当て、振動を検知するというものです。
レーザーマイク
音で振動している物体にレーザーを当て、反射してきたレーザーを計測することで、音に変換できるというものです。遠くの特定の音をキャッチできるので、かなり特殊な使い方になると思います。
イオンマイク(開発中)
オーディオテクニカで研究されている振動板を持たないマイクです。特殊状態の気体から電気信号に変換する仕組みで音響機器として開発をしています。音響特性も期待できそうです。
次回は代表的なマイクの構造を見て行きたいと思います。
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