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蠱惑の楽器たち 36.音楽と電気の歴史12 コンパクトカセットテープ

2022-02-04

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

今回は磁気録音の分野で、最も普及し、現在でも再生録音機器、テープ共に生産されているコンパクトカセットテープについてです。

■ 根強いカセットテープ

正式には「コンパクトカセット」という名称ですが、一般的にはカセットテープの方が通りがよいようです。それまでのオープンリールは再生途中でテープを交換することが出来ず、交換するときは巻き取る必要がありました。またその大きさも手軽とは言えませんでした。そこで1950年代後半から、その扱いにくさを克服しようと、世界中でテープをカセット化する動きがありました。RCAカートリッジや、DCインターナショナル方式などです。コンパクトカセットは、1962年にフィリップス社(オランダ)で仕様を固め、1965年に、特許、製造権を無償にして使えるようにしたことから、一気にデファクトスタンダードになります。

安価で扱いやすいカセットテープの用途は広く、それぞれの用途で定着して行きますが、1980年頃をピークに徐々に衰退していきました。その後、テープの代替として高性能な光ディスクのMDなどが登場し、カセットの役目は完全に終わったかのように思えましたが、カセットテープ市場は縮小しても消えることはなく、MDの方がメモリオーディオの勢いに負けて、先に消えてしまいました。現在は完全にメモリオーディオの時代になり、カセットテープの必要性すらないのですが、それでも現役でレコーダーもテープも売られ続けています。直感的に扱えるメディアとして、まだ需要は絶えないようです。

■ サイズ

扱いやすい形状やデザイン、サイズにこだわり、細部の寸法が決定されています。テープの動作と残量が目で確認出来るというアナログな部分が、今日まで生き延びている理由のように思えます。

■ テープ送り速度 1.875ips (インチ/秒)(4.75センチ/秒)

数値だけ見ると中途半端な印象ですが、オープンリールの速度を知ると納得できます。オープンリールは15ipsが標準速度で、この速度を基準に半分の速度に落として行くモードがあります。7.5ips、もしくは3.75ipsがあります。ここまでがオープンリールで扱える速度ですが、カセットテープは、さらにその半分の1.875ipsです。つまりオープンリールの標準速度に対して1/8の速度となります。

■ テープ幅 0.15インチ(3.81mm)

ステレオの場合、1トラックの幅は0.6mmとかなり狭くなっています。オープンリールの約半分という感じです。さらにスピードは1/8ですから、情報量は1/16という感じで、音質面ではかなり厳しい条件と言えます。モノラルの場合は記録面積が約2倍になるので音質面で、ステレオよりは有利になります。

■ ドルビーノイズリダクション ドルビーラボラトリーズ社

記録面積が小さいことからオープンリールよりもヒスノイズが目立つ傾向にあります。カセットテープではヒスノイズ除去は必須と言えます。そこでノイズリダクションが生み出されます。よく使われたのはドルビーノイズリダクションです。他にdbxなどもありました。

  • Dolby Type-B 1970年~
    最も普及したノイズリダクションで、その効果は最大10dBありました。仕組みとしては録音時に高域成分が低レベルの信号のときに、音量を持ち上げて録音します。逆に録音レベルが高い場合はノイズリダクションが機能しない方向になります。これはヒスノイズ以外の音が十分に大きければ、ヒスノイズは気にならないからです。動作としては帯域スライディング方式で、入力レベルが高くなると、高い周波数へシフトし、ノイズリダクション効果が小さくなります。再生時には逆の処理を行うことで元の音を再現します。仮にOFFにして再生しても、高域が強調されるだけで、それほど不自然にならないため、使いやすいノイズリダクションと言えます。
     
  • Dolby Type-C 1981年~
    高級機向けでType-Bよりも2倍ほど強力ですが、再生時に違うデッキを使うと再現に差が出やすいという問題がありました。互換性を重視して圧倒的に普及していたType-Bをあえて使っていた人が多かったと思います。

  • Dolby Type-S 1990年代~
    再現に差が出にくく強力なノイズリダクションですが、すでにカセット全盛期が終わりつつあり、採用しているデッキは少なめでした。

■ テープの種類

IEC TYPE I(ノーマル)、II(ハイポジション、クローム)、IV(メタル)、の3種類が主流でした。IIIもありましたが80年代に終了しています。

  • IEC Type I
    ノーマルは初期からある一番安価なテープで磁性体には酸化鉄が使われています。高音域が苦手ですが、中低域は得意なテープです。ノーマルしか対応していない安価なレコーダーも多く存在していたので、ノーマルは安心して使えるテープでした。

  • IEC Type II
    ハイポジションは1971年から登場。二酸化クロムを磁性体とし、減磁が少なく高周波特性が優れていましたが、低域はやや弱い音質でした。また酸化鉄にコバルトを添加したハイポジションもあります。デュポン社への特許使用料が発生しないため、国内では主流となって行きます。再生録音にはバイアス量をノーマルより1.5倍ほど増やす必要があり、デッキ側が対応していなければ、性能を発揮することはできませんでした。

  • IEC Type IV
    メタルテープは1979年から登場。全帯域において良好ですが価格が跳ね上がり高級テープとして君臨しました。磁性体には酸化していない鉄合金を使っています。ハイポジションと同じように録音再生するにはデッキ側が対応している必要がありました。個人的にはThatsブランドになる前の太陽誘電株式会社のメタルテープは安価で重宝しました。

■ 生産拠点は海外へ

最盛期には国産のカセットテープがあふれていて、高く評価されていましたが、現在は国内生産されていません。ほとんどのブランドは消えてしまって、入手できるのはmaxellのUR(TYPE I)ぐらいでしょうか。7年ほど前に入手したテープは韓国製、組立はインドネシアのようです。

■ カセットテープの用途

カセットテープは当初音質をあまり優先しない、ボイスメモ、会議の録音、学習用途での利用を想定していましたが、1970年前後から高音質化したことで音楽鑑賞用としてのポジションを築きます。最盛期ではレコードをダビングしたり、ラジオを録音する「エアチェック」という用途が最も多かったと思いますが、鉄道などの音を録音する「生録」というジャンルも存在しました。また特殊なところでは80年代初期のパソコンで、テープにプログラムを記録していました。メモリへのロードに時間もかかり、ピーガガガーというデータの音で聞けました。

音楽制作においては練習用途だけでなく、作曲ツールとしても使われました。80年代になるとカセットテープを使ったマルチトラック録音可能なMTRなども広く使われ、アマチュアミュージシャンは、こぞって「デモテープ」を作っていました。

一方、レコードレーベルもカセットテープを活用しています。カーステレオなどはカセットテープしか扱えないため、レコードリリースだけでなくカセットテープ版も並行してリリースしたり、販売量が見込めない場合、初期投資が低いという意味でカセットテープでリリースされるケースもありました。

手軽に録音できるメディアという意味で、あらゆるシーンで使われていたわけです。次回はカセットテープを録音再生するバラエティ豊かな機器について書きたいと思います。

漫画は勝手な想像なので本気にしないでください。名前はともかく、キャップ形状は時代的には、あり得たかもしれません。あまりにしっくりくるので、実際にカセットテープとマッキー極細がある人は試してもらいたいです。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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