日本ジャズ史上燦然と輝くバンド 「KYLYN」!
鍵盤狂漂流記の前回は渡辺香津美さんと福田進一さんの取材記でした。
今回は従来の鍵盤狂漂流記に舵を切り、渡辺香津美さんをキーワードにしたJフュージョン史に残るバンド「KYLYN」と、そのキリンバンドに参加したキーボーディスト坂本龍一さん等を取り上げようと考えています。
伝説のバンド「KYLYN」(キリン)は1979年リリースで渡辺香津美さん名義のアルバムタイトルです。坂本龍一さんも共同プロデュースでクレジットされています。
メンバーは当時最高のミュージシャンが勢揃いしています。
その面子、恐るべし!
「KYLIN」バンドのメンバーは渡辺香津美:ギター、坂本龍一:アコースティックピアノ、フェンダーローズピアノ、シンセサイザー、矢野顕子:アコースティックピアノ、フェンダーローズピアノ、アープ・オデッセイ、益田幹夫 :CP-70 エレクトリック グランド、フェンダーローズピアノ、小原礼:ベース、村上ポンタ秀一:ドラムス、高橋ユキヒロ:ドラムス、ペッカー:パーカッション、向井滋春:トロンボーン、本多俊之:アルト・サックス、ソプラノ・サックス、清水靖晃:テナー・サックスという恐るべき面子です。
村上ポンタさんは亡くなりましたが、現在でも第一線で活躍するメンバーが揃っています。
■ 推薦アルバム:渡辺香津美「KYLYN」(1979年)

「KYLYN」はアルバムをファーストアルバムとライブ盤であるセカンドアルバム、2枚をリリースし、自然消滅しました。
あくまで個人の感想ではありますが、渡辺香津美さんは「ビレッジ・イン・バブルス」から「ト・チ・カ」、MOBO辺りが一番冴えた音楽を演っていたという印象があります。勿論、どのアルバムも素敵ですが…「KYLYN」はそんな渡辺香津美さんの一番冴えていた超名盤です。Jフュージョンの中ではこの「KYLYN」と「KYLYN LIVE」は圧倒的存在感をもって光り輝いています。
その理由は当時若手であった国内トップミュージシャン達の才能が「KYLYN」というバンドの中でスパークし、化学変化を起こしていたからに違いありません。
また、マイルス・デイビスの名曲「マイルストーンズ」を取り上げていますが、マイルスの曲は単なる素材であって、全く異なる曲になっているといっても過言ではありません。ミュージシャン達の迸るエネルギーがオリジナル楽曲をディバイスしてしまったと私は考えています。この辺りが「KYLYN」の凄さであると思います。
推薦曲:『マイルストーンズ』
ジャズの巨匠、マイルス・デイビスの曲にKYLYN流のアレンジと新たなフレーズを加えて構成している。シンセサイザーのアドリブパートでは坂本龍一の所有するアープオデッセイがウニョウニョとした音色で大活躍している。

アープ・オデッセ シンセサイザー
推薦曲:『アイル・ビー・ゼア』
坂本龍一が「KYLYN」バンドに提供した名曲。矢野顕子がボーカルをとる。テーマとなるメロディが時代を感じさせるものの、秀逸。アルバムに収録された楽曲も全てが渡辺香津美のオリジナル曲ではなく、坂本龍一も作曲家としてバンドに貢献している。
■ 推薦アルバム:渡辺香津美『KYLIN LIVE』(1979年)

当時はフュージョンという固有名詞は存在しておらず、クロスオーバーというカテゴリーだった。ロックからジャズに振れたテクニカルな音楽として先進的なリスナーに支持を得ていた。その代表格が「KYLYN」バンドです。
当時の若手ジャズミュージシャン達がスタジオ録音された「KYLYN」を制作し、その後に持ってきたのは堂々たる「KYLYN」バンドのライブ盤。
山下達郎のイッツ・ア・ポッピンタイムやステップス・アヘッドなど、名盤が多く誕生している六本木のピットインでのライブです。その期待を裏切ることのない素晴らしい演奏が、この小さなライブハウスで記録されている。
私の心残りはこのバンドのライブをピットインで聴けなかったことです。
推薦曲:『インナー・ウインド』
渡辺香津美の超名曲。テーマとなるメロディが秀逸。そこにブラスアンサンブルが絡み壮大な楽曲展開になる。ある種、アジアンテイストを感じる瞬間もあり、渡辺香津美の楽曲の中でも高品質な一曲。
1987年8月「KYLYN」バンド一度きりの再結成!
六本木ピットイン10周年ライブで「KYLYN」バンドが再結成されるというニュースを聞き、すぐさまチケットを購入。会場はよみうりランドのイーストシタアターです。「KYLYN」バンドを聴けなかった後悔をこの日で払拭することができました(笑)。メンバーもほぼオリジナルメンバーが揃っています。
周年ライブに出演ミュージシャンはオルケスタ・デル・ソルや渡辺貞夫バンドなど超一流どころでした。
ライブで初めて感じた異様な熱気は…
「KYLYN」バンドが出演する前のよみうりランド・イーストシアターは異様な空気に包まれていました。イーストは野外コンサート会場で完全な満席です。多くの人が発するある種の熱で、何かこの場所で暴動の様なものが起きそうな気配を私は感じていました。周囲の空気、雰囲気が異様なのです。人間の熱をこのような形で感じた事は一度も経験したことはありません。本当に何かが起こる前触れを強く意識しました。別に誰かが何かをしようとしている訳ではありません。そこに存在する人間の吐き出す期待感が空気で伝わってくるのです。この異様な空気は後にも先にも経験がないことでした。 渡辺香津美さんが登場し、
「こんにちは。10年ぶりに帰ってまいりましたキリンです!」
刹那、「インナーウインド」のイントロを弾き出しました。イーストは割れんばかりの拍手と歓声に包まれました。
僅かの間にデジタル化が進んだ坂本龍一氏のシンセサウンド
インナーウインドでは坂本龍一さんはフェンダーローズピアノではなく、ヤマハのDX7系のFM音源による、所謂DXローズの音を多用していました。
また、彼の前にはフェアライトCMIの鍵盤部分が置かれ、インナーウインドのブラスサウンドを出していました。ザラっとしたサンプリングブラスの音が当時を象徴していました。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:渡辺香津美 KYLYN
- アルバム:「KYLYN」「KYLYN LIVE」
- 曲名:「マイルストーンズ」、「アイル・ビー・ゼア」「インナーウインド」
- 使用機材:ヤマハDX7、アープ・オデッセイ、フェアライトCMI
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