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蠱惑の楽器たち 25.音楽と電気の歴史1

2021-12-30

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

現代において、音楽と電気は無関係ではいられません。電気と音楽のかかわりを明治ぐらいから現在まで、ざっくりと表にしてみました。

■ 音に関係するインフラ

電気を利用する上でインフラは重要です。電池、電気、通信など音に関係しそうな項目を並べてみました。

電池の歴史は古く、初期の電気機械は、電池で動くものがほとんどです。現在の電池の形状は、大正から引き継がれたものです。戦後になると小型の電池も作られるようになりました。

家庭用電気は大正から徐々に普及していきます。初期のころは主に照明や暖房器具で使われていましたが、戦後になると、多目的に使われるようになります。

通信は電話からはじまり、無線、ラジオ、テレビ、携帯電話、インターネットという流れになっています。情報の基盤であり、音楽産業も大きく影響を受けます。

映画がスタートするのは明治後半からです。身近な娯楽として大きく発展していきます。はじめは音がないサイレント映画で、音担当としては活動弁士や楽器演奏家がいました。これが30年ほど続きます。サイレント映画の時代が長かったのは、充分な音量の再生装置がなかったためです。昭和になると再生装置が実用化され、音のあるトーキー映画へ置き換わります。

■ 要素技術とメディア

音楽は元々生演奏でした。それが明治以降、さまざまな技術革新と共に変化し、大きな産業として育っていきます。

実用化された初めの音響装置は蓄音機の類や電話となります。電話は電池を使い、蓄音機は電気を使わない完全な機械式が主流でした。そのため音量もそれほどありませんでした。その後レコードは規格化され、音量、音質の改善も目覚ましく、一般家庭にまで普及していきました。レコードの大量生産は、音楽産業のあり方を一変させました。またラジオやテレビとの連携で、音楽産業はますます拡大していきます。レコードからCDへと置き換わって同じビジネスを継続しますが、2000年以降はインターネットの本格的普及と、音楽のデータ化により、旧来のマスマーケットが崩壊していきます。技術革新とインフラの上に産業が成り立っていることは明らかで、常に時代に合わせた手法が求められます。

要素技術を見ていくと、上述の記録装置と、音の入力装置であるマイク、増幅装置となる真空管やトランジスタを利用したアンプ、そして音の出力装置のスピーカーという順で発展しています。マイクは明治に発明されたカーボンマイクが増幅装置不要という意味で優秀で、80年代まで使われていました。電気による増幅装置は真空管技術が安定するまでは作ることが出来なかったため、それまではスピーカーも現在のようなものは存在していません。また現在主流のマイクも増幅装置が必要なため、同じような状態と言えます。電気を使った音響装置は、増幅装置が無くては発展が困難でした。1910年代に真空管が実用化され製品が作られるようになると、マイク、スピーカー、電気楽器などが一気に開発されるようになります。1960年代になると真空管からトランジスタへと置き換わり、より小型で安価な機器が作れるようになり、コンピューターも現実的になり、飛躍的に発展していきます。80年代に入ると本格的なデジタル到来となり、音響機器の多くがデジタル化されていきます。PCがより高性能になると、ソフトウェア化へと進み、物理的な機器がエミュレートされていきます。

■ 楽器と電気

楽器も充分な音量が出せる真空管アンプとダイナミックスピーカーが登場してから発展しています。 電子楽器として有名なテルミンは1920年に発明されましたが、成功せず長いこと忘れられていましたが、シンセサイザーで有名なモーグがテルミンを製造販売するなどして再登場させています。その後も物珍しさから、たまに脚光を浴びる時期が断続的に訪れているようです。

1930年代から実用的な再生装置が作られるようになったため、それと共にハモンドオルガンなどが普及していきました。電子技術が発展し安価に電子楽器が作られるようになると、電気機械式とも言えるハモンドオルガンは価格と利便性の悪さから衰退していきました。同じように物理的に音を鳴らし電気増幅するエレクトリックピアノも電子技術の発展と共に衰退していきます。そして電子楽器、もしくはシンセサイザーへと置き換わっていきます。トランジスタを使ったアナログ回路から、ICを利用したデジタル化へ、そしてソフトウェア化へという流れは、他電子機器と同じ道を歩んでいます。

音量が小さかったギターは電気を使うことで、大音量を実現する以上に、新しいギターの可能性を広げました。しかし基本原理は1930年当初からさほど変化もなく、他の分野に比べると原始的な状態を維持し続けています。このことは具体的な要求がなければ発展しないことを意味しています。ガラパゴス化とも言える状態です。

■ この100年の流れ

大きな流れを眺めると、必ずポイントとなる要素技術があります。そして周辺技術と共に発展し、それを土台とする産業が生まれたり、衰退したりしています。多くの分野が絡み合って相互に影響を与えているのは明らかで、10年、20年という単位で大きく流れが変わっているように見えます。印象としては生物の進化の過程に似ているようにも見えます。飛躍的に進化する種がある一方、淘汰される種もあります。中には昔と同じ姿で生き続ける種もいるという具合です。

2000年以降は、やはりインターネット中心に時代が動いています。物理的なものがソフトウェア化されるだけでなく、既存サービスや既存メディアをも取り込んでしまっています。この勢いは、しばらく続くでしょう。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
blog https://achapi2718.blogspot.com/
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