説明上、発声の区分として、呼吸、声帯、共鳴の3つに分けています。今回は声帯についてです。声帯は声の音源に当たり、音程と声質を決定付ける重要な部分です。シンセサイザー的にはオシレーターに相当するところとなります。
■ 発声における声帯の役割とその仕組み
声帯は息を吸うときは大きく開き、声を出すときは閉じます。下図は発声時の声帯の断面で、閉じた状態です。肺からの気圧が高くなると、閉じた声帯の隙間から空気が漏れますが、そのとき微妙に開閉を繰り返すことで、粗密波が生まれ音程となります。440Hzを出す場合は、1秒間に440回開閉しているわけです。人は筋肉で、このスピードをコントロールできないので、呼気による気圧差で振動しています。音程は声帯の引っ張り具合等で決まります。振動数からも想像できる通り、声帯にはそれなりに負荷がかかります。無理をすると、すぐに炎症を起こします。
声帯の構成要素としては、大きく分けて声帯筋の硬い部分と、表面がゼリー状の柔らかい部分に分かれます。全体が振動する場合と、表面だけ振動する場合があります。
声帯は音程を持った疎密波を作り出すので、楽器で言うとハーモニカなどの自由リードに近い構造となっています。自由リードはリードの長さなどを変えられないため、音程の数だけリードが必要になりますが、声帯は張り具合等で、音程や音質を変化させることができる万能リードというイメージです。
男女で声帯の長さが大きく違います。女性は10~15mm、男性は15~25㎜程度となります。声帯の長さで出せる最低音は、ほぼ決定され、女性が男性のような低音を出すことは声帯としては難しくなります。高域に関しては、男性でもテクニック次第で、女性のような高い音まで出すことができます。
■ 地声について
地声の一般的なイメージは、男性の低く大きな、ややガラガラしたしゃべり声です。地声は、声帯閉鎖を強めにし、比較的厚く閉じている状態。そこへ強めの呼気で無理やりこじ開けるイメージです。こうすることで硬い声帯筋も振動します。きれいな振動ではなく、濁り気味の音になり、音量も大きくなる傾向です。厚めの声帯を目一杯使うことになるので、音域は狭く、その人の出せる低域側の声となります。振動数分だけ声帯が強めにぶつかり続けるので、声帯への負荷が大きい発声と言えます。日本語は有声音が多いので、大声を使う職業では声帯を痛めやすいです。
歌の場合、プロの歌手で地声を使う人は、ほとんどいないと思います。地声に聞こえても、それは地声っぽい裏声だったりします。
■ 裏声について
裏声の一般的なイメージとしては高めの弱弱しい声でしょうか。裏声は主に声帯表面が振動していて音量も出ませんが、声帯への負荷は小さめです。また声帯が軽く閉じられているか、閉じきれていない状態のため、息漏れノイズを伴う場合が多いです。高音域が出しやすいため、地声よりも、はるかに広い音域をコントロールしやすい発声です。
歌の場合、裏声から発展した歌唱をする人が多いと思います。広い音域を楽に歌えて、声帯の負荷も最小限なのですから当然と言えます。
■ 地声でも裏声でもないように聞こえる声
ポピュラー音楽で使われている、いろいろな呼ばれ方をされている歌声です。音色的には上記の地声や裏声の両極端な発声ではなく、中間あたりに聞こえます。人によっては地声っぽい場合もありますし、裏声に近い場合もあり、人それぞれです。
原理的には裏声発声がベースになっている歌手がほとんどのはずです。声帯半開きの裏声的な状態から、声帯を閉じ気味にすることで、広い音域を保ちながら力強い音色を獲得しています。音色は声帯の接触具合と、振動する部位で変化します。
■ 声帯の状態変化
音程は声帯の振動させる部分の長さと張り具合で決定されます。また張り具合は、音量とも関係してきます。
音量を出すときは呼気の量が増えるため、それに耐えられるように声帯を閉じ気味で張っておく必要があります。高域で音量が出ない場合は、声帯が開き過ぎか、張り方が弱く呼気に負けている可能性があります。ただ音量については共鳴も大きく関与してきます。
音色は主に声帯の接触具合で決定されます。接触を厚くすると声帯筋も振動し倍音が豊富になり音量は増大します。接触を少なくしたり、接触させないなど、開き気味に使うと、声帯表面の振動となり軽めの音になります。
声帯ができることは、引張り、開き具合の調整ぐらいです。それによって振動部の長さを変えたり、接触部の厚さ調整が可能になります。声帯は見えないので感覚に頼ることになりますが、無意識で発声するよりも、声帯の動きを把握しながらの方が思い通りにコントロールできるようになると思います。そのためには閉鎖した状態と、開いた状態を確認するところからはじめて、徐々に中間もイメージ出来るようになるとよいと思います。
■ 声帯と呼気圧のバランスが重要
声帯は、呼気によって振動していますので、呼気とのバランスが最も重要となります。呼気の圧に応じて臨機応変に声帯の状態を最適化する必要があります。また呼気は、あくまでも気圧が重要なのであって、勢いよく肺から空気を出すことではありません。強すぎる呼気は声帯を痛めてしまうし、息がすぐに切れてしまうためロングトーンもできなくなります。最も少ない呼気で、充分な振動を得ることが重要になります。
また強い高域を出すのが難しいのは、高度な技術の集大成だからです。安定した高圧の呼気が必要で、声帯は、その圧に耐えながら閉鎖も引張りも求められ、さらに声帯の振動は超高速という具合で、それぞれの部位が過酷な状態な上に、絶妙なバランスが求められるため大変なのです。張りと芯のある高音を歌える人は、とてもテクニカルということです。
■ 吸気でも声帯を振動
吸気でも呼気と同じように声帯は振動します。ただ低い音になるほど難しくなると思います。高めの音は接触が少ないか、ほとんど接触しないため、呼気も吸気もそれほど差がありませんが、低くなると声帯の接触具合が多くなるため、呼気に最適化してしまった声帯では、なかなか音が思うように出ないと思います。
声帯で作られた音は、そのまま口や鼻へと共鳴していきます。母音の発音には共鳴が欠かせません。また音量にも大きく関わってきます。次回は共鳴について書きたいを思います。
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