こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。 第12回目では、リッチー・カステラーノRichie Castellanoについて語ります。リッチーとはいっても、ブラックモアでもサンボラでも、ましてやライオネルでもありません。1980年生まれの(本稿執筆時点で)41歳、ニューヨーク出身の凄腕アーティストです。

殆どの人はリッチーの名前をご存じないと思います。彼はニューヨークで1970年代から活動するロックバンド、ブルー・オイスター・カルトの現メンバーで、プロデューサーとしても活動しています。それだけでもかなりのビッグネームですが、彼の真骨頂はYoutubeでの活動にあります。リッチーの偉大なところは、曲の全パートを自宅の地下スタジオで歌って演奏し、弦楽器・鍵盤・ドラムの音色プログラミング、音声と動画のプロダクションまで全部自身でこなしてしまう超マルチな才能です。その名を世界レベルに広めたのが、クイーンの”Bohemian Rhapsody”を一人で多重演奏した動画です。百聞は一見にしかず、この動画をご覧ください。故フレディー・マーキュリーの「あの」歌声だけでなく、重ねまくった「あの」コーラス、ブライアン・メイの「あの」ギター、そしてピアノ、ベース、ドラム。そしてイントロでは、原曲でのプロモーション・ビデオの世界観を懐中電灯一つで再現。もはや笑うしかありません。
■ リッチー・カステラーノ “Bohemian Rhapsody”
リッチーは、仲間とともにバンド・ギークスBand Geeksというカヴァー曲企画を続けています。これは、彼の身近なミュージシャンたちがコア・メンバーとなり、曲によってゲストを招くというプロジェクト形式で、名曲を次々に再現しています。コア・メンバーの中でも、女性ヴォーカリストのアン・マリー・ナッシオ(vo, b, g, key)、ドラムもキーボードもこなすアンディ・アスコレーセ(dr, key, vo)のテクニックは凄まじく、原曲以上の演奏力を見せるものですから、本当に困ったものです。
次の動画はクイーンとデヴィッド・ボウイの共作”Under Pressure”。リッチーはフレディーの再現だけでも十二分なのに、ボウイの再現(あ、あとブライアン・メイも)までしていて、一体どれだけの歌唱力があるのかと思います。アン・マリーによる超高音の歌声も圧巻です。
■ バンド・ギークス “Under Pressure”
バンド・ギークスには、ギタリストのロン・“バンブルフット”・サール(元ガンズ・アンド・ローゼス、現サンズ・オブ・アポロ)などの有名人がゲスト参加し、ボストンやアイアン・メイデンなどの名曲を熱唱していて、ヴォーカリストとしてそんな実力があったのかと驚かされます。ミュージカル『ロック・オブ・エイジズ』に出演したシンガー兼俳優、コンスタンティン・マルーリスは、ヴァン・ヘイレンの”Right Now”でゲスト参加し、全盛期のサミー・ヘイガー並の歌声を響かせます。有名なアーティストばかりではなく、エミリー・ナッシオという無名ヴォーカリスト(アン・マリーと姉妹関係)も出てきて、ディオの”Holy Diver”やアラニス・モリセットの”You Oughta Know”を、まるで本家たちが取り憑いたかのように歌い上げています。
■ コンスタンティン・マルーリス&バンド・ギークス”Right Now”
■ バンド・ギークス “You Oughta Know”
バンド・ギークスがカヴァーしている曲はポップス、R&B、ロック、プログレ、メタルと幅広すぎて、その引き出しの多さは圧倒的です。ぶっ飛んだ例を挙げるとキリがないのですが、特に衝撃的だったのがイエスのアルバム『Close to the Edge(邦題:危機)』の全曲カヴァーです。全曲とはいっても3曲しかありませんが、原曲を知らない方に解説すると、1曲目は18分以上あり、私のヘタヘタなギターでは最初の1小節すら弾けない...そんな曲です。(以下、プログレな皆様のみに通じる言葉でお届けします)爆笑したのはイントロのSE再現とリック・ウェイクマンのマントへのトリビュートです。そして流涙したのはベースとスネアのサウンドです。クリス・スクワイアのゴリゴリなベースをHelixで再現し、ビル・ブルーフォードのスネアとタムは、電子ドラムをトリガーとしてサンプリング音源を用いて再現しています(その過程を解説する動画も作っています)。本家のイエスにおいては、クリス・スクワイアが亡くなってしまい、ギターのスティーヴ・ハウもテンポについていけなくなって久しいですから、バンド・ギークスの演奏は、本家以上に本家っぽく聞こえます。
■ バンド・ギークス“Close to the Edge”
彼らの活動を見ていると、世の中にはとんでもない才能を持った人々がたくさんいることに気づかされます。最近、1960~1980年代のロックは「クラシック・ロック」と呼ばれるようになりました。それらを作った本家のアーテ ィストたちは、どんどん鬼籍に入っていきます。しかし、次世代によって、その素晴らしい演奏が引き継がれ、文字通りクラシック化していくのです。個人的には、こういう感慨が『Close to the Edge』の1小節目を練習する励みになるのです。まだ弾けませんが。
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