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Rock’n Me 8 洋楽を語ろう:スティーヴ・ミラー・バンド

2021-11-29

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第8回目では、1960年代から現在まで活動し続けるアメリカのロック・バンド、スティーヴ・ミラー・バンドThe Steve Miller Band(以下、SMB)を紹介します。

SMBは、ギタリスト&ヴォーカリストのスティーヴ・ミラーを中心に、1966年にサンフランシスコで結成されました。1968年にグリン・ジョンズのプロデュースのもとデビュー作『Children of the Future』を発表しました。当初はブルース・ロックやサイケデリック・ロック路線で、後にソロ・デビューしたボズ・スキャッグス(g, vo)やベン・シドラン(key, vo)、ジャーニーのメンバーとなったロス・ヴァロリー(b)もSMBの出身です。

1973年発表の『The Joker』からはシンプルで軽快なロック路線となり、タイトル曲のシングル・ヒットも手伝い、アルバムははじめて全米第1位となりました。1970年代後半から1980年代前半にはキャッチーな路線が進み、シングル・ヒットを次々に飛ばしました。『Abracadabra』(1982年)のタイトル曲は世界的なヒット・シングルとなりましたが、シンセのリフが延々と続くポップな曲調はバンドの行き詰まりをも表し、その後は活動が停滞しました。しかしその後は、ブルースに回帰した作品をマイペースに出したり、旧友ポール・マッカートニーのアルバム『The Flaming Pie』(1997年)に参加したりしていました。新形コロナウイルス感染症の流行が起きるまでは、アメリカでのライヴ活動を地道に続けて、コンスタントに観客を動員していました。

このコラムを書くぐらいにSMBが大好きな私ですが、どうしても分からないのは、SMBの魅力です。スティーヴのルックスは昔も今もダサダサです。小さい頃から、あのレス・ポール(そう、あのギターの名付け親です)と家族ぐるみで交流していた、という英才教育環境はありました。しかし、ギターが特別に上手いわけではないです。歌はヘナヘナふわふわしていて、ヘンなコブシも効いていて、どちらかというと下手な方です。歌詞やリフのセンスは良いのですが、自分の曲を使い回す悪癖があり、大ヒットした”Fly Like An Eagle”(1976年)のリフは、ポール・マッカートニーとの共作”My Dark Hour”(1969年)の再利用です。もっとも本人の弁によると、”My Dark Hour”をコンサートで演奏しているうちに長尺のジャム・セッションとなり、そこから発展した曲が”Fly Like An Eagle”とのことですが。

■ SMB “Fly Like An Eagle”

■ SMB “My Dark Hour”

ついでに言うと、曲もどこかで聞いたことのあるようなパク…いえいえ、トリビュート感が満載です。”The Joker”のリフは、前年発表されたアラン・トゥーサンの“Soul Sister”そのもので、キーまで一緒です。”Rock’n Me”はフリーの”All Right Now”、”Jet Airliner”はクリーム版の”Crossroads”…と、叩けば叩くほど埃が出てきます。

■ SMB “The Joker”

■ アラン・トゥーサン “Soul Sister”

褒めているのかけなしているのか分からない文章となってきましたが、そんな私はSMBが大好きです。派手さは全くないものの、作詞作曲、そしてタイムリーに加えるギターフレーズのセンスはなかなか抜群です。そんな彼の文才を象徴しているのは初期のシングル曲、“Living in the U.S.A.”(1968年)です。1960年代、ベトナム戦争への反対運動がアメリカ国内で盛り上がるなか、スティーヴはヒッピー運動に吸い寄せられてサンフランシスコに移住しました。「自由が良いな。政治家やテレビは黙ってろ。人種に関係なく国に期待しているのに、悔しい思いをしている。誰か助けてくれよ。誰かチーズバーガーをくれよ」と、当時のアメリカ人が感じていたアンビバレントな視点を、半分冗談、半分本気の歌詞で表していました。念のため、ここでの「チーズバーガー」は、アメリカ人が誰でも「旨い」と感じる国民食として引用されています。このように、アメリカ人が誰でもニヤっとするような気楽さ・親近感・心地良さが、アメリカ限定でウケている(というか、アメリカ外で評価されづらい)一因かと思います。

話は多少それますが、歌詞で地名を入れるとコンサート盛り上がる、というのはよくある話です。古い例ですと、ドゥービー・ブラザーズの”Black Water”で「Mississippi moon...」というフレーズがあり、コンサートでは「ミシシッピ」を会場の地名に替えて歌うと、その瞬間が一気にヒートアップします(当然、東京公演では”Tokyo moon”と歌われていました)。最近ではジョン・メイヤーの”Who Says”で「Tokyo」という歌詞があり、来日公演ではそこが曲の盛り上がりポイントとなっていました。SMBは、こういう盛り上がりのセンスに長けていて、これがまたアメリカ人にウケるのです。例えば、このコラムのタイトルとなっている”Rock’n Me”(1976年)の歌詞では、アメリカの地名が連発されます。「俺はアリゾナ州フェニックスから(ワシントン州)タコマまで行った。フィラデルフィア、アトランタ、ロサンゼルス…北カリフォルニアの女の子は暖かくて...」と、アメリカの東西の都市名をくどいまでに連呼し、聴くアメリカ人は多かれ少なかれ親近感を味わいます。そして、アメリカの田舎道を運転するときにこの曲がかかると、これがまた心地良くて、ついついお気楽にアクセルをふかしてしまうのです。

■ SMB “Rock’n Me”


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ジョシュア

1960年以降の洋楽について分かりやすく、かつマニアックに語っていきます。 1978~84年に米国在住、洋楽で育ちました。2003~5年に再度渡米、コンサート三昧の日々でした。会場でのセットリスト収集癖があります。ギター・ベース歴は長いものの永遠の初級者です。ドラム・オルガンに憧れますが、全く弾けません。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに関するメールマガジン『Depot Street』で、別名義で寄稿しています。
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