文学と音楽と
ポール・ギャリコ / スノー・グース(白雁)

文学作品からインスパイアされた音楽は数多く存在します。古くは聖書を題材にクラシック作品が多く作曲され、オペラなどは戯曲と音楽が相互に影響を受け合っていた歴史がありました。
今回、ご紹介するのは1975年にイギリスのバンドが、ポール・ギャリコの短編小説にインスパイアされ制作した『スノー・グース(白雁)』です。
ポール・ギャリコはアメリカ生まれの小説家。映画『ポセイドン・アドベンチャー』の原作者としても有名です。彼の出世作となったのが、この『スノー・グース(白雁)』でした。
1930年にサタデー・イブニングポストに発表後、1941年にオー・ヘンリー賞を受賞。醜い容姿に反し、心優しい画家のフィリップ・ラヤダーと少女フリスとの交流を描く物語です。傷ついた白雁を通じて生まれた友情、そして愛情と言うより精神的な恋愛への過程が少女の成長に合わせて芽生えていきます。
戦地に仲間を助けに出かけるラヤダー。そして、帰ってくる人の居なくなった灯台(ラヤダーのアトリエ)に舞い戻って来た白雁を見て、フリスは初めて自分の本当の気持ちに気がつきます。「フィリップ!恋しいよぅ」
あっという間に読めて、心に残るものが多い小説です。

イギリスのロックバンド「キャメル」がこの作品を取り上げたのは1975年。彼らの3枚目のアルバムになります。アルバムはオーケストラを交えて、すべてインストゥルメンタルで構成されています。
企画段階から小説をモチーフにした作品作りが念頭にあったようです。ベーシストの提案により、『スノー・グース(白雁)』が選ばれました。当初はリスナーへのイマジネーションを助けるため、物語の朗読を曲間に挟むアイデアもあったのですが、出版社から許可を得ることが出来なかったといいます。
また、嫌煙家でもあったポール・ギャリコがタバコの銘柄を連想させるグループ名に自身の作品タイトルを使われたくないと反発。結果、キャメルのアルバムは「Music inspired by…」というフレーズがタイトルに追加され、ようやく完成しました。

そんな産みの苦労もあったようですが、結果、バンドとして最大のヒットとなりました。45分弱の楽曲が、ちょうどこの短編小説を読むのにぴったりな時間という偶然もあったのかもしれません。
情景描写という音楽の持つ力が遺憾なく発揮された名盤と言えます。未読・未聴の人には、ぜひ合わせて読んで・聴いていただきたい作品です。