みなさんは「リモートセッション」をご存知でしょうか?新型コロナウィルスによる緊急事態宣言を受け、音楽家が取り組み始めた離れながらにして共に音楽を楽しむセッションです。前回、その録音・録画の過程を紹介しました(前回の記事はこちら)。今回はその続きから音源ミックス、映像編集、そして公開までの記録をお届けしたいと思います。
題して「おうちでジェネシスやってみた!」Part2
登場人物
中島・・・ボーカル、コーラス
松田・・・ギター
須藤・・・ベース、その後リズム、キーボードなど、ミキシング
源中・・・ドラム
【前回までのあらすじ】リモートセッションをするべく、中島、松田、須藤の録音と録画は済んだもののドラムパートの源中からの音と映像が届かない。一体何があったのか?そこへ「私抜きで進めていただいても構いません」という悲しいメールが送られてきたのでした。一体、彼の身に何が!!!
●ドラム・パート

4月に千葉県から福島県に単身赴任となった源中です。コロナの影響で実家にすら帰れないので、手元に機材らしいものは何もないという状況でリモートセッションはスタートしました。結局5月末に一時帰宅して持って帰ってきたのがヤマハのMIDIパッド「DTX-MULTI12」。翌週の土日に課題曲を聴きながら、DTXの12個あるパッドに音色を割り当てていったのですが、ふとあることに気がついてしまったのです。「バスドラム用の拡張パッドが必要!?」
試行錯誤の上、左手でスネアとバスドラムパートを担当することにしたのですが、これが難しい(トリロク・グルトゥが涼しい顔をしてやっていたが、こんなに大変だったとは)。結局土日まるまる時間をかけたものの収録できるレベルには到底届かず、自分抜きでセッションを完成してもらうしかないか、と中島さんに相談してみることに。「じゃ、スタジオでドラム録ったら?」とのアドバイスがあり、確かにそれもそうだなと考え、翌週末実行に移すことにしました。
YAMAHA ( ヤマハ ) / DTX-MULTI12 電子ドラムパッド
現在の住まいの近くに3件のスタジオがあることが分かり電話してみたが、コロナの影響で営業自粛との返事が…。最後の1件に連絡して、何とか予約を入れることができました。

いよいよ当日になり、スタジオに向かうと案内された部屋は一室しかなく狭い!場所があるだけマシと思い、入室しようとすると「土足厳禁なのでこちらのサンダルに履き替えて下さい」と注意を受けることに。ドラムをこれから叩くのに、サンダルかー。しかも指定のサンダル(涙)。泣きながらセッティング開始。
備え付けのドラムセットは全くメンテナンスされていないようで、金属パーツは錆だらけ、フットペダルはもはや何の調整もできない。スネアやタムのチューニングにできうる策を講じたが、それだけで30分以上経過。
セッティングが完了し、収録用のマイクを借りにフロントへ行くと「さっき土禁です」と言ったおじさん一人。マイクを借りたい旨を伝えると「私は手伝いで来ているので詳しいことは分からないです」とあり得ない返事。マイクは何とか借りられたが、スタジオ天井に付いているべき録音用マイクがなぜか1本しかついておらず、もう一本はケーブルが死んでいるから外しているそう…。結局ボーカルマイク3本を借り、色々位置を変えて、何とか録音ができる状態にしました。
ミキサーからの音を備え付けのCD-Rレコーダーに録音できると聞いていたので、持ってきたCD-Rをレコーダーに入れるべくディスクトレイの開閉ボタンを押してみる。今度は、トレイが動かない。「トレイが開かないのですが」と言いに行くと「あれ、また開かなくなっちゃったんだ」と顔の表情をかえずに独り言。結局レコーダーも使えず、これまた自前のPCMレコーダーで代用することにしました。ミキサーと繋いだものの、なぜか録音レベルを調整しても音が割れてしまうため、ミキサー経由は諦め、PCMレコーダーのステレオマイクで録音することに。よって、上記の写真はマイクを立てたけど、使い物にならなかったという悲しい記録の写真です(笑)
蓋を開けてみれば、3時間スタジオを借りて、まともに収録を開始できたのは2時間後。満足行くレベルのものは残念ながらできませんでした。いかに自分の機材に身体が馴染んでいたかがいい意味で理解できたのはせめてもの収穫でした。この音で何とかなるかしら…と結局、須藤さんに委ねることに。
《録画》映像記録は三脚を立て、デジカメで撮影。録音と同時に行っています。
「録音・録画完了」
スタートして1ヵ月。ようやく全員の音と映像素材が揃いました。メンバーの音源・映像素材は須藤さんの元に送られ、公開に向けての作業に入りました。データはすべてインターネットで集約。どんな大きな容量のデータでもパッと送れてしまうので便利な世の中になったものです。
「音楽ファイルのミックス作業」
基本的には、誰がどんな演奏をしているか須藤さん以外、誰も把握していません。ではミックス段階を覗いてみましょう。
メンバーのみなさんから音源をいただきましたが、割と簡単にミックスはできてしまいました。一番初めに送っていただいたギターパートは、DAW上の同じタイムコードになっていたので、ファイルをインポートしただけで、実はミックスなんにもしていません。音量合わせただけで終了しました。
ちなみに、ミックスはCockos ReaperというDAWを使っています。動作が軽いので、思いついたことをすぐに試せるので便利です。自分のベースとキーボードの録音、ドラムの打ち込みはPro Toolsでやったので、そこからwavを書き出し、Reaperにインポートしてあります。それと、本家の音もDAW上にトラックを並べておきました。

数日後、ボーカル、コーラス等が送られてきました。これは、おそらくDAWの環境のせいか、何故かファイルの頭の位置がずれていたので調整しました。あと48kHz/24bitで作業していたのですが、送られてきたボーカルパートのファイルは44.1kHz/16bitでした。でもReaperはどんなファイルも同じセッションに混在できるので便利です。また、録音状態が何故か音がシャリシャリになってしまっていたので、かなりマルチバンド・コンプで補正しています。その後、馴染むようにリバーブなどのエフェクトも加えました。
ドラムの録音ファイル音質はシンバルが少し強めだったので、こちらもダイナミックEQで補正してあります。スネアの音像も少し弱かったので、すべてのスネアをスライスで切り出し、サンプルをトリガーして薄く足しています。本家の音に近く、実際に源中さんの叩いているドラムに違和感が少なく馴染んだのでAKAI XR10のスネアのサンプリングを使用しています。

「映像と音楽データのミックス」
メンバーから送られてきた演奏風景。実際に演奏している場面の記録もあれば、完全当て振りの人もいます。すべてはクリック音付き音源をガイドにしているのでずれることはないはずですが、当て振りをしている人はよ〜〜〜く見ると…と思ったけど意外とあっているように見えますね。黙っていればバレないのですが、実際はギターとボーカルとキーボードが当て振りをしています。動画の編集は、まさにこのコロナ自粛中に動画編集ソフトDavinci Resolveを勉強して簡単な動画編集ならできるようになりました。またDavinci Resolveのオーディオ機能もとても充実しているので、一瞬Davinci Resolveでミックスしようか・・・と思ってしまいましたが、それはやめておきました。
Blackmagic Design ( ブラックマジックデザイン ) / DaVinci Resolve Studio

「いよいよ動画公開!」
何だかんだとこの4分ちょっとの動画にそれぞれのドラマが詰まっています。普段、当たり前のようにスタジオなどで顔を合わせている音楽仲間との共同作業はミニレコーディングでもあり、不思議な達成感がありました。2020年6月現在、ライヴハウスでの演奏などは大手を広げてお客様を呼べるような状況ではありませんが、こういう形でも音楽の発信ができるというのも悪くはないなと思った次第です。今回、リモートセッションを通じて離れていても仲間と音楽ができる幸せも再確認しました。
そして完成したのがこちら。
Challenge The Remote Session #おうちでジェネシスやってみた!
まるで同じ場所にいて演奏しているかのような感じが伝われば幸いです。
さ、打ち上げの「オンライン飲み会」はいつにしようか?
Genesis “ Throwing It All Away” Cover 2020
Performed by 復刻創世記(http://www.genesis-tribute.com)
中島靖雄・ボーカル、コーラス
松田 敦・ギター
源中 功・ドラム
須藤俊明・ベース、リズムプログラミング、キーボード
プロデュース&映像編集 by 須藤俊明