ブルース・ビックフォードというアニメーション作家をご存知でしょうか。名前だけでは「誰それ?」という感じかもしれません。フランク・ザッパの映像作品(特に70年代)を見たことがあれば、彼のアニメーションを見ているはずです。「あぁ、あの凄い勢いで変化し続けるぐちょぐちょ粘土アニメの!」と。そのアニメーションを初めて見た時の衝撃は言葉に表せないほどでした。
FRANK ZAPPA - INCA ROADS (A TOKEN OF HIS EXTREME)
Eagle Rock (DVD : A Token of His Extreme)ブルースのアニメは2:40から登場。その形容不可能な衝撃にすっかり魅了された私はなんとかブルースの映像を入手したくなりました。そして、ようやく手に入れたのがこの作品。「The Amazing Mr.Bickford」です。もちろん日本未発売の輸入版。こちらもフランク・ザッパの監修で発売されました。

メディアがDVDに移行していくと、ようやくフランク・ザッパの過去のライヴ作品が国内でも発売され始めました(ベイビー・スネイクス、ア・トークン・オブ・ヒズ・エクストリーム、ダブ・ルーム・スペシャルなど)。20年遅れてブルースの作品がお茶の間にやってきたという感じでした。ネット社会になり、彼のサイトを発見したもののその活動はやはりベールに包まれたものでした。長い活動歴に対し、作品が圧倒的に少ない(しかも絶版で高値がついている!) それもそのはず。フランク・ザッパの元を離れた80年代以降、ブルースはシアトル郊外のガレージに篭り、黙々と作品を作り続けていくというまるで仙人のような生活を送っていたからです。メディアに乗せて作品を発表するより、制作し続けること自体がアーティスティックな活動だったのかもしれません。そこには膨大な数の未発表作品があると言われています。
ところがここに来てブルースの名前にスポットが集まり始めます。それも日本において。

2016年にGEORAMA2016にて偉大なアニメーション作家の一人としてブルースが紹介されました。また同年、宇川直宏(DOMMUNE)のキュレーションによりブルースの作品と日本の音楽家がコラボするライヴ・イベントが行われます。名乗りを挙げたミュージシャンは坂本慎太郎、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、small BIGs(小山田圭吾&大野由美子)、EY∃(※最後のEのみ左右反転です)、トクマルシューゴ、菊 地成孔など錚々たるアーティスト。ブルースも来日し、チケットは即日完売の伝説のライヴとなりました。イベントは「チャネリング・ウィズ・ミスター・ビックフォード」と名付けられ日本未発表の彼の映像作品にそれぞれのアーティストが音で呼応していくという即興性の強いイベントとなりました。
その模様がこちら。
Mr.Bickford in WWW
Mr.Bickford in LIQUIDROOM
そして2019年には2日間のみ、このライヴ・ドキュメンタリーの大音量上映が行われました。これだけのミュージシャンの演奏でも、まったく遜色なく、それどころか音楽を凌駕するアニメーションは他にはないのでは?と思える程の強烈なコラボレーションでした。
2019年4月28日、残念ながらブルース・ビックフォードはこの世を去りました。孤高と呼ぶにふさわしいアーティストの偉業をもっとたくさんの人に知ってもらおう。その一周忌に当たる2020年本格的な追悼上映が決定しています。国内外の素晴らしいアニメ作品を紹介していく株式会社ニューディアーによると「さらなるブルース・ビックフォードの未発表作品の発掘や公開に尽力していきたい」とのこと。ぜひ、一人でも多くの方に映像だけでナチュラル・トリップ出来て衝撃を受ける「あの感覚」を味わっていただきたいです。

プロメテウスの庭(1988年)(写真提供:NEWDEER)
2月から渋谷、京都、各地へ上映機会を増やしていくこの追悼上映。彼の残した作品群、そしてドキュメンタリーといった2つの上映プログラムで構成。特にドキュメンタリー「モンスター・ロード(2004・米)はブルース・ビックフォードの私生活や思想まで追求した野心作となっています。詳細・上映時間などは下記公式ホームページをチェックしてください。

【ブルース・ビックフォード/プロフィール】
1947年アメリカ生まれ。高校時代に手にした8mmフィルムを手に、独学でクレイ・アニメーションを作り始める。アメリカ海軍としてベトナム戦争に従軍後、本格的にアニメーション制作をスタート。フランク・ザッパに才能を認められ、「Baby Snakes」などでコラボレーションを行う。その後、シアトル近郊の生家に戻ったビックフォードは、母親が遺産として残した家にこもり、極小と極大が必然的に混ざり合う宇宙的メタモルフォーゼ・アニメーションの制作に専念。『プロメテウスの庭』などのクレイ作品、『このマンガはお前の脳をダメにする』などの線画アニメーション作品を遺す。2004年に公開されたドキュメンタリー『モンスターロード』では、その驚愕の人生と(255歳まで生きるための)私生活が明らかにされ、作家本人にも注目が集まる。晩年は1000ページ以上に及ぶグラフィック・ノベル制作を行っていた。自宅のガレージには、いまだに撮影されないままの線画アニメーションの原画が一時間以上残っていると言われており、ビックフォードの創造世界は、その死後もまだ尽きることがない。
ブルース・ビックフォード(1947-2019)追悼上映「ブルース・ビックフォードと(の)アメリカ、そして宇宙」

予告編
■劇場情報
渋谷・イメージフォーラム 2020年2月1日(土)〜 京都・出町座 2020年2月14日(金)〜 ほか
■公式 ホームページ
https://www.channeling-bickford.com/
(画像提供/株式会社ニューディアー)