
子供の頃より、レイ・ハリーハウゼンの映画が好きでした。コマ撮りで命を与えられたクリーチャーたちは、まるで生きているかのように画面を縦横無尽に動き回り、実写との合成はまるで別世界を見るようでした。レイ・ハリーハウゼンは、20世紀の映画における特撮技術の歴史を作ってきた人物で、アメリカのストップモーション・アニメーターの第一人者です。ストップモーションは人形をひとコマひとコマ少しずつ動かし撮影。それを実写に重ね連続再生することであたかも怪物などが動いている様に見せてくれる撮影手法です。気の遠くなる作業です。こうして作られた映画は『シンバッド七回目の航海』『アルゴ探検隊の大冒険』『タイタンの戦い』など。後の特撮映画の監督や技術関係者に大きな影響を与えました。80年代に入り、特撮の技術が進歩し、手間とコストのかかるストップモーションは徐々に映画業界から衰退していきました。
ところが、映画と交差するように、80年代に入りストップモーションは新たなジャンルで蘇りました。それはミュージック・ビデオにおいてです。コマ撮りの持つ微妙なリアリティと音楽のリズムがベストマッチした瞬間でした。いくつかのMVでは、コマ撮りという手法を使って傑作映像が作られています。
A-ha / Take On Me
1986年のMTV Video Music Awardsでは6部門を受賞しました。コミック誌の世界に飛び込み、ロマンスに落ちる主人公。1枚ずつ描いたイラストが実写と交差。スタイリッシュな映像として当時は話題になった。スティーブ・バロン作
ピーター・ガブリエル / Sledge Hammer
1987年のMTVミュージック・ビデオ・アワードでは、ベスト・ビデオに選出。その他にも多数の賞を受賞しました。このMVには、コマ撮りアニメーターが多数参加しています。「ひつじのショーン」や「ウォレスとグルミット」のアードマン・アニメーションズのニック・パーク。ブラザース・クエイ。そして彼らが師と仰ぐチェコのヤン・シュワンクマイエルへとアーティストの注目も飛び火しました。監督したのはスティーブン・ジョンソン。
ピーター・ガブリエルが続いて放った曲たちもコマ撮りを駆使したものでした。
ピーター・ガブリエル / Big Timeチェコのシュールレアリスト・アニメーター:ヤン・シュワンクマイヤーも元ストラングラーズのメンバーだったヒューン・コーンウェルのMVを手がけています。1988年。
ヒューン・コーンウェル / Another Kind of Love時代はMTV時代へと突入し、番組用ジングルも作られました。ここではコマ撮りで制作された番組ジングルを紹介したいと思います。
塚本晋也作 MTVジャパン用ジングル(邦画:鉄男の監督)ヤン・シュワンクマイヤー作 MTVアメリカ用ジングル(チェコのシュールリアリスト)Jan Swankmajer ”flora”
手間のかかった作品は自然と人の目をひき付けますが、やはり根気の要る作業なのは変わりがありません。コマ撮り作品が登場するとわくわくして見てしまうのは、その裏側に制作者の労苦が垣間見えるからかも知れません。最近では、鉄拳のパラパラマンガもMVに登場しています。あれもコマ撮りのひとつですね。