■ 名機「預言者」から派生した名機達
クイーン名盤『オペラ座の夜』に「の唄(The Prophet's Song)」という楽曲があります。この「の唄」を作った時、彼らは『オペラ座の夜』に入れた「ボヘミアン・ラプソディ」が「キラー・クイーン」を遥かに上回る世界的名曲になるとは、メンバーの誰もが預言や予測はできなかっただろうと思います(笑)。
今回はから予測を超えた2つのシンセサイザーの話です。
1977年にデイブ・スミスというエンジニアが作った5ボイスのポリフォニック・シンセサイザーの名前はプロフィット5。プロフィット=預言者と名を冠したポリシンセでした。
預言者の出音の良さはYMOやマイケル・マクドナルドなど、世界中のプロミュージシャンから支持を受け、その存在を決定的なものとします。
この預言者の会社が預言できたかは定かではありませんが、預言者を超えたシンセサイザーが44年後、2021年にリリースされます。
そのシンセサイザーの名はTAKE-5。スペックはプロフィット5とほぼ同じ、5音ポリフォニックで2つのVCOに2つのLFO、4ポール・レゾナンス・アナログフィルター、エンベロープジェネレイター、フルサイズの44鍵ファタール製キーボード、ロースプリット機能、おまけに2系統のエフェクターまで内蔵されていました。
TAKE-5は機能的にはプロフィットと全く同じではありませんが、プロフェット5の7分の1以下という驚異的価格帯です。
さすがに預言者を作ったデイブ・スミスさんもここまでは想像も預言もできなかったと思います。時代の進歩とはそういうものです。
そして面白いことにこのTAKE-5も預言者を作ったデイブ・スミスさんによるものです。デイブ・スミスさんのTAKE-5はその素晴らしさに音楽サイト「ミュージック・リーダー」から2021年の「ベスト・ハードウェア・シンセ」に選出されています。
更に預言者の想像を超えた5音ポリフォニック・シンセサイザーが、3年後の2024年にリリースされます。
その名はTAKEではなく、TEO-5。
TEO-5はプロフェショナル御用達のオーバーハイム・ブランドです。
オーハーハイムはトム・オーバーハイムというシンセサイザー技術者が作った会社で、モーグ社、シーケンシャル社と肩を並べる偉大なシンセサイザー・メーカーです。
オーバーハイムの出音もプロフェット5と人気を二分する程の素晴らしさで、ウェザーリポートのキーボード奏者であるジョー・ザヴィヌルやパット・メセニー・グループのライル・メイズなど世界中のミュージシャンを虜にしました。
ところがその価格もプロ仕様。プロフィット5と同じ価格帯でした。到底、アマチュアには手が届きません。
ところが新しいオーバーハイムTEO-5の価格はTAKE-5と同程度の価格帯でした。サウンドハウスさんでリリースされた当時の金額はTEO-5、299,750円、TAKE-5は233,600円(2025年6月13日現在の価格はTEO-5、299,750円、TAKE-5は299,800円)。
狂喜したアマチュア・キーボーディストは多かった筈です。
そしてこの2つのシンセサイザーの形状は酷似しているというのが面白いところです。
下の写真をご覧下さい。撮影位置が少し違いますがパッと見で同じシンセサイザーの様に見えます。
SEQUENTIAL(Dave Smith Instruments) ( シーケンシャル ) / Take 5
この2つのシンセサイザーは大きさ、躯体、ピッチベント・ホイール、モジュレーション・ホイール、44鍵のキーベットは全く同じです。
メーカーカタログを見ると両者のサイズは636(W)×112(H)×324(D)mmで全く同じです。キーベットも44鍵でイタリアのファタール社製。全く同じです。
一方、ノブの形状やカットオフ・フィルターの位置は微妙に違います。
両者の重量も少し異なります。TAKE-5は7,7キロ、TEO-5は100g重い7,8キロ。使われている部品が違うからなのでしょう。
この2つのシンセサイザーは両方共シーケンシャルというメーカーからリリースされたものです。
現在、シーケンシャルは楽器全般を扱うフォーカスライト・オーディオ・エンジニアリングという会社のグループ会社として成り立っています。
設計思想や音色に関する方向性は異なる2つのメーカーではあるのですが、シンセザイザーの内部構造や躯体などを共有化することでコストダウンを図っています。
この辺りは車と同様です。フォルクス・ワーゲンとアウディが車のベースであるプラットホームを共通化することでコストダウンを実現した、という話はよく知られています。
2つの異なるブランドからリリースされた2つのシンセサイザーが、全く同じサイズなのはこういった理由が背景にあります。
■ TAKE-5とTEO-5の共通項は?
コストダウンを図る方法として共通躯体を用いていることから、両者シンセサイザーのサイズは全く変わりません。TAKE-5のプラスチック製サイドパネルにはTAKE-5というロゴが両サイドに大きく刻まれていますが、TEO-5にはそのロゴはありません。
パッチメモリーはファクトリー・プログラム256、ユーザープログラム256、合計512という数字も同じです。同時発音数も同じ5ボイスです。
低い鍵盤1オクターブ半部分でスプリットポイントを設定し、2オクターブまで低音部を下げられるロースプリット機能も同じです。
ステップ・シーケンサーとアルペジェーター機能についても同様のシステムを共通化しています。最大64ステップ、各ステップに5ノートを記録可能なステップ・シーケンサー機能も全く同じです。背面パネルの入出力端子も同じです。
■ 最大の問題は音です!
一番気になるのはその音です。私はサウンドハウスさんでTAKE-5、TEO-5の両方を購入しました。
両方とも素晴らしい音です。でも音は全く違います。
次回はこの音の話を考えています。乞うご期待!
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