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蠱惑の楽器たち 101.u-he PRESSWERK 概要

2024-12-27

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

プラグインエフェクトの中でコンプ(コンプレッサー)はEQと並んで人気カテゴリーのひとつです。 多くの場合コンプはDAWに付属されていますが、使用頻度が高く、サウンドに影響が出やすいため、あえて別売りのコンプを導入している人は多いと思います。 今回からu-heのコンプ PRESSWERKを紹介したいと思います。 u-heはDiva、Reproなどのアナログ系プラグインシンセが有名ですが、エフェクトもいくつかラインナップされていて、いずれも高品質でマニアックなものばかりです。 u-heの場合、ボタンひとつで自動的に処理してくれるようなプラグインはなく、それなりの学習を要求されるものばかりですが、ある程度理解してしまえば、大抵の要求に応えられるようになっています。 またu-heは20年以上前の古いプラグインもサポートし続け、機能強化と最新環境に対応し、無償バージョンアップされます。特筆すべきことは開発終了したプラグインがないということです。 そういう意味でも長く付き合えるブランドだと思います。

PRESSWERKは、どんなコンプレッサー?

PRESSWERKは今から10年前の2014年にリリースされたu-heのコンププラグインです。 内容的には、歴代アナログコンプのパーツをかき集めてきて、拡張し、カスタマイズできるようにしたコンプです。 主に接続方法を切り替えて振る舞いを変更することで、大抵の用途をカバーできる守備範囲の広さがあります。 一方、特定のビンテージコンプをエミュレートしたコンププラグインは、 ヒット曲に使われていた実機が存在するという説得力ある実績があります。 しかし用途が広いとは言えないので、どうしても複数のコンプを使い分ける必要が出てきます。

u-he ( ユーヒー ) / Presswerk コンプレッサー・プラグイン 簡易パッケージ版

上記は全てのパラメータを制御できるメインビューですが、以下の6種類のビューも備えています。 やや歴代アナログコンプを連想させるものが多く、用途に適したパラメータが並んでいます。 メインビューにはない複合的なパラメータがあったりして、メインビューでは思いつかないようなヒントも隠れています。 これらのビューは見た目優先というよりは、歴代コンプ特有のプロセスを優先したビューと言えます。 つまりビューごとに考え方を変えて操作することになります。 そのため、歴代コンプの予備知識は必須となり、u-heらしいマニアックな部分ともいえます。

2014年のアルファ版では、Urei 1176など明らかに特定の機種を連想させるようなビューもありましたが、完全なエミュレートという印象を避けるため、現在の特定モデルを連想しすぎないビューに落ち着いたようです。

アナログコンプの音

PRESSWERKは、アナログコンプの特徴を備えています。 具体的にはアナログ回路を通したときの独特の音質変化や、アナログ回路ならではの非線形な挙動があります。

基本的なコンプの役割としては、ある閾値以上の音量を下げるという圧縮機能がメインです。 現在のデジタル技術を使えば、理想的な圧縮を実現できますが、アナログ素子しかなかった時代は簡単ではありませんでした。 真空管、PWM、ダイオード、OPTO、FET、VCAなど様々な素子や方法を駆使し、その特徴が色濃く音に出ていました。 初期のころは圧縮率や反応スピードなどの自由度が少なく、その範囲で工夫をしていました。 現在はコンプ本来の圧縮機能を満たすだけであればDAW付属のデジタルコンプで事足りると思います。 しかしプロフェッショナルの世界では古いアナログコンプを使いたがる傾向にあります。 スタジオでは遅延のないリアルタイム性が求められる側面もありますが、それ以上にアナログ特有の色付けが望まれているように思います。その色付けは多くの場合、周波数特性の偏り、歪や倍音成分の付加によるものです。それらが非線形な特性を持ち、単純なふるまいをしないところがアナログ機材の魅力になっていると思います。

以下はPRESSWERKの歪をコントロールするサチュレーションセクションのブロック図です。 圧縮された音にだけ歪成分を加えたり、真空管やFETの特性をエミュレートすることが可能になっています。

下記は220Hzのサイン波を入れて、PRESSWERKのサチュレーション効果を上げていった状態です。 主に奇数倍音の付加が確認できます。 理想的な信号処理としては歪はよくないことで、アナログ時代ではクリーンな音を目指していました。 しかしデジタル時代になると、あえて歪を歓迎し、意図的に入れていくという流れになっています。

上記を音にしてみました。歪が加わると、もはやサイン波とは言えないレベルになります。 この現象は入力レベルによって大きく変化します。当然入力レベルが大きいほど顕著になります。

下はサチュレーションのAmountを-40~40dBに上げていった時の周波数特性です。 フラットな特性からはじまり、かなり変化しています。 これは入力された音の周波数によっては、大きく音質が変化することを意味しています。

さらにオシロスコープでも見てみます。サイン波が歪みだすと、フカヒレと言われる波形に変形し、さらに矩形波になって行きます。

PRESSWERKの歪に関しては上記のようにアナログ的な歪がエミュレートされていて、クリーンなデジタルコンプとの大きな違いとなります。 実際の圧縮時の挙動などは、次回以降で解説したいと思います。

次のサンプルはドラムを使ったものですが、圧縮目的よりも音作りに重点を置いた使い方となります。 はじめはノンエフェクト、次にスネアだけPRESSWERKをかけています。 FETコンプ的な使い方ですが、スネアの音がパンチのある音に変化しているのが分かると思います。 余韻もコンプの影響で強調されています。

開発者 Sascha Eversmeier

u-he製品は社長であるUrs Heckmannさんを中心とした数人のチームで開発を行っています。 前回のコラムで取り上げたテープエミュレータのSATINもそうですが、今回のPRESSWERKもコアのプログラムはSascha Eversmeierさんが担当しています。 他には、Repro、Twangstrom、Colour Copy、Protoverbなども手掛けています。 u-heには2012年に入社して、2020年に退社していますが、その個性は手掛けたプラグインに色濃く残っています。 アナログエミュレート、DSP開発のスペシャリストで、徹底的な研究とマニアックさがあり、 物理モデリングなど、幅広い知識と技術があるようです。 スプリングリバーブのTwangstromは、興味深い物理モデリングがされているようです。 このプラグインもいずれ紹介したいと思います。

以下は2002年にSascha Eversmeierさんが無料でリリースしたdigitalfishphones BLOCKFISH(コンプ VST2)で、現在も入手可能です。当時使っていた人もいるのではないでしょうか。 内部回路ビューのアイデアなどはReproに引き継がれているようにも思えます。

以下にBLOCKFISHのレビューを書いていますので、興味がある人は読んでみてください。

「あちゃぴーの自転車通勤」VSTe コンプレッサー digitalfishphones BLOCKFISH 無料

Sascha Eversmeierさんは2024年にTOURAGE DSPというベンダーを立ち上げました。 まだ製品はリリースされていませんが、第一弾としてドラム用のエフェクトを開発しているようです。

TOURAGE DSP

次回は、コンプの歴史をなぞってみようと思います。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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HP https://achapi.cloudfree.jp

u-he / Presswerk コンプレッサー・プラグイン 簡易パッケージ版

u-he

Presswerk コンプレッサー・プラグイン 簡易パッケージ版

¥18,700(税込)

プラグイン、コンプレッサー

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