
2000年暮れ~2010年初頭を代表する社会現象を語る上で、「初音ミク」という存在は決して外すことはできないでしょう。かく言う私も中学~高校時代にどっぷりハマって聴いていました。当時のニコニコ動画には専用のページが作られ、そこからランキングや、新たな楽曲を掘り続ける毎日だったことを覚えています。
私と同じく「VOCALOID楽曲(通称ボカロ曲)」を多く聴いていた方もいれば、二次創作(歌ってみた、演奏してみた)や、三次創作(英語で歌ってみた、MMD)などをメインで聴いていた方も多くいるかと思います。そういった幅広いアレンジメント可能な幅を残していたことが、VOCALOIDカテゴリひいてはムーブメントに繋がっていたのではないでしょうか?
今回は少し昔に立ち返って「初音ミク」の楽曲を取り上げ、その時代ごとの変遷を私なりに紐解いていきたいと思います。
◇ 初音ミクの楽曲について
VOCALOID全体にも言える話ですが、「初音ミク」楽曲は時代によって主流となる楽曲やイメージが変遷していきました。楽曲の目線などから掘り下げると非常に興味深く、VOCALOID楽曲の特徴でもあり、好きなポイントのひとつです。年代とそのムーブメントの特徴などをまとめてみたので、皆さんの聴いていた年代などにも当てはめて読んでみてください!あくまで私調べのため、ここから外れる楽曲も多くありますが、全体的な流れとして見てみてください。また一部「初音ミク」以外を使用した楽曲も紹介しています。
※楽曲名カッコ内にある公開日は、一部を除きニコニコ動画へのアップロード日です。
▷ 2007年~ 『初音ミク』というキャラクターを主体とした音楽。キャラクターソングのような楽曲
2007年8月31日『VOCALOID2初音ミク』発売
CRYPTON ( クリプトン ) / 初音ミク
実験的な音楽が多く、まだ「ツール」として初音ミクを使用している印象です。また、ロックよりもテクノポップが多く、自宅にてDTMをしているユーザーからの発信が多かったと思われます。
楽曲の目線は主に[初音ミク]から[VOCALOIDユーザー]へ
参考楽曲
Otomania / 『VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」歌わせてみた』 (2007年9月4日) ※1
OSTER project / 恋するVOC@LOID (2007年9月13日)
ika_mo / みくみくにしてあげる♪【してやんよ】 (2007年9月20日)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm1097445
▷ 2007年暮れ~ 『初音ミク』を一人のアイドルとして使用、ボカロP的役割の誕生
初音ミク自身が主役になってはいますが、購入したユーザーに向けた音楽から少し離れ、今私たちの思う「ボカロ曲」の様相を見せてきます。いわゆるボカロP(VOCALOIDプロデューサー)としての文化が誕生したと考えても良いかもしれません。
楽曲の目線は主に[初音ミク]から[視聴者]へ
参考楽曲
supercell / メルト (2007年12月7日)
cosMo@暴走P / 初音ミクの消失 (2008年4月8日)
halyosy / Fire◎Flower (2008年8月2日) ※鏡音レン
https://www.nicovideo.jp/watch/sm1715919
▷ 2009年~ 『初音ミク』を使用した「作曲者自身の世界観」の表現。アイドルからシンガーへ
2010年4月30日『MIKU APPEND』発売
CRYPTON ( クリプトン ) / MIKU Append 初音ミク・アペンド
samfree / ルカルカ★ナイトフィーバー (2009年2月12日)、Dixie Flatline / Just Be Friends (2009年7月4日)など後発の歌声ライブラリによる楽曲も多くなってきました。初音ミクらしさを打ち出すよりも作曲者自身の伝えたいことを伝える、インディーズバンドのような楽曲が多くあった印象です。
楽曲の目線は主に[作曲者もしくは物語を俯瞰]から[視聴者もしくは物語の当事者]へ
参考楽曲
ハチ / お姫様は電子音で眠る (2009年5月20日)
wowaka / 裏表ラバーズ (2009年8月30日)
ジミーサムP / Calc. (2010年9月9日)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm8082467
▷ 2011年~ 『初音ミク』を物語の仲介人とした楽曲。シンガーよりも語り部に近い
個人的にはこのあたりがVOCALOID最盛期だと思っています。164 / 天ノ弱 (2011年5月28日)などINTERNET社「Megpoid(通称GUMI)」楽曲なども聴かれるようになりました。 楽曲を通じて訴えたいために、名のあるシンガーをフィーチャーしているように思います。簡単にこのようなことが可能になったのは、インターネットの発達、普及によるものかもしれません。2011年5月にGoogleのユニークユーザーが10憶人を超えたことからも、インターネットの普及の様子が窺えます。
楽曲の目線は主に[話者(初音ミク)や登場人物]から[聴者もしくは物語の人物]へ
参考楽曲
ピノキオP / 腐れ外道とチョコレゐト (2011年1月10日)
黒うさP / 千本桜 (2011年9月17日)
じん / カゲロウデイズ (2011年9月30日)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm15630734
▷ 2011年暮れ~ 2009年頃のムーブメント再来。再度シンガーに戻るが、語り部としての役割を持つ楽曲も多い
改めてバーチャルシンガーとしての側面を際立たせました。いわゆる「オタク気質」な楽曲よりも、シンプルにかっこいい曲が流行っていた印象です。再生数ランキングでは、INTERNET社「Megpoid」や、1st PLACE社「IA」を使用した楽曲が優勢でした。
楽曲の目線は主に[話者(初音ミク)や登場人物]から[聴者もしくは物語の人物]へ
参考楽曲
kz / Tell Your World (2011年12月16日) ※2
40mP / サリシノハラ (2012年10月4日)
れるりり / 脳漿炸裂ガール (2012年10月19日) ※Megpoid(GUMI)とのデュエット
https://www.nicovideo.jp/watch/sm19133907
▷ 2013年中期~ メディアへの露出が増え、インターネットを超えた活躍。シンガーとしての役割がより強くなった
2013年9月26日『初音ミクV3』発売
CRYPTON ( クリプトン ) / 初音ミク V3 バンドル
当時V3が発売されてもVOCALOID2らしい音声が好きなユーザーも多く、あえて曲のタイトルに「VOCALOID2」「VOCALOID3」と分けている投稿者もいました。 マジカルミライの開催や、和楽器バンド版『千本桜』などをはじめとした、メインカルチャー内での「初音ミク」ブーム最盛期です。ただ最新曲はあまり追われず、2010~12年頃の楽曲がフィーチャーされていたような印象を受けます。実際にニコニコ動画内で話題となっていたものは、テクノポップやアイドルブームも相まって再び2007年代のアイドルポップのような楽曲も好まれています。
楽曲の目線は主に[初音ミクもしくは作曲者]から[当事者、曲中の登場人物、視聴者]へ
参考楽曲
Mitchie M / ビバハピ (2013年7月16日)
40mP / 恋愛裁判 (2014年6月10日)
ナユタン星人 / アンドロメダアンドロメダ (2015年7月1日)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm21443197
▷ 2016年~ 往年のVOCALOID作曲者が再来。新規ミリオン投稿者との競合
2016年8月31日『初音ミクV4X』発売
CRYPTON ( クリプトン ) / 初音ミク V4X
シャルル / バルーン (2016年10月12日) ※vflower など他VOCALOID4ライブラリ楽曲による多様化の時代ともいえるかと思います。楽曲としては2013年頃の流れからあまり変わっていませんが、2011年頃のブームが再来し、シンプルかつかっこいいJロックミュージックが改めてフィーチャーされていた印象です。
楽曲の目線は主に[作曲者もしくは俯瞰]から[視聴者]へ
参考楽曲
DECO*27 / ゴーストルール (2016年1月8日)
ナユタン星人 / エイリアンエイリアン (2016年4月5日)
押入れP / 脱法ロック (2016年6月19日) ※鏡音レン
ハチ / 砂の惑星 (2017年7月21日)
wowaka / アンノウン・マザーグース (2017年8月22日)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm31606995
▷ 2018年~ 流行ジャンルを統合した新たな方向性。物語性よりもシンガーに歌わせる楽曲が増えた
「ボカロ曲」らしいパンクロックが、EDMやポストロックに置き換わり始めている気がします。新しい方向性として、VOCALOID楽曲というよりも、一つの楽器としてVOCALOIDを用いていた2009年ムーブメントはまだ継続しそうですね。
楽曲の目線は主に[作曲者もしくは俯瞰]から[視聴者もしくは物語の人物]へ
参考楽曲
みきとP / ロキ (2018年2月27日) ※鏡音リン
八王子P×Giga / Gimme×Gimme (2019年10月26日) ※鏡音リンとのデュエット
かいりきベア / ルマ (2019年11月23日)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35866152
※1 フィンランド民謡のカバー ※2 GoogleによるCMタイアップ楽曲。公開日はCM配信開始日に準ずる。
このように多くの楽曲がサブカルチャーのシンボルであった「初音ミク」を、一人のバーチャルシンガー「初音ミク」へ昇華させてきました。近年話題に上がるVtuberや動画投稿サイトにおける楽曲歌唱の先駆として、インターネットカルチャーの根底を作り上げた功績そのものとも言えるでしょう。
そして、「初音ミク」はまた新たな進化を遂げ、時代をけん引してくれます。
○ 初音ミクNT
CRYPTON ( クリプトン ) / 初音ミク NT / BOX
2020年発売の、新時代の「初音ミク」。今回の初音ミクは実はVOCALOIDではなく、CRYPTON社製の新たなボーカルエンジンにより音声合成を行います。声質は以前までのものとあまり変わりありませんが、表現力が向上しているとのこと。実際にデモ楽曲を聞いてみましたが、VOCALOID2の初音ミクの声色に近く、それでいてハキハキとしています。調声次第ではかなり人間に近い歌い方を実現できるのではないでしょうか。エディターは専用の「Piapro Studio NT」(VST、AU、スタンドアロン)を使用します。初音ミクV3、初音ミクV4Xユーザーにはなじみ深いエディターですね。既存のPiapro Studioとは異なり、ピアノロール上のピッチカーブを直接編集できたり、子音の長さや発音のスピード感を調節できたりします。これからもどんな楽曲が登場するか楽しみですね!
○ 初音ミクV4X
みなさんご存じVOCALOID「初音ミク」。付属のPiapro Studioと、Studio One 5 Artistを使えば、届いたその日からボカロPデビューできます!サウンドハウスではそんな初心者ボカロPに向けたコンテンツも公開中です。ぜひこちらもご覧ください!
CRYPTON ( クリプトン ) / 初音ミク V4X バンドル
バンドルとは初音ミクV4Xに搭載された5種類の音声ライブラリのほかに、英語音声が追加されている代物です。Gimme×Gimmeのように流ちょうな英語を喋らせるならこれ!
本日ご紹介した曲の中に、思い出の歌はありましたか?みなさんもこの機会にボカロPデビューはいかがでしょうか? 初音ミクのほかにもVOCALOIDの歌声ライブラリは数多く取り揃えております。お好きな歌手をお選びいただき、ぜひ今後のボカロ曲の歴史に足跡を残す楽曲を制作してくださいね!
それでは!
(2020-09-01公開 2020-12-01更新)