
このブログでは第一回から
- ペグのフィッティング 糸穴の位置
- 楽器への弦の巻き付け方
- 上ナットの形状
- 上ナットの糸道の状態
- 指板の状態
- 駒の高さ 形状 フィッティング
- 魂柱の成型具合、長さ、フィッティング、立ち位置
- テールピース
- テールナイロンの長さ
- エンドピン、あご当てフィッティング
に分けて進めています。今回は3. 4.の「上ナット」についてのお話です。
次の画像をご覧ください。

次に光源と画像の色味で印象が違いますが、同じ楽器の上ナット付近の拡大画像はこちら。

今回のブログではこの「ナットを調整していく様子」を解説します。
前回のブログ「廉価なバイオリンでよい音を出すためには [第二回] 弦は音を決める最大要素! ペグへの巻き(つけ)方と上ナットとの関係」では弦を「PLAYTECH PVS300」に交換しました。弦の太さが元の付き弦とは異なることも解説しましたが、弦の太さが違う→上ナットの糸道も当然修正が必要になります。
実際のところ糸道は人によって考え方が異なり、浅い方がいい人もいれば深く切り込む人もいます。深く切り込むことで余計な振動を抑えて音がタイトにまとまる、浅い方が振動を妨げず音量が出せる。それぞれのイメージで話します。

ここではやや感覚的な要素が多い「音」の問題はひとまず置いて、「上ナットの狭い糸道は弦の巻線を痛めるので、糸道を適切な幅に直す方が良い」と覚えてください。実際のところ糸道はついてさえいれば演奏は可能です。ただ溝が狭いと弦にストレスがかかります。糸道が広過ぎてもいいとは言えませんが、多少の間隙はあっても差し支えはないでしょう。
私が考える理想の糸道は「弦の下半分から少し深い程度が埋まって、底面がU字で若干の間隙が弦の滑りを妨げない状態」です。
このPVN244の上ナットの糸道はやや浅いので使用する弦PVS300に合わせて修正を施します。

今回使用しているPVS300(左)、付き弦とPVS300を並べたところ太さが違います。


ナットを修正しないでPVS300弦を張るとこのようになります。


このままだとナットがやや高いので全体に削って高さを落とします。

ヤスリで削り形状をファイリングします。

全体にサンドペーパー240~600程度で磨き上げた後に、糸道をつけて・・・

弦を張れば完成です。

Before

After

Before

After
ナットの高さも適切な高さになりました。
説明を書き出してみると長い内容になりますが、でき上がった状態のものを見れば「弦はペグに正しく巻かれていて、上ナットへの角度も適切な範囲に収まっている」
の一文で終わってしまいます。なんだ、これだけのことか、と思われる方も多いと思います。
これがされているかいないかの違いのみで、じつは楽器の響きに意外に大きな差が出るものなのです。個人の方がご自分の楽器を調整してこれを実感するのはなかなか難しいことですが、これは筆者の経験上間違いない事実ですから、知識として持っておくだけでも有益だと思います。
今回のブログはここまでです。
なんかくどいな~長文だな~と疲れていらっしゃるとは思いますが、根気のある方は次回からもお付き合いください。絶対にためになります!
と言い切るとまた何かありそうなので言い切らずにおきましょう。
あれ……?下ナットは……?
そうでしたね。
下ナットはここです。バイオリンの胴、表板の下部。あご当て、テールピースの下になっていて見づらいですが、ここを下ナット、と言います。ではまた次回に。
