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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その225 ~フェンダーローズ・エレクトリックピアノの使い手・海外遍PartⅠ~

2025-01-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

ローズピアノを鳴らせるプレイヤー ジョージ・デューク

前回まではノーチラスのサウンドエンジンであるバーチャルオルガンのCX-3関連のリポートでした。
今回は今までに頓挫していたフェンンダー・ローズエレクトリックピアノ、ローズピアノの使い手の特集に戻ります。
今回取り上げるキーボードプレイヤーはジョージ・デュークです。

ジョージ・デュークはアメリカ、カリフォルニア州出身のキーボーディスト。キャリアの最初はジャズピアニストとしてデビューしています。
1970年代前半にフランク・ザッパのバンドであるマザーズ・オブ・インベンションに参加し、フランク・ザッパの音楽を支えました。
フランク・ザッパのバンドはただのロックバンドではなく、高度な演奏能力が必要でした。演劇的な側面もあることから様々な音楽ジャンルへの対応力も必要でした。
シンセサイザーの使い手でもあり、ミニモーグやアープオデッセイをローズピアノの上に載せて2つのシンセサイザーの音色を使い分け、カラフルなサウンドを出していました。
ザッパバンドにおけるボーカルも光るものがあり、ジョージ特有のハイトーンボーカルはザッパバンドには書くことのできないアイテムにもなりました。
また黒人特有のリズム感覚を生かしたホーナ・クラビネットD6(電気チェンバロ)のプレイも特筆ものでした、ジョージ・デュークはそのクラビネットに大きなバーでベンディングができるように改造し演奏する姿にも注目が集まりました。
マザーズ・オブ・インベンションを脱退した後は黒人の特性を生かし、ソウル、ファンク、フュージョン、ブラジル、ディスコなどボーダレスの音楽に取り組み、様々なジャンルのアルバムをリリースしました。ジョージ・デュークの持つ音楽センスは多彩でありキーボードプレイだけでなくボーカル表現やコンポーザー、楽曲制作にも他者とは異なる味わいを持っていました。
またその知見を生かし、プロデューサーとしての活躍にも目をみはるものがありました。

■ 推薦アルバム:ジョージ・デューク『ブラジリアン・ラブ・アフェア』(1980年)

1979年、ジョージ・デュークがブラジルに渡り、アイアート・モレイラやミルトン・ナシメントといったブラジルのレジェント達と制作したブラジリアン・ファンク・フュージョンの傑作であり、キャリア最高峰のクオリティを持つ作品。全編にブラジリアン・テイストが散りばめられ、カラフルなアルバムになっている。
ジョージ・デュークにとっての目的はアイアート・モレイラのパーカッションにあったのではないかと私は推察している。アイアートはドラム奏者としてもパーカッション奏者としてもジャズ界では名の通ったプレイヤー。チック・コリアやマイルス・デイビスのアルバムでもその存在は際立っていた。
実際、チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエバーでのアイアートのドラミングは素晴らしいものがあったし、この『ブラジリアン・ラブ・アフェア』における「ブラジル感」はアイアート無しでは考えられない。
そういう意味でジョージ・デュークの選択眼に間違いはなかった。
ブラジル音楽がベースになってはいるものの、そこにジョージのポップでファンキーなテイストが付加されるとワン・アンド・オンリーなサウンドに様変わりする。歴史的なごった煮フュージョンサウンドの傑作盤!

推薦曲:「ブラジリアン・ラブ・アフェア」

アイアート・モレイラのブラジリアン・パーカッションに導かれスラップベースが宙を舞うイントロ。既にブラジル感満載だ。ジョージ・デュークはローズピアノでコードバッキングをし、得意のボーカルで主役を担う。中間部のベースソロはこの時代には珍しい。ブラジリアアン・パーカッションを全面に押し出したハデハデの楽曲は聴いている者を鷲掴みにした。ジョージの思惑通りだ。
ジョージのバッキングはシンプルそのもの。そこにシンセサイザーが絡み、リズムを強調している。終盤にはローズピアノのリズミックでカッコ良すぎるソロを聴くことができる。メロディーラインというよりもリズムを意識したローズソロだ。途中でフェードアウトするが最後まで収録してほしかったと思うのは私だけか?

■ 推薦アルバム:フランク・ザッパ『万物同サイズの法則』(1979年)

「万物同サイズの法則」はマザーズ・オブ・インベェンション名義のアルバムとしては最後の作品。成熟したザッパサウンドが存分に楽しめる。フランク・ザッパの傑作は多数あるがその中でも熟成感は半端ない。その熟成感を演出するのは変拍子や高速リフが絡まり合う複雑な楽曲展開力であり、ジョージ・デュークをはじめとする凄腕ミュージシャン達の演奏力に他ならない。

推薦曲:「インカへの道」

複数のライブテープにおけるベストテイクを繋ぎ合わせ楽曲を構成するというのはフランク・ザッパの音楽制作における重要な手法。そこにオーバーダビングやスタジオテイクが加わるとめくるめくフランク・ザッパワールドが出現する。実際に聞いてみると繋ぎ目等は良く分からない。
「インカへの道」は複雑な構成で完成度の高い楽曲。一方で分かり易く、おもちゃ箱をひっくり返したような両面性を持っている。
ジョージ・デュークはリード・ボーカルをとっている他に、ローズピアノや2台のシンセサイザー、ミニモーグ、アープオデッセイを操っている。
楽曲後半部でジョージ・デュークによるローズピアノのソロが聴ける。ライブテープが挿入されているのだろうが(音質が若干悪いのでLIVEだと認識できる)演奏を聴くとそのテクニックの高さに圧倒される。あれだけリズミックにスピード感をもって弾けるプレイヤーはそう多くはないだろう。元々、ジョージはリズムを全面に押し出した演奏を得意とするミュージシャン。リズム感溢れる超絶高速フレーズの歌いまわしには舌を巻くばかりだ。

■ 推薦アルバム:ジョージ・デューク:『ドリーム・オン』(1882年)

ジョージ・デュークの名を世界に知らしめた大ヒットアルバム。
当時、ジョージ・デュークの専売特許だったトーターという肩掛け型のキーボードがジャケットになっている。
このアルバムでは時流に乗ったブラコン・テイストが要であり、ブームを牽引した。
キーボードプレイヤーというよりも歌、プロデュースといった商業戦略にシフトするジョージ・デュークの確信が見え隠れする。

推薦曲:「ドリーム・オン」

アルバムのタイトルとなった楽曲であり、良質なポップソング。この曲の中心となるキーボードはアープオデッセイ・シンセサイザーとローズピアノ。
楽曲中盤ではローズピアノのお手本とも言えるソロが聴ける。コリコリとした高音部とアタックを強調した音色はローズピアノに改造を加えたダイノマイ・ローズだろう。
優等生的なソロではあるがジョージ・デューク特有の灰汁が無くなってしまったのは少し残念な気もする。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ジョージ・デューク、アイアート・モレイラ、フランク・ザッパなど
  • アルバム:『ブラジリアン・ラブ・アフェア』『万物同サイズの法則』『ドリーム・オン』
  • 推薦曲:「ブラジリアン・ラブ・アフェア」「インカへの道」「ドリーム・オン」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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