直流安定化電源とは
「直流安定化電源」がどういうものかご存じでしょうか。読んで字のごとく「直流」電圧を「安定」して供給し続けられる「電源」装置のことです。定義に忠実に解釈すれば、私たちが日常生活で使っているDCアダプタも一種の直流安定化電源と言えますが、一般的直流安定化電源というと安定した電源を加えるだけでなく
- つまみを回して任意の出力電圧に設定できる
- 電流の上限を設定できる
- 出力電圧、電流値をリアルタイムでモニターできる
といった機能がついているものを指すことが多いです。「そんなもの、電子工作をやってる人たちしか買わないだろう」と思われるかもしれませんが、電子工作以外のところでも活用できる便利なものです。

電流表示付きタイプ

電流表示なしタイプ
増える機材、増えるDCアダプタ
ギターの楽しみの一つに「多彩な機材を買い集める」ことが挙げられます。しかし困ったことに、機材を買い集めているうちに一緒に電源アダプタも増えていきます。ギターエフェクターは幸いにもほとんどが「外径5.5mm内径2.1mmセンターマイナス9V」で統一されていますが、小型アンプはそうはいかず様々な製品がそれぞれ違う種類のアダプタを使います。電圧仕様だけでも9Vのものもあれば12Vのものもあり、24Vのものや6.5Vのものまであります。それに加えて極性やプラグサイズ、許容電流量まで様々ですし、違う規格のアダプタを流用することもできません。人によっては乾電池で動くものは乾電池で動かしてアダプタは買わないという選択をするかもしれませんが、私の場合、腰を据えてじっくり使いたいものは電池切れの心配なく使えるように、毎回アダプタを一緒に買っていました。
そこで、直流安定化電源の出番です。直流安定化電源は仕様で決められた範囲内で任意の電圧を出力できるので、アンプの電圧仕様に柔軟に対応できます。例えば私が持っている直流安定化電源(記事の1番目の画像)は8000円程度の安いもの(直流安定化電源の中では安い方です)ですが、電圧の設定範囲は30Vまで、電流は10Aまで流すことができます。電源アダプタから電源を取る機材のほとんどは24V以下の電圧で動きますし、電流も10A以上消費するものは中々ありません。つまり、この1台であらゆる電源アダプタの代わりになりえるということです。
電圧と電流はいいとして、プラグの径と極性はどうしたらいいでしょうか。さすがに直流安定化電源本体でどうにかすることはできませんが、直流安定化電源と一緒に使うのにおあつらえ向きのアイテムがあります。下の画像のようなプラグです。

付け外し可能な電源プラグ
ネジを回してケーブルを固定する形式で、はんだ付けも必要ありません。2.1mmのものも2.5mmのものも、4つ入り500円程度の価格で販売されているのでお財布にも優しいです。センタープラスで駆動するときは直流安定化電源の+/-と電源プラグの+/-を繋げ、センターマイナスで駆動するときは、逆に直流安定化電源の-/+と電源プラグの+/-を繋げます。これでもうプラグ径と極性が変わっても困ることはありません。
測定器としても活躍
直流安定化電源を電源アダプタ代わりに使えることでメリットがあることは間違いありませんし、実際私は家でアンプやエフェクターを直流安定化電源で動かしていますが、正直これだけでは万人にはおすすめできません。
まず本体が1万円近くします。よっぽどいろいろな種類の小型アンプを買い集めていない限り、乾電池や電源アダプタを普通に買った方が安上がりです。その上、直流安定化電源は普通の電源アダプタより場所も取りますし、精密機器なので扱いも注意しなければなりません。重くてかさばるので、スタジオなどに持ち出そうなんて冗談でも質が悪いぐらいです。にもかかわらず直流安定化電源をおすすめするもう一つの理由は、電源の本分の側面、すなわち測定機器としても使えるからです。
例えばエフェクター用のパワーサプライを買うとき、パワーサプライの各出力ポートの許容電流がエフェクターの消費電流より多くなければなりませんし、その判断をするためには今使っているエフェクターにどの程度電流が把握する必要があります。有名なメーカーの定番のエフェクターならネットに情報があるかもしれませんが、必ずあるとは限りません。そういったとき直流安定化電源が活躍します。
電流を測るだけならテスターでもできないことはありませんが、直流安定化電源があると手間が段違いです。上でも書いた通り、多くの直流安定化電源は出力している電圧と電流の値をリアルタイムでモニターできるようになっており、機材に繋げるだけで消費電流が表示されるので、テスターより遥かに簡単に電流を測ることができます。もしテスターで電流を計ろうとしたらどうなるでしょうか。テスターを回路に直列で挿入しないといけませんし、電源から機材に繋がる配線の真ん中のどこかを自由に断線させて端子を露出できるような、なんらか部品が必要です。機材が動作する最大電流を計るためには演奏をしている最中の電流値を確かめなければならないので、手を放してもテスターが配線につながったままにできる鰐口クリップなんかも必要ですし、それらがちょっとした振動で外れてしまわないように気を付けなければなりません。文章を読んで大変さを誇張して大げさに書いてるように感じられるかもしれませんが、実体験に基づいた感想で、電流測定はかなり面倒な作業です。ギター機材に限らずガジェットの消費電力を測ることがたまにあるのですが、直流安定化電源を買ってからは、面倒なことはせず電源に繋げただけですぐ電流が見えるようになり、もっと早く買えばよかったと後悔したぐらいです。
他にも、例えばパワーサプライの電源を直流安定化電源から供給することで、パワーサプライの消費電力を計って効率を計算してみたり、ボリュームポットに低い電圧をかけて電流値から特性カーブを測定したりと、電気関連の特性を測定するときのひと手間を減らすのに大変役立ちます。
最後に
つい最近、BlackstarのFLY3 を中古で購入して、動作テストをしようとしたところで電源仕様が6.5Vであることに気付き、直流安定化電源を繋げて音を出しながら「これを持っていなかったら、アダプタが届くまで電源アダプタ動作のテストはできないところだったな」と思ったのをきっかけにこの記事を書きました。この記事がみなさんの音楽生活の一助になりましたら幸いです。
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