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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その213 ~追悼 クインシー・ジョーンズ ブラックミュージックのアイデンティティを持ち続けた「Q」の奇跡 PartⅣ~

2024-11-30

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

常に進化を続けた音楽家、クインシー・ジョーンズ追悼4話

アメリカの著名プロデューサーであったクインシー・ジョーンズさん(以下敬称略)の追悼企画PartⅣです。
前回のテーマはクインシー・ジョーンズ自身のソロアルバムを取り上げ、クインシーミュージックの先進性と洗練性をテーマにターニングポイントとなったアルバムを紹介しました。
今回はクインシー・ジョーンズ自身の頂点を極めたと思われるアルバムとその経緯、理由などをテーマにお話しを展開します。

クインシー・ジョーンズが極めた洗練性の頂点

クインシーは「プロデューサーの仕事の半分は、ふさわしい歌を見つけた時に終わる」と話しています。それだけクインシーにとって歌は大きな要素なのです。そう考えるとクインシーのアルバムに収録された楽曲が、皆素晴らしい曲であるということに合点がいきます。そしてボーカリストの存在も重要な要素です。
クインシーがアルバムに登用するボーカリストは、後に名を馳せる場合が多く、ルーサー・ヴァンドロスやパティ・オースティン、ジェームス・イングラムなど、どうしてこんな凄い人が次々に現れるのだろうと驚くばかりです。

更にクインシーミュージックの凄さはボーカリストだけにとどまらず、そのバックを超一流の演奏家が支えていることです。楽曲を構成する歌唱も演奏も同一ベクトル上に存在します。
「楽曲の良さ」と「ボーカルの良さ」、「楽器演奏の素晴らしさ」の同居が新しい何かを生み、クインシーミュージックの「洗練」を作り出しています。

■ 推薦アルバム:クインシー・ジョーンズ『スタッフ・ライク・ザット』(1978年)

クインシー・ジョーンズの最高傑作であり、ブラックミュージックが最高に輝いた瞬間をパッケージした78年の大ベストセラーアルバム。
当時最も旬であり、勢いのあったスタッフのメンバーや、チャカ・カーン、パティ・オースティンなど、ニューヨーク系クインシー人脈の最高峰が集結している。全米でプラチナディスクを獲得。

推薦曲:「アイム・ゴナ・ミス・ユー・イン・ザ・モーニング」

クインシー・ジョーンズが自ら作曲、作詞を手掛けたオリジナル曲。多くのバラード楽曲の中でベスト5に入る名曲だ。
当時無名だった黒人シンガー、ルーサー・ヴァンドロスとパティ・オースティンのネットリしたデュオが秀逸。
スモールストーン(フェイザー)を効かせた浮遊感漂うリチャード・ティーのフェンダー・ローズピアノが、男女の不安定な三角関係を鮮やかに描き出す。
サビから展開するスティーヴ・ガッド(Dr)とアンソニー・ジャクソン(B)のリズム隊の素晴らしさも特筆ものだ。特にジグザグなアンソニーのベースラインは、この楽曲の一番の聴かせどころかもしれない。
これまでのブラックミュージックという括りから、ヒットチャートを狙えるまでの、よりポップになったクインシー楽曲の洗練を聴くことができる。

推薦曲:「テイキン・イット・トゥ・ザ・ストリート」

ドゥービー・ブラザースのキーボーディスト、マイケル・マクドナルドの楽曲。元々マイケル・マクドナルドは黒人よりのボーカリストではあるが生粋の白人である。この白人の書いた曲を黒人がカバーするとどうなるかという見本的な楽曲。
後半、倍になったテンポでベースラインは4ビートのラインを弾いているが面白い。
クインシーのブラックミュージックから白人系ポップスへの傾倒の一端を聴くことができる。

■ 推薦アルバム:クインシー・ジョーンズ『愛のコリーダ』(1981年)

クインシー・ジョーンズの81年リリースのメガヒット作。冒頭のタイトル曲はバリバリのディスコ曲から幕を開ける。その他、ジャズあり、ブラジルあり、ファンクありのゴージャス極まりない楽曲が並ぶ。ワン・ハンドレッド・ウエイズなどは、ヒットチャートにのぼっても全くおかしくないポップスそのものだ。グレッグ・フィリンゲインズによるシンセサイザーソロもポップそのもの。このアルバムはクインシーミュージックが一番ポップスの寄ったアルバムとなった。

推薦曲:「ジャスト・ワンス」

ヒット・メイカー作家であるバリー・マンとシンシア・ワイルの名曲。バリーとシンシアも白人だ。演奏メンバーはTOTOのギタリスト、スティーヴ・ルカサー、アコースティックピアノはロビー・ブキャナンとデイヴィッド・フォスター、デイヴィッドはローズピアノも演奏している。この楽曲はメンバーに白人のプレイヤーが多く、前作に比べると黒人プレイヤーの比率が下がっている。結果、ポップスやロックより近付いたことは言うまでもない。例えば黒人の弾くアコピと白人の弾くアコピの差がこの曲を聴くと良く分かるし、それがクインシーミュージックの変化に繋がっている。
この楽曲のボーカリストはクインシーが見出した黒人シンガー、ジェームス・イングラムだ。ジェームスのボーカルはこれまでクインシーの音楽にはなかったポップ寄りの印象が強い。
アース・ウインド&ファイアーへの白人流入はアースのバンドクオリティをある意味で引き上げたが、それが黒人バンドの一番大切な何かを抜き取ってしまった感がある。
クインシー・ジョーンズの音楽もこのアルバムを聴くと随分ポップになった感があるが、ジェームス・イングラムやパティ・オースティンの歌唱がギリギリのところでブラックミュージックの根幹を支えている。
彼のアルバムがEW&Fの様に衰退しなかったのは、クインシーの選択眼が黒人ミュージックのアイデンティティを最後まで維持できていたからだと私は考えている。
実際、この後にリリースするクインシーのアルバムではラップなど、ブラックミュージックを大々的に導入したアルバムを制作している。

推薦曲:「ヴェラス」

クインシーがブラジル音楽にも造詣が深いことは1964年にリリースした『ソウル・ボサノヴァ』からも周知のこと。
そしてクインシーの視点は、新しいブラジル音楽の創造者であるイヴァン・リンスに向けられる。イヴァンも黒人ではない。
イヴァン・リンスの書く楽曲はブラジルの美しい音楽が有する「サウダージ」を新しい形で提示していた。そこに目を付けたのだ。
美しい歌(メロディ)を持つ楽曲に歌詞は必要ないというクインシーが選んだリード奏者はハーモニカの巨匠、トゥーツ・シールマンスだった。
イヴァン・リンスのメロディを歌うトゥーツのハーモニカの響きは、何にもましてイヴァン楽曲の表現者であったことは言うまでもない。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:クインシー・ジョーンズ、バリー・マン、シンシア・ワイル、デビッド・フォスター、イヴァン・リンスなど
  • アルバム:『スタッフ・ライク・ザット』『愛のコリーダ』
  • 推薦曲:「アイム・ゴナ・ミス・ユー・イン・ザ・モーニング」「テイキン・イット・トゥ・ザ・ストリート」「ジャスト・ワンス」「ヴェラス」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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