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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その210 ~追悼 偉大なるプロデューサーMr.「Q」 PartⅠ~

2024-11-20

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

偉大なるプロデューサー、ミュージシャン、「Q」フォーエバー!

アメリカ音楽界の巨匠でありプロデューサーのクインシー・ジョーンズさん(以下敬称略)が2024年11月3日、ロスアンゼルスの自宅でお亡くなりになりました。享年91。
心よりお悔やみを申し上げます。
クインシー・ジョーンズは世界最高のセールスを記録し、現在も売れ続けているマイケル・ジャクソンのお化けアルバム、『スリラー』のプロデューサーとして広く知られています。

クインシー・ジョーンズの生立ちとポップへの萌芽

クインシー・ジョーンズは1933年3月にイリノイ州、シカゴに生まれました。居住者の多くは黒人で貧困やドラッグ、暴力、売春などの温床となった地域でした。
クインシーのプロとしてのキャリアは14歳の時に始まります。1951年にシアトル大学で学位を取り、バークリー音楽大学に学びます。その後、トランペット奏者としてビブラフォンの巨匠、ライオネル・ハンプトン楽団に参加。クインシーはハンプトン楽団においてアレンジャーとしての才能を開花させます。その後、カウント・ベイシー、デューク・エリントンといったジャズレジェンドのアレンジを手がけるまでに至ります。
1956年にはクインシー・ジョーンズのファーストアルバム『私の考えるジャズ』を発表。作曲家、アレンジャーとしての礎を築きます。

クインシー・ジョーンズの活動で最も印象的だったのはなんといってもマイケル・ジャクソンとのコラボレーションです。
その後にリリースされたクインシーのアルバムを聴いても本業のジャズよりもポップスに寄っているという印象を受けます。元々ジャンルへの線引きという発想がなく、ニュートラルな発想に基づく音楽家だったのかもしれません。
そのルーツはどの辺りなのかを考えてみます。

■ 推薦アルバム:『ヘレン・メリルWITHクリフォード・ブラウン』(1955年)

ニューヨークのため息と言われるヘレン・メリルの最高傑作。クインシー・ジョーンズが自身のファーストアルバムリリース1年程前にアレンジと指揮を手掛けた。25歳で夭折した天才トランぺッター、クリフォード・ブラウンとのコラボレーションが鮮烈だ。
クインシー自身がトランペット奏者であったことからクリフォード・ブラウンへの思い入れも強かったことが想像される。
このアルバムのエポックは「ユー・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」が納められていること。だれもが口ずさむ印象的なメロディを持った楽曲だ。ヒット曲の要素を兼ね備えた楽曲はたちまち話題となり、人々に知れ渡った。
その他にも「スワンダフル」はガーシュインの名曲、「ワッツ・ニュー」もジャズのスタンダードなど、ポップセンス溢れる選曲がなされている。
クインシー・ジョーンズは多くのアルバムを手掛けることで売れるアルバム、売れる楽曲というノウハウを蓄積したのではないか。その結果がマイケル・ジャクソンの『スリラー』に繋がったと私は想像している。

推薦曲:「ユー・ビー・ソー・ナイス・カム・ホーム・トゥ」

この楽曲「ユー・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」は多くの人から愛されている。絡みつくようなヘレン・メリルの歌唱の後にくる抑制されたピアノソロはその後に押し寄せるクリフォード・ブラウンのトランペットソロをより鮮やかにしているかのようだ。
アルバムの中にヒット曲や優れた曲など、ある種象徴的楽曲があるとその曲を聴くためにアルバムを手に取ることが多い。1曲の為にそのアルバムの印象度や記憶レベルが向上することは誰もが認識していると思う。
特にジャズアルバムの場合はアルバム全曲の内、当たり曲が1曲のみという場合も多い。アルバムの軸となる楽曲、それが「ユー・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」だった。

■ 推薦アルバム:クインシー・ジョーンズ『ソウル・ボサノヴァ』(1964年)

1950年代後半から60年代前半にかけてブラジルから生まれたボサノヴァが世界を席巻した。
クインシーは世界の潮流を掴むことに長け、アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトらが歌った名曲をアルバムにいち早く取り上げた。
アコースティックギターで歌われるシンプルなボサノヴァをビッグ・バンドという自分の土俵に引きずり込み、演奏する暴挙とも言える挑戦だった。
新たな潮流を新たな切り口で聴かせるというクインシーのプロデューサー的感覚をこのアルバムからは聴き取ることができる。
録音メンバーはラロ・シフリン、ジム・ホール、ローランド・カークなど、腕利きが集められた。クインシーの腕利きミュージシャンを使うという志向は後年のアルバム制作にも貫かれている。

推薦曲:「ソウル・ボサノヴァ」

当時トレンドだったボサノヴァを新たな切り口で聴かせるだけでなく、冒頭には印象的なテーマを持ったオリジナル楽曲を配置。そのテーマはオーケストラでなくては成り立たないというチャレンジングなテーマであり、アコースティクギター中心だったボサノヴァからは逸脱していた。才気溢れる若いクインシーの面目躍如たる楽曲。
この「ソウル・ボサノヴァ」はクインシー流、ブラジル音楽への挨拶代わりの一撃だった。

推薦曲:「ノー・モア・ブルース」

ジョアン・ジルベルトが歌ったボサノヴァの夜明けを告げた記憶に残る大ヒット曲。ブラジルのサウダージ感溢れる美しいメロディがクインシー流にアレンジされている。アルバム最後にこの曲を持ってくるあたり、クインシーは既にボサノヴァの普遍性を予知していたのかもしれない。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:クインシー・ジョーンズ、ヘレン・メリル、クリフォード・ブラウン、ラロ・シフ リンなど
  • アルバム:『ヘレン・メリルWITHクリフォード・ブラウン』『ソウル・ボサノヴァ』
  • 推薦曲:「ユー・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」「ソウル・ボサノ ヴァ」「ノー・モア・ブルース」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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