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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その212 ~追悼 クインシー・ジョーンズ プロデューサー「Q」の奇跡 PartⅢ~

2024-11-30

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

傑作の宝庫、クインシー・ジョーンズのソロアルバム

アメリカの著名プロデューサーであったクインシー・ジョーンズさん(以下敬称略)の追悼企画PartⅢです。
前回はクインシー・ジョーンズがプロデュースしたマイケル・ジャクソンのアルバムを取り上げました。
今回はクインシー・ジョーンズ自身がリリースした「クインシー・ブランド」ともいえるソロアルバムを取り上げ、その進化の一端と傑作の宝庫ともえる起伏に富んだ楽曲をご紹介します。

クインシー・ジョーンズが身に纏う洗練の進化プロセス

クインシーはバークリー音楽大学でジャズを学び、プロのトランペット奏者としてキャリアをスタートします。クインシーはピアノ、ベース、ドラムなど殆どの楽器を操る能力を下積み時代に習得しています。ライオネル・ハンプトン楽団でアレンジに関わり、プロデューサー業に至る過程で楽器への知識の深さは必須だったと考えられます。
クインシーの素晴らしさは音楽を俯瞰し、見極め、それを料理するアレンジ力です。そしてそれがクインシー人脈に投影されます。黒人であるクインシーは、70年代初期まではブラックミュージック的要素が強い音楽を作っていました。
しかし70年代中期にはブラックミュージックに白人音楽の要素が混じり出し、その割合が強くなるに従いクインシー・ブランドの洗練が進みます。そこには黒人系ミュージシャンと白人系ミュージシャンの交流もありました。
とはいえクインシー・ジョーンズのアイデンティティが白人に浸食された訳ではありません。
クインシーが描くブラックミュージックの洗練要素と白人的要素が交配することでクインシー・ジョーンズの音楽は更なる奥深さを増していったのだと思います。
以下の2枚のアルバムはその辺りの転換点として捉えることができます。

■ 推薦アルバム:クインシー・ジョーンズ『スマックウォーター・ジャック』(1971年)

フレディ・ハバード(Tp)、ジム・ホール(g)、エリック・ゲイル(g)、ジョー・ベック(g)、ボブ・ジェームス(key)、ジョー・サンプル(key)、ジミー・スミス(key)、トゥーツ・シールマンス(ham)、ミルト・ジャクソン(Vib)、グレイディ・テイト(Dr)など、ジャズ的要素が強いファーストコール・ミュージシャンが呼ばれている。しかもメンバー全体を見渡すと黒人系のミュージシャンの数が多い。
日本のTV番組で使用され、認知されることとなった「鬼警部アイアンサイドのテーマ」やマーヴィン・ゲイの「ワッツ・ゴーイン・オン」など有名曲を収録。
プロデュースはクインシー・ジョーンズとレイ・ブラウン、フィル・ラモーンという大御所達。
クインシーは演奏家でもあることから、楽器のソロパートにおけるスペースを多くとっている。アドリブにおいてミュージシャンとしての発露を主とするジャズは彼の音楽においては重要な要素だった。このアルバムにおけるアドリブスペースは4ビートが中心だ。ジャズ=黒人的という公式はクインシーにとって重要なアイデンティティだったのだろう。

推薦曲:「鬼警部アイアンサイドのテーマ」

パトカーの緊急サイレンの音を想起させるポルタメントをかけたシンセサイザー音からスタート。あのテーマは一度聴いたら忘れることはできない。それは「ソウル・ボサノヴァ」以上のインパクトだ。テーマ間を様々なビートをバックにフルート、サックスなどの強力なソロが押し寄せる。特に4ビートにおけるトランペットソロは秀逸。

推薦曲:「ホワッツ・ゴーイン・オン」

ヒューバート・ロウズのフルートがテーマ、サビからは女性ボーカルが入る。そこからビッグバンドアレンジで楽曲が進むと思いきや突然、ボーカルが…という突飛もないアレンジ。
サビのボーカル終了後、突然4ビートのフルートソロに次いでトランペットソロからのビッグバンドアレンジ…万華鏡の様な楽曲展開に、聴いている方の脳みそが追いついていかない。
ミルト・ジャクソンのマリンバソロ、Bメロボーカルからのサビへの展開~4ビートのギターソロ…あまりにも鮮烈でカッコよすぎる。
更にサブテーマを歌う女性コーラスとブラスアンサンブルの交錯、4ビート上のヴァイオリンソロ展開からトゥーツ・シールマンスのハーモニカソロ…凄まじすぎる!
この曲を聴くとクインシーにとって楽曲は単なるキャンバスでしかないように思えてくる。必聴!!

■ 推薦アルバム:クインシー・ジョーンズ『ボディ・ヒート』(1974年)

クロスオーバーを黒人の切り口で制作されたクインシー・ジョーンズの1974年の傑作アルバム。オープニングから洗練の極みを聴くことができる。その洗練度合いはアルバムの最後まで下降することはない。
黒人音楽を独自の視点で昇華させたクインシーの名は輝かしいブランドになっていく。
ボブ・ジェームス、リチャード・ティー、デイヴ・グルーシン、ビリー・プレストンなどファーストコールミュージシャン達が参加し、クインシーサウンドを彩っている。
この洗練に手を貸しているのは腕利きキーボーディスト達が演奏するシンセサイザーだ。前作よりもシンセサイザーが多用され、それが楽曲にある種の煌めきを加えている。
その背景にあるのはクインシー・ジョーンズのアレンジの魔術だ。冒頭から新しい音楽の到来を告げるメッセージに溢れている。

推薦曲:「ボディ・ヒート」

シンセベースとエレクトリックベースの別々のフレーズが交錯する中、ドローバーの16フィートと1フィートをもろ出しにした真っ黒なオルガンバッキング上をポルタメントをかけたシンセサイザーのスパイシーな音が我がもの顔でボーカルパートを切り裂く。その同居具合に舌を巻く。74年にこういったアレンジを試みるクインシー、恐るべしである。

推薦曲:「エヴリシング・マスト・チェンジ」

アコースティックピアノとエレクトリックピアノの共演が見事な楽曲。メインボーカルに被る何気ないサイン波のシンセサイザーのオブリガートが凄まじい。
途中でリズムがガラッと変わり、マイルス・デイビスを思わせるミュートトランペットソロの展開へ…。
アレンジャー、クインシーの面目躍如たる楽曲。歴史に残るベナード・アイグナーの名バラード。

推薦曲:「イフ・アイ・エヴァー・ルーズ・ディス・へヴン」

ベースとギターのコードグリッサンド、コンガ、ボーカルという各楽器や声をパーカッション的アンサンブルで展開。様々な引出しを持つクインシーのアレンジが秀逸。
サビのメロディが素晴らしいリオン・ウェアの楽曲だ。リオンはデトロイト出身のソウル、R&B歌手、コンポーザー、プロデューサー。1970年代中期以降、クインシー・ジョーンズやミニー・リパートン、メリサ・マンチェスターなどに楽曲提供する職業作家として知られるようになる。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:クインシー・ジョーンズ、ベナード・アイグナー、リオン・ウェアなど
  • アルバム:『スマックウォーター・ジャック』『ボディ・ヒート』
  • 推薦曲:「鬼警部アイアンサイドのテーマ」「ホワッツ・ゴーイン・オン」「ボディ・ヒート」「エヴリシング・マスト・チェンジ」「イフ・アイ・エヴァー・ルーズ・ディス・へヴン」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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