u-he社のFilterscape VAのARP(アルペジエータ)の紹介をしたいと思います。
ARP(Arpeggiator アルペジエータ)
アルペジエータとは特定のコードなどに対して、分散和音(アルペジオ)などにして自動演奏する仕組みの総称で、1970年代後期からシンセサイザーに組み込まれはじめた機能です。ポピュラー音楽などで好まれ、シーケンスパターンとしても用いられます。半自動で手軽にリアルタイム演奏できたのも人気の理由です。
下は簡単な例ですが、コードC9(8音)を鍵盤で押さえて、それをアルペジエータで16部音符の上昇パターンで演奏したときの譜面になります。一番低い音から演奏し、8音弾き切ると、また最初の一番低い音から演奏を繰り返すというパターンです。アルペジエータは鍵盤を押さえている限り、繰り返し演奏します。
実際にサウンドにすると以下のようになります。
アルペジエータの仕組みについては各社バラバラで、それぞれの方針で作られています。そのためメーカーごとに学習を要求されますが、個性的なアルペジエータは楽しくもあります。 u-heのアルペジエータは、柔軟性が高いのですが、理解して使いこなすとなると、少しハードルが高いものとなっています。Filterscape VAでは下図の赤枠の部分がアルペジエータ=ARPとなっています。
ここでは、詳細は触れませんが、1~16ステップで組むことができます。スクリーンショットは8ステップに設定してあります。 各ステップは1/64~1/1音符に設定でき、付点、三連の設定もできます。また各ステップは個別に1~4倍の長さに可変できるため、それほど単純ではありません。音が鳴る音符の長さも柔軟で、休符はもちろん、次のステップに音をつなげることも可能となっています。
各ステップごとに変調をかけることもできます。棒グラフみたいなものが変調量となります。 音サンプルは上記と同じパターンで音色を変調させたものですが、随分と音の表情が変わっているのが分かると思います。
ユークリッド・アルゴリズム
Filterscapeならではということではありませんが、近年ユークリッド・リズムやらユークリッド・シーケンサーと呼ばれる考え方が広まってきました。今回Filterscapeで少し実践してみようと思います。 2005年にゴッドフリード氏が発表した「ユークリッドアルゴリズムが伝統的な音楽リズムを生成する」という論文がブームの火付け役になったと思います。
特に南米や民族的なリズムには割り切れない、あるいは変拍子的なリズムが多く、それをどう解釈するか難しいところでもあります。従来は、そのまま覚えるという方法を取っていたと思いますが、ゴッドフリード氏は、ある法則を使うと、割とうまくいくことを発見しました。 それは、ふたつの自然数の最大公約数を求める手法のひとつであるユークリッドの互除法を使う方法です。ふたつの自然数のひとつは一定時間に分解したときの全体のステップ数で、もうひとつは音が鳴る数となります。ユークリッドの互除法から今ではユークリッドリズムなどと呼ばれるようになりました。
例として13ステップ中、5個の音が鳴るという条件のパターンを作ってみます。
これをE(5,13)と書きます。
まずはユークリッドの互除法を使ってみます。
- 13を5で割った余りは3
- 5を3で割った余りは2
- 3を2で割った余りは1
最後に余りが1になったので、13と5の整数は互いに素になります。素になる場合は、整然とした並びにならないため、民族的なリズムになりやすい傾向にあります。
次にゴッドフリード氏の手法でリズムに展開してみます。互除法に似た手法で下記のようにパターンを作り出します。1が音が鳴るステップで、0は無音のステップと考えてください。 全ステップに対して可能な限り均一に音を割り当てようとしているのが分かると思います。 しかし、ふたつの整数は素になっているため、割り切れず、きれいに収まらないという感じです。
上記の最終パターンをFilterscapeのARPに当てはめてみます。
音にすると民族的なリズムに聞こえています。
ゴッドフリード氏の論文から他のサウンドも試してみます。
E(3,8) [10010010]
キューバのtresilloという有名なリズムです。
E(5,8) [10110110]
同じくキューバのcinquilloというリズムです。
他にもさまざまなパターンが、どのようなジャンルに使われているか論文に述べられています。 ユークリッドリズムに興味があれば、ネット上に情報も豊富なので、調べてみると面白いと思います。参考となるURLを貼っておきます。
論文「The Euclidean Algorithm Generates Traditional Musical Rhythms」
次回はFilterscape VAのエフェクトについて解説します。
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