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蠱惑の楽器たち 89.u-he Filterscape VA レビュー8 マルチバンドモーフィングEQ

2024-10-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

Filterscape VAはu-he社にしては珍しく標準的なアナログシンセの構成となっていますが、 今回紹介するマルチバンドモーフィングEQに関しては、あまり見かけない独自性の強い機能となります。 Filterscape VAの一番尖がった部分といえます。

u-he ( ユーヒー ) / Filterscape

マルチバンドモーフィングEQ

高速変調用に最適化されたアナログ モデルに基づいたEQで、高音質かつ高速に反応します。 通常のEQとの一番の違いはEQの設定を最大8セット記録して、それを様々な方法でモーフィングすることができることです。 下動画は、8個のスナップショット(EQ設定)をぐるぐると回して切り替えているところです。 実際に適用されるEQ設定は白いカーブで、常に変化しているのがわかると思います。オレンジ色に塗りつぶされたカーブはスナップショット1のカーブとなります。 またダイナミックEQのように入力音に反応するのではなく、MIDI信号や、DAWのテンポなどの情報を元に動きはコントロールされます。

EQのバンドは以下の4種から選択でき、±24dBのコントロールが可能です。

上記の4種EQは、4バンドのポイントがあり、それぞれ以下のようなフィルタ構成になっています。

  • LS(Low shelf)-Peak-Peak-HS(high shelf)
  • Peak-Peak-Peak-Peak
  • LP(Low Pass)-BP(Band Pass)-BP(Band Pass)-HP(High Pass)
  • Bandpass-Bandpass-Bandpass-Bandpass

peakを使ったEQは見慣れたもので、補正によく使われます。音色の微調整で重宝するEQです。 一方Bandpassを複数使ったEQは珍しく、癖が強い強力なEQとなります。 補正ではなく、積極的にEQで音を作るためのモードとなります。

下はEQを変調するコントロール部になります。各バンドごとにカットオフ周波数、ゲインなどが変調できます。スナップショットを駆使しなくても、動的にEQを扱うことができます。

下はBAND1を使ってローパスフィルタの動かしています。そのほかのバンドは折りたたんでいます。

下の音サンプルは、EQの使い方を示した参考例となります。

通常のフィルタのように扱ってみる

通常のフィルタで多用されるローパスフィルタの動きをEQを使って再現したのが、下の動画です。 結果的に上記のBAND1の変調を使った音と同じようなサウンドになります。 レゾナンスの効いた高めのカットオフ周波数をノートオンと共に、一気にカットオフ周波数を下げています。 使っているバンドは1のLPFだけで、他バンドはレベルを下げ折りたたんで未使用にしています。 SNAPSHOTを見ると1から3へ移動し、その後2と3を行き来する設定です。

無加工のノコギリ波を通すと以下のようになります。通常のフィルタと同じように扱えることが分かると思います。

ワウを再現してみる

エレクトリック・ギターなどのエフェクトで、よく使われるワウペダルのような効果を狙ってみました。原理的にはピークフィルタのカットオフ周波数が周波数軸を移動することでワウワウというサウンドを実現しています。狭いピークを300Hz~3kHzぐらいの範囲で揺らすと、それらしくなります。

フォルマント

Filterscapeには人の声の母音(A,E,I,O,U)が、あらかじめ用意されています。 倍音を多く含んだ音を通すと、まるで人の声のようなサウンドになります。 さらにFilterscape独自のモーフィングを駆使することで、母音のスムーズな移行が可能となっています。 EQモードは4BandpassesにしてからFormantsを選択します。

打楽器

打楽器は音程感のあるサウンドではないため、共振周波数をガンガン上げていくだけで、それっぽくなります。EQで特定の周波数だけ上げ、それ以外をカットするとすっきりした打楽器音になります。 4Bandpassesを使うのが手っ取り早いかもしれません。 下サンプルではEQ音の後にEQ無しの音も入れておきました。 元音はホワイトノイズを中心とした音ですが、EQによって、輪郭を付けて打楽器らしさを出しています。

効果音

自然の音をそれらしくするにはFilterscapeのEQは効果的です。 下サンプルは雷の音をEQで作っています。はじめにEQ無しの音、次にEQで調整した音になります。 EQによって高域と低域を強調し、一気に振幅を削っていく動きにしています。 その効果が絶大なのが理解できると思います。

FilterscapeのマルチバンドモーフィングEQは、かなり強力です。 大胆に使うEQというのは、一般的には馴染みがないと思いますが、それだけに可能性が眠っているように思います。新しい使い方が発見できるかもしれません。 次回は柔軟性のあるu-heのアルペジエータを紹介したいと思います。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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