ここから本文です

シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その205 ~ローズ・エレクトリックピアノを使ったJポップの名曲 佐藤博編 PartⅢ~

2024-10-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器, 音楽全般

ローズ・ピアノ特集ではローズ・ピアノの国内ナンバー1の使い手、佐藤博を取り上げています。
佐藤博はJポップのピアニストというカテゴリーだけに収まることのない音楽家です。アレンジャーであり、作詞・作曲家であり、歌手、レコーディング・エンジニア、シンセサイザープログラマー、音楽プロデューサーなど、その活動は多岐にわたります。

佐藤博は2008年、青山テルマが歌った「そばにいるね」で、第50回輝く!日本レコード大賞、優秀作品賞を受賞。「そばにいるね」はアレンジ、演奏、サウンドプロデュースなど、楽曲に必要なプロセスを自分自身で行っています。

過去に取材で佐藤さんのご自宅にお邪魔した時、スタジオ内の膨大な機材量に驚きました。そこには音楽を制作するための巨大なミキサーやマスターキーボード、鍵盤だけでも数台、シンセサイザーの音源はオーバーハイムのエクスパンダー、ローランドのD- 550が2台、ヤマハのFM音源など、高価な機材が揃っていました。加えてドラムマシンやリバーブの名機、デジタルエフェクターの数々がラックマウントにスタックされていました。
佐藤さんは膨大な機材に囲まれた中で取材に応じてくれ、「自分にしかできない独自の音楽を世界に発信していきたい」という高い志を話して下さいました。そういう意味でレコード大賞最優秀作品賞の受賞は、佐藤さんの音楽的志向が結実した結果だったのだと思います。

キーボードの演奏に特化するだけでなく、音楽を俯瞰した形で制作する志向を持ち合わせたミュージシャン佐藤博。20歳から始めたピアノスキルの獲得は鍵盤奏者というよりも、自分の表現したい音楽を伝えるための近道だったのでしょう。

今回の佐藤博パートⅢは女性アーティストのアルバムでアレンジを含め、ローズ・ピアノの名演や音楽プロデューサー佐藤博の側面が反映された楽曲をご紹介します。

■ 推薦アルバム:吉田美奈子『フラッパー』(1976年)

吉田美奈子1976年リリースのアルバム。細野晴臣、鈴木 茂、佐藤 博など、ティン・パン・アレー系ミュージシャンが参加。山下達郎、大貫妙子といったシュガーベイブ人脈も花を添えている。
大滝詠一の名曲「夢で逢えたら」、細野晴臣が楽曲提供した「ラムはお好き?」、山下達郎がセルフ・カヴァーした「LAST STEP」といった名曲が聴ける歴史的名盤。
このアルバムで佐藤博は2曲で楽曲提供とアレンジ、演奏を担当している。

推薦曲:「朝は君に」

この楽曲における佐藤博の演奏は、名演中の名演と言われている。冴えたローズ・ピアノプレイが聴ける。
佐藤の弾くトレモロのかかったローズ・ピアノによる点画のようなイントロ。少しブルージーな味わいと共に、歯切れのよいパッセージが絶妙なタイミングで繰り出される。それを更に煌びやかにするのは村上ポンタ秀一と岡沢章の強力なリズムセクションだ。
佐藤自身がアレンジした楽曲は佐藤の独壇場となる。そこには佐藤自身の頭の中に完全に設計された地図があるからだ。ローズ・ピアノの印象的なフレーズがそこかしこに散りばめられている。それは的を射たグリッサンドだったり、Aメロ前のたった1音だったり…。ローズ・ピアノが際立つための佐藤オリジナルの仕掛けであることが分かる。今までにこういったローズ・ピアノの使い方をしたミュージシャンを私は知らない。一聴に値する脂ののった佐藤博だけの演奏がこの楽曲には存在し、眩い光を放っている。

■ 推薦アルバム:佐藤奈々子『Pillow Talk』(1978年)

持ち前のセクシーなウィスパーボイスが冴える佐藤奈々子1978年の名盤。J-POPの源流ともいうべきムードを纏う。その一翼を担うのが佐藤博のキーボードプレイだ。プロデュースは小坂忠が担当。佐藤は「日曜日のフラッパー」「最後の手品」など、3曲の作編曲に絡んでいる。

推薦曲:「最後の手品」

佐藤博の2ndアルバム『タイム』からのカバー楽曲。オリジナルのアコースティックギターの刻みは影を潜め、軽めのボサノバタッチにアレンジを変更。
イントロからローズバッキングの上を泳ぐような佐藤博お得意のカリプソタッチのシンセサイザーソロが聴ける。楽曲での白眉はローズ・ピアノのソロ。佐藤奈々子のウィスパーボイスを意識したかのようなシルキータッチなローズ・ピアノソロは演奏家としての佐藤の真骨頂だ。一部ブルージーなフレーズも聴けるが、何故か黒くないのは佐藤が弾くロース・ピアノのマジックなのだと思う。

■ 推薦アルバム:大上留利子『DREAMER FROM WEST』(1978年)

元スターキング・デリシャスのメンバーで、「浪速のアレサ・フランクリン」の異名を持つ大上留利子の傑作2ndアルバム。新たに組んだバンド、スパニッシュ・ハーレムサイドと、佐藤博(Key)、村上ポンタ秀一(D)、林立夫(D)、松原正樹(G)、山岸潤史(G)、斎藤ノブ(Per)らのファーストコールミュージシャンのサポートサイドで構成される。
全体の音楽監督は佐藤博。ローズ・ピアノが大活躍しているのは言わずもがな。関西出身同士で相性はバッチリ。洗練されたJポップファンクの代表作となった。

推薦曲:「ぶるう・はあと(小唄)」

軽快な16ビートの楽曲。16ビートのローズバッキングはどう弾けばいいのかは、この曲を聴けばいいと言いたくなる程のバッキングが聴ける。バッキング中にグリッサンドを入れ込む手法は、当時の佐藤のブームだったのかもしれないが、各所でこのグリスが聴かれる。その軽快さは佐藤博が持つリズム感覚からくるものだろう。佐藤の休符への洗練された感覚には舌を巻くしかない。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:佐藤博、吉田美奈子、佐藤奈々子、大上留利子など
  • アルバム:『フラッパー』『Pillow Talk』『DREAMER FROM WEST』
  • 推薦曲:「朝は君に」「最後の手品」「ぶるう・はあと(小唄)」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら

鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

カテゴリーから探す

翻訳記事

ブログカレンダー

2024年12月

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31

ブランドから探す

ブランド一覧を見る
FACEBOOK LINE YouTube X Instagram TikTok