初の量産型エレキギター・テレキャスター発表当時、レオ・フェンダーは周囲の意見を取り入れながら、ネジを多用する掟破りの製作方法を考案した。
ストラトキャスターには大小のネジが60本以上ある。
20世紀において、ある意味“工業製品”と言われた所以だ。
大きなネジはボディとネックのジョイント部の4本、トレモロハンガーを支える2本のネジだ。また、ネジの種類も「木ネジ」と「タッピング・ネジ」があり、製作年代により違う。
ネジの調整だけでも、音が変化したり機能を高めたりできるストラトは奥が深い。
ギタリスト土屋昌巳氏はストラトのあらゆるネジを調整して音を変える達人だ。氏にマニアックという軽々しい言葉はもはや当てはまらなく、“究極のカスタマイズ”をする巨匠である。
例えば、ジョイントプレートのネジはストラトの肝であり、ここが固く閉まっていないとサスティーンに大きく影響する。また緩くなると最悪の場合、ボディとネックのバランスが崩れて楽器生命にも影響する。(土屋氏はあえてここを調整なさるが)
特にネックの反りを直す時、ジョイントプレートをはずすVintageタイプは緩みがちになることも無きにしも非ずのため、調整時のドライバー加減は要注意だ。
だが私のストラト人生でジョイント・ネジがトラブルになった事はない。木材のネジ溝に上手く落とし込めば、それ程神経質にはならないと思う。
ピックガードの8点止め、11点止めの小さなネジを調整すると、倍音構成が変わるといわれる。
注)スラブ指板変更当初のストラトは10点止めなどの固体も確認されている。また60年代のミント・グリーン・ピックガードで8点止めのギターも確認されている。(翻訳した洋書『フェンダー・ストラトキャスター 第4版』より)
トレモロハンガーの二本のネジを真鍮に変えるだけでもサスティーンが確実に伸びた。(個人の感想)
FU-Tone ( エフユートーン ) / Claw Springs Brass Screws (2)
これは比較的簡単に交換できて、コストもあまりかからない。おすすめ。
また、シンクロナイズド・トレモロユニットの『ブリッジ・プレート』を固定している6本のスクリューの調整方法は、昔から多くの楽器店・リペア店で行われており、アーミングの精度が変わると言われている。この調整は企業秘密にしている店が多い。
つまり、ネジが多い事はマイナス要因として、ゆるむ事で故障・トラブルを引き起こしかねないということだ。
プラス面としてネジの締め具合や交換で音の変化が楽しめるという。ディープな調整が可能だ。他のエレキギターに比べてネジが多い傾向にある分、デリケートな音作りが可能だろう。
しかし、ネジの調整加減で音を変化させるのは、ギターにかなり精通した上級者のなせる技だと思われる。慣れていない人が行うとそれこそギターを痛めてしまいかねない。
そこでフェンダー・ストラトキャスターの音色をある程度熟知したギタリストのためにネジを変えるだけで、音が変化する一例を挙げたいと思う。
今回は数多あるネジの中からブリッジ・サドルを支える イモネジに焦点を当てたい。
わずか1センチにも満たない12本の小さなネジだが侮ってはいけない。
なぜなら弦振動を直接受け止めるサドルからボディに振動を伝える重要な役割を担っているからだ。

ネック側からみたブリッジ。サドルを支える2本の小さなネジがイモネジ。
素材はニッケル製、ステンレス製があるがサウンドハウスではステンレス製を多く取り扱っている。
また、インチ仕様とミリ仕様がある。サウンドハウスで購入する場合、まずここを注意したい。
交換する際、以下の工具が必要である。手元にない場合は一緒に購入しよう。価格も手頃だ。
保管場所を工具入れやギターケースに分けたりする事を想定し、複数買うのも良いと思う。小さな工具なので紛失しやすい。
● ミリ用六角レンチ
MONTREUX ( モントルー ) / 六角レンチ 1.5mm [8398]
● インチ用六角レンチ
MONTREUX ( モントルー ) / 六角レンチ 1/20" [8405]
交換は六角レンチ一本で出来る。
・・・しかし交換すると、弦高を再調整しなければならない。一般のプレイヤーが危惧する所だ。
では私なりに、多くの方が自分で交換出来る方法を述べる。
手書きのイラストを観て欲しい。
以下、交換手順だ。

- ① イモネジの二本の片方だけを抜く。もう片方は絶体動かしたり、六角レンチで回したりしない
- ② 新しいイモネジを取り付ける
- ③ 抜かなかったイモネジと同じ弦高にぴったり合わす
- ④ 抜かなかったもう片方のイモネジを抜く
- ⑤ 新しく取り付けたイモネジを最初に抜いたイモネジとぴったり弦高を合わす
この方法なら、弦高を再調整すること無くセルフで私はできた。
一つ注意点として、あまり頻繁にイモネジ交換するとサドルのネジ山が緩くなり、機能を果たせなくなると思われる。
次に素材による音の違いの感想を簡潔に述べる。詳しくは自分自身で違いを感じて欲しい。
まずニッケル素材。
● オールパーツ ミリ仕様
ALLPARTS ( オールパーツ ) / GS-0049-001 Pack of 12 Nickel Metric Guitar Bridge Height Sc
● SCUD インチ仕様
ニッケル素材は出音はあまり大きくないが、自然な響きである。
次にステンレス製。
(私がサウンドハウスで実際に購入したもの)
● モントルーオーバル・ポイント
MONTREUX ( モントルー ) / Saddle height screw set inch Stainless Oval Point (12)
● モントルーコア・ポイント
MONTREUX ( モントルー ) / Saddle height screw set inch Stainless Cone Point (12)[9250]
出音がニッケルより大きくなる。若干固めの輪郭がはっきりした音。Vintageと言うより現代的なパワーある音。
さらにベースプレートに接するイモネジの形状が、2種類ある。
- ● オーバル・タイプ(先端が丸みを帯びている)
- ノーマルな温かみある、自然な音
- ● コア・タイプ(先端が尖っている)
- 比較的硬質な、キレのある音
要するに、イモネジの材質で最低2種類、ベースプレート接点で2種類楽しめる。

ここまで解説してきたが『イモネジを替えたくらいで音が変わるのか?』と言われるかもしれない。
個人的には、オリジナルからステンレスに替えて、さらにオーバル・タイプをコア・タイプに変えたところ、音は大きく変化した。
結局、私はデフォルトに戻したが、明らかに音の変化はあった。
万が一、自分で交換して失敗しても、弦高調整をプロに任せればトラブルは皆無だ。
そして交換後は6角レンチを手元に持っておき、万が一サドルが傾いたら、早めに直す事。
皆さんもぜひイモネジを替えてストラトキャスターの音質変化を楽しんでほしい。
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