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Rock’n Me 30 洋楽を語ろう: U2コンサート・レポート@ラスベガス(後編)

2024-01-15

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第30回では、アメリカ・ラスベガスでのU2のコンサート・レポート(後編)をお届けします。
前編で書いた通り、U2は新しく出来たコンサート会場「スフィア(MSG Sphere)」のこけら落とし公演を行い、以降は2月まで連続公演を行っています。そのうち、私は11月4日の公演を観てきました。

U2を知らない人のために少しだけ解説しますが、彼らはアイルランド出身の4人組ロック・バンドです。デビュー前に4人編成になってからはメンバーチェンジが一度もなく、音楽的にも人間関係的にもつながり続けている稀有なバンドです。

自他ともに認めるU2の代表作は、5作目の『ヨシュア・トゥリー (The Joshua Tree)』(1987年)です。このアルバムで、彼らは文字通りトップクラスのバンドへと変身しました。全米ツアー中のドキュメント映画『魂の叫び (Rattle and Hum)』が制作され、そのサウンドトラックとなった同名アルバムでは、B.B.キングやボブ・ディランと共演したり、ブルース、フォーク、ゴスペルなどのアメリカン・ロックに同化したりする動きを見せました。

しかし、U2の凄いところは、あまりにも巨大化したバンドを自らの手でリセットし、音楽性を一気に変えて新しい音楽を創造した点です。第7作目の『アクトン・ベイビー (Achtung Baby)』(1991年)では、アメリカ寄り・社会派な様相をバッサリ切り捨ててしまったのです。ヨーロッパのテクノやハウス・ミュージックを彼らなりに解釈して、最新鋭の尖ったサウンドを創り出しました。あまりの激変ゆえに、発売当時の私は、このアルバムを一度聞いて拒絶してしまい、再び聴くまでに10年かかりました。しかし、今となっては『ヨシュア・ツリー』の次に好きなアルバムです。

■ U2『アクトン・ベイビー』

『アクトン・ベイビー』ツアーの音楽史に残る偉業としては、当時の最新鋭の映像技術を用いて、音楽と映像との融合を試みました。現代のコンサートでは、大がかりな映像効果が当たり前となっています。しかし、それはこのツアーをきっかけに世界中に普及した、と言っても過言ではありません。そんなアルバムから32年が経った2023年。U2ラスベガス連続公演のコンセプトは『アクトン・ベイビー』全曲再現です。当時最先端だった音と映像を現代的に表現し、スフィアの最先端の映像システムと融合させる、というチャレンジです。これまでの地位と名声があるにもかかわらず、あえてチャレンジする姿勢……それは『アクトン・ベイビー』の誕生もそうですし、今回のスフィア連続公演もそうです。

さて、前置きが長くなりました。
いよいよ、公演についてレポートします。(以下、ネタバレを含みます。)

スフィアにはアリーナ席と、1階から4階までの客席があり、ステージを中心に扇状に広がっています。私が観たのは4階のほぼ後ろ…すなわち、もっとも遠い方の席でした。しかし、急傾斜の構造のためか、ステージがそんなに遠い感じはしません。むしろ、大画面を全ての視野で捉えられて没入できる良い位置です。

コンサートの定刻、20時にまず出てきたのはDJ。後になって知りましたが、このDJは「ポーリー・ザ・PSM (Pauli the PSM)」という方でした。日頃はポーリー・ラヴジョイ (Pauli Lovejoy)名義で、ハリー・スタイルズのドラマーを務めているアーティストでした。選曲は、1960年代以降のロックからポップスの名曲群。ビートルズ、モンキーズからペット・ショップ・ボーイズ、ニルヴァーナ、ホワイト・ストライプスまでつなぎました。観客たちはこの時点ですでに興奮気味で、ブラーの「ソング2」ではみんなが「ウーフー!」と叫んでいました。エルヴィス・プレスリーの「ラスベガス万才 (Viva Las Vegas)」など、場をふまえた選曲も気が利いていましたし、DJがスタンディング席に車で乗り込む芸もありました。

観客たちの年齢は10代から60代までさまざまでした。前列には推定40代の両親と推定10代半ばの子供2人が来ていました。その右にはDJで歌い踊りまくる40代くらいの女性2人、左には修行僧のような20代とみえる男性が登場を静かに待ち構えていました。

そして、20:30にはいよいよU2が登場。ステージ自体はシンプルの極みで、レコードのターンテーブルのような丸いステージが用意されているだけです。舞台幕も、巨大照明も、さらにはPAスピーカーも一切見えません。最低限の明かりだけで4人が登場し、壁のような巨大背景が少しずつ変わります。イントロとともに背景にはまぶしい十字架が登場し、ステージが照らされると十字架が切り裂かれるように明るくなり、十字架上に4人のアップ映像が映されました。

私の語彙力では、とても表現できませんので、他公演日での動画をご覧ください。これまで数多くのコンサートに行ってきましたが、こんなにカッコ良いオープニングは他にありませんでした。

■「ズー・ステーション」(公演日不詳)

次いでは、「ザ・フライ」「リアル・シング」「ミステリアス・ウェイズ」「ワン」という、『アクトン・ベイビー』のシングル曲が続きました。全方向に広がる映像があまりにも圧倒的で、音に集中できないほどでした。会場の全方向が映像で包み込まれ、曲の盛り上がりとともに大胆さが増していくのです。映像が変わるたびに「うぉー」という地響きのような歓声が何度も上がりました。

■「ザ・フライ」(公演日不詳。動画2:29以降のギター・ソロでの映像に注目)

■「リアル・シング」(公演日不詳)

主役のボノ(vo)には少々戸惑いました。声が相当かすれていて弱々しく、ハイトーンで苦心しているのが伝わってきました。事前のインタビューでは「ラスベガスでの乾いた砂漠の空気が良くなくて、声を出すのを控えている」とも語っていましたが、連続公演が負担になっていたのかもしれません。その一方、ジ・エッジ (gt / vo) の存在感が目立ちました。『アクトン・ベイビー』のレコーディングで活用したギブソン・レスポール系の出番が多かったです。ボノが苦戦する中、ジ・エッジのバッキング・ヴォーカルはパワフルながら澄んでいて、ボノの不調を十二分に補っていました。

リズム・セクションに話を移します。この連続公演ではラリー・マレン・ジュニア(dr)が療養中のため不在で、オランダ人のブラム・ヴァン・デン・ベルク (Bram van der Berg)が代役を努めています。世界的にはほぼ無名のドラマーでしたが、U2に抜擢されただけあり、ラリーのパートをそつなく演奏していました。演奏音だけでは、ラリーの不在に気づかないほどでした。アダム・クレイトン (ba) はいつもの通り飄々としていましたが、会場の音響が良いためでしょう、高音域までしっかりと響き、ブラムとの完璧なコンビを組んでいました。

『アクトン・ベイビー』を半分ほど演奏した後はアコースティック・タイム。それまでがド派手な展開だっただけに、個人的には4人の演奏に集中できる良い機会でした。もっとも、視覚的効果を求める人には静かすぎたかもしれません。前列の子供たちは完全にダレてしまい、携帯でSNSを頻繁にチェックするし、頭をお母さんにもたれかけるなど、相当飽きていました…あー、勿体ない。

ここで披露されたのは、『魂の叫び』から4曲でした。(「オール・アイ・ウォント・イズ・ユー」、「ディザイアー」、「ラヴ・カムズ・トゥ・タウン」、「ラヴ・レスキュー・ミー」)「ディザイアー」の原曲はジ・エッジの生々しいクランチ・ギターと派手なドラム・ビートが特徴的ですが、ここでは静かなしっとり系となっていました。後奏でボノがブルース・ハープを吹いて、これが強烈にカッコ良かったです。しかし、吹いたのは一瞬だったので、もっと続けてほしかったです。

後半は『アクトン・ベイビー』の静かな曲が4曲続きました。中でも、「ウルトラ・ヴァイオレット Ultraviolet (Light My Way)」は2019年の来日公演でも演奏していた、個人的にも大好きな名曲です。曲のタイトル通り紫色の光が会場全体で爆発していく展開に圧倒されました。

■「ウルトラ・ヴァイオレット」(2023年10月8日)

本編最後の曲はアルバム同様「恋は盲目 (Love is Blindness)」でした。会場が青色に包まれ、昆虫のシルエットが現れるという、かなり不思議な映像でした。加えて、かなり重苦しい曲調のため、エンディングにはあまり向かない気もしました。しかし、その後のアンコールがすごかったので、結果オーライでした。

アンコールでは、まずはアッパーな「エレヴェイション」で観客を盛り上げました。連続公演のために書き下ろされた新曲「アトミック・シティ」では、ラスベガスの街のネオンが、超リアルに映し出されました。しかも、逆タイム・ラプスとなっていて、時間とともに高層ビルが一つずつなくなっていって、「ヴァーティゴ」では砂漠になって暗闇に包まれる中で4人が演奏する…という、手の込んだ演出でした。

■ヴァーティゴ(2023年9月29日)

次いで、暗闇に包まれた砂漠に朝日が照らされ、この日のハイライトを迎えました。U2の代表曲、『ヨシュア・ツリー』から「約束の地 (Where the Streets Have No Name)」「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー ( With or Without You)」の2連発でした。前者では、イントロのキーボードが始まった時点で目頭が熱くなり、ジ・エッジのディレイを用いたギター・イントロで涙腺が崩壊し、リズム・セクションとボーカルが入った頃には鼻水も唾液も垂れる…という展開でした。後者では、中盤の「オーーオーーオーオーーーー」の官能的なコーラスで、映像が途轍もないことになりました。これらの映像を言葉にすることは諦めました!とにかくご覧ください。

■「約束の地」(2023年9月30日)

■「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」(2023年12月8日)

そして最後の最後には、2000年代の名曲「ビューティフル・デイ」。「色々なものを失っても、今日は美しい日だ」という歌詞に号泣し、ヘヴィネスと「美しさ」をたっぷりと感じながらお開きとなりました。

観終わった後は「凄すぎるコンサートを観てしまった」という感慨で満たされました。斬新な会場で最新鋭のテクノロジーを最大限に活用し、スフィアでしか体感できない没入体験となりました。今後、U2がこの選曲でツアーするのかどうかは分かりませんが、どんな会場であってもスフィアの没入体験は再現できないでしょう。幸運なことに、私はその場に身を置くことができ、まさに一生に一度の体験でした。遠い地まで一緒に旅した同行者には感謝の気持ちで一杯です。

2023年11月4日セットリスト

◆『アクトン・ベイビー』第1部

  • Zoo Station
  • The Fly (The Beatles “Drive My Car”抜粋)
  • Even Better Than the Real Thing
  • Mysterious Ways
  • One (Elvis Presley "Love Me Tender"抜粋)
  • Until the End of the World (The Rolling Stones "Paint It Black” 抜粋 )
  • Who's Gonna Ride Your Wild Horses
  • Tryin' to Throw Your Arms Around the World (U2 "Landlady" 抜粋)

◆アコースティック・セット

  • All I Want Is You (Van Morrison “Into the Mystic” 抜粋t)
  • Desire
  • When Love Comes to Town
  • Love Rescue Me

◆『アクトン・ベイビー』第2部

  • Acrobat
  • So Cruel
  • Ultraviolet (Light My Way)
  • Love Is Blindness (Elvis Presley "Viva Las Vegas"抜粋)

◆アンコール

  • Elevation (Claude François "My Way" 抜粋)
  • Atomic City
  • Vertigo
  • Moment of Surrender > Where the Streets Have No Name
  • With or Without You
  • Beautiful Day (U2 "Gloria"、The Beatles “Blackbird” 抜粋)

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ジョシュア

1960年以降の洋楽について分かりやすく、かつマニアックに語っていきます。 1978~84年に米国在住、洋楽で育ちました。2003~5年に再度渡米、コンサート三昧の日々でした。会場でのセットリスト収集癖があります。ギター・ベース歴は長いものの永遠の初級者です。ドラム・オルガンに憧れますが、全く弾けません。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに関するメールマガジン『Depot Street』で、別名義で寄稿しています。
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