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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その155 ~伝説が続くキング・クリムゾンというハンド パートⅥ~

2023-10-17

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

キング・クリムゾン最終章

今回はキング・クリムゾン特集の最終章。締めとして最後のアルバム『レッド』を取り上げます。
いずれにしろキング・クリムゾンというバンドは69年にスタートして74年に終わるまで僅か5年という短い活動期間でした。
しかし、彼らは私にバラエティに富んだ音楽とともに貴重な体験をさせてくれたバンドでもあります。そこにはバンドリーダー、ロバート・フィリップの「得体の知れない想い」が渦巻いていました。
その「得体の知れなさ」こそがクリムゾンの音楽的魅力であり、50年以上にわたり今なお多くのファンからクリムゾンが支持される理由ではないかと思います。
アメーバのように形を変え存在し続けたロバート・フィリップのキング・クリムゾンを、リリースされたドキュメンタリーDVDを教材に考えてみたいと思います。

■ キング・クリムゾンドキュメンタリー『In the Court of the Crimson King ― King Crimson At 50』

ロバート・フィリップが一体何者かの参考にするため、にキング・クリムゾン50周年ドキュメンタリー番組『In the Court of the Crimson King ― King Crimson At 50』を見てみました。そこにはクリムゾンのファースト・アルバムに関わった中心メンバーたちから現在のバンドメンバーに至るまでの貴重な記録を見ることができます。その中で印象的だった幾つかを記すことにします。この映像ピースは私にとってロバート・フィリップがどういう人物なのかを掴むヒントになりました。

ファースト・アルバムドラマー、マイケル・ジャイルスの話

まず第1のヒントは、ファースト・アルバムでドラムを叩いたマイケル・ジャイルスの言葉でした。

「ロバート・フィリップの特技は新しいメンバーをバンドに招き、バンドを活性化させること。キング・クリムゾンはロバートの赤ちゃんで、生み出すには多くの助産師が必要になる」とマイケル・ジャイルスは語っています。
一方、ロバート・フィリップは「私とキング・クリムゾンの関係は69年から2013年までは不幸で悲惨な期間だった」とコメントしています。ということは2013年のトリプルドラマーによる新キング・クリムゾン以前は悲惨な時だったということになります。
フィリップはマイケル・ジャイルスの言葉通り、バンドメンバーを入れ替え続けることでバンドを存続させ続けました。多くのクリムゾンファンはフィリップの苦悩の時間に好意を寄せていたことになり、なんとも複雑な気分になります。とはいえ、ある種偏狭な英国人が作ったいい意味で小難しい音楽が、多くの人に好まれたことは確かであり、その偏狭さこそがキング・クリムゾンの音楽だったとも言えます。
フィリップがある種の問題を抱えた人物というのは有名な話で、このドキュメンタリーを見てもバンドメンバーはフィリップに怯えていることが分かります。フィリップのことを聞かれたときにそれには答えず「彼(フィリップ)に聞いてくれ」と言うなど、自身の答えがフィリップに届くことを警戒している様子が見てとれました。それだけフィリップは圧倒的な立場でクリムゾンに君臨していたことが分かります。

ショッキングな結末、ロバート・フィリップの正体とは

ドキュメンタリー番組最後でフィリップがディレクターに対し、「君はこのライブでクリムゾンの重要な意味を持つ瞬間にいなかった。決定的瞬間を撮り逃した」とコメントし去っていきます。このドキュメンタリーは気難し屋のフィリップが許可を出した番組です。それを最後に「1番大切な部分が無い」と全てを否定してしまう。そして観ている我々もフィリップの確信的迷宮に放たれてしまうことになります。
結局、このドキュメンタリーはDVDとして発売されます。一体何なのだろうと誰もが思うはずです。案外、フィリップにとってこのやり口は確信的であり、バンドメンバーに対してもそういう対応をとってきたのだろうと想像が付きます。
「いつも体のどこかに炎症を抱えている気がしていた。クリムゾンの音楽はそういうものだ」と象徴的なメンバーのインタビューがあります。
一方でフィリップはバンドで一番練習熱心であり、音楽に対するストイックな姿勢を貫いています。「21世紀のスキッツォイドマン」の難しいキメを気が狂うまで練習するというコメントとつながります。音楽に対しては極めて誠実です。

フィリップの「得体の知れなさ」の根源とはバンド崩壊寸前の緊張感を様々な形でメンバーに要求し続けること…それがキング・クリムゾンの音楽を存続させる唯一の方法だったと想像できます。
ロバート・フィリップこそが「21世紀のスキッツォイドマン」だったのかっもしれません。

■ 推薦アルバム:キング・クリムゾン『レッド』(1974年)

トリオになったキング・クリムゾンの7枚目の傑作アルバム。『太陽と戦慄』という新たなキング・クリムゾンミュージックを提示したロバート・フィリップはメディアにもファンにも友好的に迎えられる。しかしパーカッショニストのジェイミー・ミューアはクリムゾンを脱退。6枚目のアルバム『暗黒の世界』では『太陽と戦慄』以来のバンドメンバーであるヴァイオリニストのデビッド・クロスが音楽的志向の違いから脱退します。キング・クリムゾンのメンバーは最後の最後まで固まることはありませんでした。
『レッド』は、ギタリスト、ロバート・フィリップ、ベース、ボーカルのジョン・ウエットン、ドラムのビル・ブラッドフォードのトリオ編成に加え、過去のクリムゾンに参加したメンバーのサポートを受け、制作されたアルバム。アルバム、『ポセイドンのめざめ』や『リザート』『アイランズ』と同様の手法がとられている。

推薦曲:「レッド」

キング・クリムゾンの存続を端的にタイトルにした後期クリムゾンの名曲の1つ。デビッド・クロスがバンドを辞めトリオになったクリムゾンはアルバムの裏ジャケットにVUメーターの針がレッドゾーンに振り切っている。バンドの危機的状況をテーマにしていると思われる。フィリップのレスポールギターによるヘビーなリフから幕を開ける重々しさが印象に残る作品。

残念なのはアルバム全般にわたり、録音がクリアではなくSN比が悪いこと。逆にこの曲を含め、ヘビーな楽曲が多いのでそれも良しとすべきか。

推薦曲:「スターレス」

2013年以降も演奏されているフィリップお気に入りの楽曲。クリムゾン後期のラストアルバムであるライブ盤、『USA』でも最後の曲にクレジットされている。ファーストアルバムの「エピタフ」につながる後期クリムゾンの最大の名曲。テーマのメロディの美しさはクリムゾンの真骨頂だ。絶対零度の暗く美しい最もクリムゾンらしい世界を聴くことができる。後半のイアン・マクドナルドのサックスソロは秀逸。
後期クリムゾンのラストアルバム『USA』ではデビッド・クロスが弾くヴァイオリンではなく、UKのヴァイオリニスト、エディ・ジョブソンによるヴァイオリンに差し替えられている。テーマのメロディも変更されているので比べて聴くのも面白い。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • ロバート・フィリップ、ジョン・ウエットン、ビル・ブラッフォード、デビッド・クロスなど
  • アルバム:『レッド』
  • 曲名:「レッド」「スターレス」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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