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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その130 ~隠れたJポップ名盤特集パートⅢ 国内編~

2023-04-21

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

隠れたJポップ名盤特集パートⅢのヒロインは…

前回の隠れたJポップ隠れ名盤特集パートⅡは桑名晴子さんでした。
今回も女性ボーカリストを2人ご紹介したいと思います。2人とも80年代初期にアルバムをリリースしています。女性ボーカリスト…といっても単なる歌手ではなく、桑名さんと同様にご自身で曲を作り、詞も書かれるシンガーソングライターです。
ご紹介するアルバム2枚も今となってはご存じの方も多くはないと思いますが、両方とも素晴らしいアルバムです。ぜひ、お聴きいただければと思います。

1人目のミュージシャンは…

大学卒業の頃、友人から紹介されたアルバムがありました。「カッコイイから聴いて欲しい」と言われ、彼の自宅でLPレコードを聴きました。
ミュージシャンの名前は豊島たづみさん。私は当時、「誰この人?」といったリアクションをしました。
豊島たづみさんは福岡県出身のシンガーソングライターでCMソングやTVドラマ主題歌などを手掛け、ラジオパーソナリティとしても人気を博しました。オリジナルアルバムも7枚リリースしています。

■ 推薦アルバム:『LONELY ONE』/ 豊島たづみ(1981年)

このアルバムのライナーには『人生の大きな曲がり角に立つ女性への「餞け(はなむけ)」』と本人のコメントが記されている。
様々な餞け的シーンが豊島さんご自身の切り口で展開される。それが実体験なのかどうかを詮索するのは野暮というもの。
豊島さんのライナーノーツからは「アンニュイな女性」と捉えられているようですが実態は全く異なっているとコメントしている。
私がこのアルバムを聴いた時、音的には極めて洗練されたアルバムという印象を持った。レコーディングメンバーを見るとギタリストは松原正樹さん、ベース富倉安生さん、キーボード富樫春生さん、パーカッションキムチ・木村さんといったファーストコールミュージシャン達。前回、前々回の松下誠さん絡みのミュージシャン(富倉安生、富樫春生)の名前も確認できる。
そんな高度な演奏に重なる豊島さんのハスキーボイスはアルバムに都会的な味わいを添え、隠れ名盤と言われるに相応しい内容となっている。
近年、日本のシティポップブームが世界を席巻しているが正にこのアルバムもリストに加えてもいいのではないかと思う。
『LONELY ONE』は2018年にマスターテープよりリマスターされ、更に音質が向上している。

推薦曲:「スモーギー・トーキョー・ナイト」

アルバム冒頭曲。この楽曲を聴いた時に感じたのは、このサウンドは正にスティーリー・ダンだ!ということ。タイトなリズム隊に松原正樹さんのギターが絡まればほとんどスティーリー・ダン。そこに富樫春生さんのフェンダーローズピアノがグルーブを加速する。抑制された楽曲展開と女性コーラスがスティーリー・ダンの名曲「バビロン・シスターズ」を想起させる。ある種ポップスの洗練の極みがここにある。作詞・作曲は豊島たづみさん。

推薦曲:「海の見える窓」

友人の一押しだった楽曲。男女の気怠い1シーンを作詞家 来生けいこさんが見事に描き切っている。♪~クールに装うのは~という一節が私の友人に刺さったらしい。
こういった展開は正に豊島たづみさんの真骨頂。間奏部の八木伸郎さんのブルースハープソロは出色。後半部の美しいコーラスには松下誠さんが参加しており、アルバム「ファースト・ライト」のコーラスを思わせる。

推薦曲:「黒のドレス」

松原正樹さんのご機嫌なギターカッティングから幕を開ける。リズム隊にフェンダーローズのバッキングが加わり、キムチ・木村さんのパーカッションが彩を添える。豊島さんのボーカルが重なり、豊島たづみワールドが展開する。演奏の素晴らしさが光る。
楽曲における「隙間」のカッコ良さを味わうにはもってこいの曲。作詞・作曲は豊島たづみ。

2人目のミュージシャンは…門あさ美さん

このアルバムも私の友人サーファーから紹介されたもの。彼女の名前は門あさ美。私は彼女の名も知らなかったが、アルバムの洗練された音楽に度肝を抜かれました。
サーファーが好むような海をテーマにした楽曲もあり、当時のトレンドも合わさり、お洒落感満載でセクシーなボーカルスタイルが印象的でした。
門あさ美さんは愛知県名古屋市出身でヤマハのポピュラーソングコンテストでの楽曲と歌唱で注目を集めました。

■ 推薦アルバム:『Fascination』/ 門あさ美(1979年)

1979年リリースの門あさ美さんのファーストアルバム。
彼女の声質と歌い回しがある種独特でポップさの中にも大人の色気を感じるアルバムになっている。
彼女も作詞・作曲を手掛ける出色のシンガーソングライター。ミュージシャンのクレジットが無いが、鈴木茂さんや松任谷正隆さんといったティンパン・アレイ系のミュージシャンが関わり、彼女の音楽を洗練させることに寄与している。

推薦曲:「Keep On Loving」

アレンジはティンパン・アレイのギタリスト鈴木茂さんが手掛ける。このアルバムでは鈴木茂さんは3曲のアレンジを担当している。
イントロ冒頭部で歌に突入する直前のハイハットとベースドラムのフレーズが最高!
♪~砕け散る波間という歌詞と見事に連動している。このドラムアレンジが鈴木茂さんなのか、ドラマーなのかは定かではないが、このイントロを聴いただけで景色が浮かんでくる。私もこのイントロを聴き、ノックアウトされてしまった。フェンダーローズピアノの響きが美しい!
楽曲はボサノバをベースにしている。楽曲中のディミニッシュコードがお洒落!この辺りのメロディセンスは門あさ美さんの真骨頂で自身の特徴を強調する術を知っていると感心させられる。

推薦曲:「Good Luck」

この楽曲のアレンジは松任谷正隆さん。弦によるオーケストラアレンジがとてもリッチ。
門あさ美さんの優雅さ、アンニュイさを見事に際立たせている。様々な音をてんこ盛りにすることなく、余分なものを省いたアレンジは松任谷さんのセンスの良さを物語っている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:豊島たづみ、門あさ美、鈴木茂、松任谷正隆、松下誠など
  • アルバム:「LONLY ONE」「FACINATION」
  • 曲名:「スモーギー・トーキョー・ナイト」「黒のドレス」「海の見える窓」「Keep On Loving」「Good Luck」
  • 使用楽器:アコースティックピアノ、フェンダーローズピアノなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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