■ ランドグラフとは?
アメリカ フロリダ州にてハンドメイド ・ペダルやギター関連機材をカスタマイズしていたジョン・ランドグラフ。我が国には2000年代初頭に日本の楽器フェアにて紹介された事が記憶にある。試奏は恐らくNGであったと思われる。何故ならば、ガラスケースの中で紹介されていたからだ。
以前、【歪みについて】の記事で、ランドグラフについて簡潔に触れた。今回はもう少し深く取りさげて話してみたいと思う。
ランドグラフ氏は、ダイナミック・オーバードライブ(以後略してDOD)、MOD ディストーション(以後略してMOD)、ディストーションBOX(以後略してBOX)、クリーンブースター、ブルースボックス・・・等のコンパクト・ペダルをハンドメイドで製作していた。
しかし、残念な事にランドグラフ氏は既に他界している。DODは約2500台前後生産されたと思われる。途中から奥様も製作に携わっていた。
裏ぶたの、熱烈な書き込みは日本に輸出される頃になると、筆記体からブロック体に変わってゆき、やがて裏蓋に夫婦の名前が記されるようになる。
ランドグラフは、ハンドメイドならではの小回りの効く工房であったと推測できる。
特注で製作された中には、なんと2台分の大きさのモデルなども作られた。その様な仕様のペダルが最近はネットに出品されると、瞬時に売れている。
またアンプのモディファイも手掛け、ここ一年、日本でランドグラフ氏のモディファイ・アンプが最低1台は市場に出たのを確認したが、これも瞬時に売れてしまった。ランドグラフ氏にはもっとアンプのカスタマイズに頑張って欲しかったと悔やまれる。
■ 20年前の私は歪みの沼にどっぷり浸かっていた。
私はエレキギターを購入してからまもなく定番のBOSSスーパー・オーバードライブSD-1、ディストーションDS-1、二台を入手した。
それから数年間弾き込んで、バンドを組み、ターボ ・オーバードライブOD-2、OD-3、ブルース・ドライバーBD-2などBOSSの歪み系を体験した。その後、耳が肥えてきたので、雑誌で評判の良い機種など、オススメの国内製、海外製の歪み機材を購入しまくった。
現在、上質なハンドメイドタイプが多く発売され、歪み系の価格が尋常ではなくなってきている。特ににケンタウルスは投資になっているかの高値で、発売開始の価格から10倍以上の値が付けられた個体も存在する。(2022年夏以降の市場価格より)
■ では私が何故DODを購入するのに至ったか?
それは、DODを愛用しているプロギタリストの音が、私の理想の音に近かったからである。またランドグラフは音質も優れていただけではなく、値段が常識から逸脱していて、逆にそれがセールスポイントであった。ランドグラフと言う名前も力強い感じがした。
■ 出逢い
ランドグラフは一台ごとにデザインが違う。そのマーブルペイントはアーロン・プリンスと言う人物が手掛けていた。私は中古品で在庫がある事をネットで確認して、御茶ノ水 界隈から少し離れた楽器店に向かった。
初めて楽器店のショーウインドから出された赤色と金色のペイントの混じったDODは神々しかった(写真参照)。ガラスケースに鎮座してあったそれを店員さんに出して貰って、比較品としてもう一台店頭から出してもらい、まずはコピーモデルの国産の3モード系DODを防音室で思い切り試した。

赤色の DOD800番台。『外観全体2葉 』
購入してから10年以上経つが、今でも愛用。レベルつまみにガリノイズが多少あり。
次に、ランドグラフ歪みを試してみた。明らかに歪み・音色、艶が見事に調和しており、一言で述べるなら海外製ペダルの中でも当たりの色気ある音圧感があった。ワンランク上のチューニングがなされており、特に抜けも抜群に良かった(私個人の感想による)。現在2022年市場価格の半額以下の値段で入手出来た。
■ その後 DODを入手して10年経った。
それまでは歪みペダルを購入し、売ってはまた買い、また売っては買いを繰り返ししてきた。漸く歪みの沼から脱け出して、今でもランドグラフは私のギターケースの中で常にスタンバイされている。
では、私が最高のペダルとして愛用している「ランドグラフ・ペダルとは何?」と思っているギタリストに、あらためて音について説明しよう。
■ DODのコンセプト
ランドグラフの看板機種。アイバニーズのチューブ・スクリーマー などをベースにしたオーバードライブだ。回路に詳しいギタリストなら「チューブスクリーマーの部品を少し変更しただけだろう」とのコメントを頂きそうだが、実は全く違うと私は考える。
例えてみよう。
腕利きの料理人を3名集めたとしよう。
もし、同じ材料でスープを作ったら同じ食材だが味は3人共違うはずだ。
ペダルも設計者、製作者が違うと部品が同じでも少しは確実に音が違ってくるはずだと思う。
ただし、好みや耳の違いで、「ランドグラフは値段が高いだけで、全然良くない」という意見もあるだろう。ギタリストにとって歪みの嗜好は千差万別だ。
DODのコントロールは左からドライブ、トーン、レベル。ミニスイッチは3パターンある。上からマーシャルモード、真ん中ダンブルモード、下チューブスクリ-マーモードに設計されている。当初代理店であった【タハラ】が翻訳した英訳文には上からダンブル、マーシャル、チューブ・スクリーマーと誤訳されてあった 。
■ 音・特徴について
豪快なダイナミックレンジで上品であり、歪ませても息切れする事なく、余裕に歪む。また緻密性を帯びており、自宅用からスタジオ、ライブに至るまでどのシーンにも対応する魅力がある。何度も書くが、とにかく艶や色気、ワイド感があるこのサウンドは日本人にはちょっと真似出来ない。
1990年以降の強力に歪んだサウンドには対応しないかも知れないが、ハード・ロックには充分使う事が出来る。タハラの使用説明書には「ミニスイッチを真ん中にしてゲインをさげて、ボリュームを上げると中低音をクリーン・ブーストが得られる」、と書かれている。試したが劇的にブーストする事は無さそうだ。
私の一番好きなスイッチポジションは真ん中のダンブルモード。美味しいミドルが際立った音域に「これがランドグラフか~!」と大音量で弾いて唸ってしまった。オリジナリティがあり奥深い。ジェラルミンで出来た爆撃機のエンジンの如く豪快な音だ 。
小さな会場での演奏なら「レベル」は8時から9時あたりでギターから適切な音量を得られる。一般家庭で鳴らせる僅かな音でも、DODはかなり満足するはずだ。昨今の1W~5W低出力の真空管アンプと良い勝負だ。
■ ランドグラフを使う上での注意事項
その後ブルースボックス以外ランドグラフ製コンパクトエフェクターを試してみたが、歪み3機種、DOD、MOD、BOXに共通する注意点がある。特にライブで誤ってこれやってしまったら、ひんしゅくを買う事必至だ。
それは・・・ミニ・スイッチ「下」のチューブ・スクリーマーモードから、「真ん中」のダンブルモード、マーシャル・モードにミニ・スイッチ切り替えるとき、「レベル」を下げなくて、レベルつまみを上げたままスイッチをダンブル、マーシャルモードに変えたなら、大音量になってしまい、真空管アンプだとダメージを受けて、壊れるかもしれない。それ以前にオーディエンスに不快感を与え、プロとしてやってはならない事だ。
これは故障ではなく、一気に音量が上がる設計なので仕方がない。ランドグラフを扱う点で一番気を付けなくてはならないポイントである。くれぐれもお気をつけて。
■ ランドグラフのメインテナンス等
ランドグラフ氏のメッセージにはオーナー様向けの、コピーされた手紙にはあまり触れていないが、惜しみの無い贅沢なパーツを使用し、さらに内部パーツは高級オーディオに使われる部品なども使われている。スイッチも 軽い スイッチではなくアナログの一番耐久性のある、スイッチを 厳選している。以前私が所有していた、米国のフルトーン社で使用されているスイッチと互角の丈夫さだ。(写真参照)

ランドグラフ ダイナミック・オーバー・ドライブの内部全体写真。
もう一つ注意点としてつまみが緩くなる場合がある。がたつく前に緩くなったら直接さわる、つまみを外して、早めに工具でもとの部分を閉めておく事。手先が不器用な方は、高額なペダルなので、ギターやペダルに詳しい専門のリペアマンに依頼するのが賢明だと思う。
また、3個のつまみは使わないで放置しておくと、いくら高級パーツをふんだんに使用されていても、それとは関係なく一般のペダル同様ガリノイズが発生する。
また特長として、個人の感想だが、DODは一般のオーバードライブより電池の消耗が僅かながら早い気がする。
中古品を購入する際、前オーナーがどれだけ使用したか気になる方は、それを調べる目安として内部のジャツクの先端がどれだけ接合し磨耗したか?ここを見れば容易にわかる。綿棒にクリーニング液を付けて接点のみ汚れを取ろう。それでもノイズがあればジャツク交換だが、私はギターほど頻繁に扱わないので、あまり心配しない。
サウンドハウスでも、以前DODを半年~一年ばかり販売していた。
■ 音に関する特徴の追加
私の所有した感想だが、開発初期の音の特徴は一言で言うとパワーがある。数百番台以降になると豊潤な歪みとなり、末期になるとパワーと深みがミックスした音になる傾向だ。言葉使いはだいたいで読んでほしいが、年代ごとにサウンドも確実に変化する。
小さな基盤に心臓部のJRC4558 ICチップは、一つひとつに数値に微妙な違いがあり、音に影響がある。ペダル内部はとても小さな四角い基盤にパーツを立たせて 配置しており、半田は、銀半田を使用している。以上からも、前例にないオリジナリティーがあった。


DOD基盤を少し 下から見るとパーツの立ち上がり具合が分かると思う。
ひとつひとつ外観のデザインが違うため、御自身の好みと一致したら、それもまた買いだと思う。ラック式でない限り、ギターを弾く度にペイントを見るので、柄もある程度拘った方がよいのではないか?と考える。昨年あたりの市場から消えた商品は青系統のペイントが多かった。
表面反対にランドグラフ氏のサインが原則ある。一般に初期物は太くて力強い名前の書き方。中期は繊細な文字で、2010年以後は概して細字。晩年は体調を崩したせいか、太く書いてあるが、崩れている筆跡が多い。
■ 最後に
ランドグラフのペダルは今後市場から少なくなって行く事は確かだが、増えることは無い。
また、このような優れたペダルを開発するのには時間がかかるだろう。
サウンドハウスで扱っている現行品で、尚且つ超高額ではなく、音の良いもの・・・。
探した。私はMAD PROFESSORの『Royal Blue Overdrive Factory』を おすすめしたい。
MAD PROFESSOR ( マッドプロフェッサー ) / Royal Blue Overdrive Factory
ゲインを0にすればクリーンブーストとして使え、ハンドメイド版ではないので、お求め安い価格設定になっている。
この会社は『Sweet Honey Overdrive Factory』の方が有名だが、私はあえて『Royal Blue Overdrive Factory』をお勧めする。
このペダルは歪みの可変幅が広く、DODと同様にダイナミックレンジも広い。ピッキングによって歪み方が変わる追従性も魅力だ。また、そのルックスも渋い。『英国のリバティ デパート』のイメージカラーとほぼ同じでカッコ良い!
量産ペダルを二台買う事を考えたら、非常にお得な優良ペダルだと思う。
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