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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 ~ブラジル/ラテン音楽名曲レビュー!日本人アーティストのポップス名曲集~その98

2022-10-18

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

誰もが知っている?ボサノバ由来ポップス 第4巻

第4巻は前回より更に位相を変えて、1970年代から1980年代の歌謡曲というカテゴリーの中に突然現れたニューミュージックと言われるジャンルから、ボサノバをベースにした音楽を検証する第4巻です。

一番嫌いだったボサノバ…

10代、20代初期の私はボサノバというジャンルに興味はありませんでした。しかし、様々な音楽を聴く中でボサノバの凄さ、ブラジル音楽の素晴らしさを認識した私でした。
まずはユーミン!誰もが知っているあの曲です。その他にも稲垣潤一さんの「ロング・バージョン」など、70年代から80年代にかけてのニューミュージック時代の「ボサノバ」の名曲を検証します。

■ 推薦アルバム:荒井由実『YUMING SINGLES 1972-1976』(1987年)

荒井由実名義のアルファ時代「ひこうき雲」「ミスリム」「コバルト・アワー」からの重要曲に加え、シングル発売された楽曲をカップリングしたアルバム。

推薦曲:「あの日にかえりたい」

冒頭のスキャット部分がこの曲の素晴らしさを象徴している。
ボサノバやサンバの特徴の1つにAメロ、Bメロ、サビ以外にイントロやアウトロ部分にスキャットで別のメロディを付加することがある。このメロディがブラジル楽曲のサウダージ感を後押し、憂いを帯びたメロディが楽曲をさらに印象的なものにする。
このイントロを歌っているのは元ハイファイセットの山本潤子さん。どうしてユーミンが歌っていないのかは疑問ですが、それは愚問ですね(笑)。
このイントロはアレンジャーである松任谷正隆さんによるものと想像されますが、本当に素晴らしいメロディだと思います。ボサノバベースのこの曲にある種の品位を与えています。フェンダーローズのプレイもそつがない。

番外編としてこの曲にまつわるエピソードを1つ。2コーラス目で「今、愛を捨ててしまえば♪~」の直後(2分35秒辺り)、ドラマーの林立夫さんがフィルを入れる際にスティックを飛ばしてしまい、その後の演奏は差し替えられている。

■ 推薦アルバム:稲垣潤一『SHYLIGHTS』(1983年)

稲垣潤一さんは1953年生まれの、宮城県出身のドラマーでボーカリスト。「ドラマティック・レイン」が大ヒットした。ニューミュージック全盛の80年代初期にドラムを叩きながら歌う演出で人気を博した。
今回、取り上げた楽曲「ロング・バージョン」は84年にリリースされた「J.LIVE」にも納められている。このライブアルバムには私が大学生時代、キーボードを教えてくれた音楽学科出身のS君が稲垣潤一バンドのキーボード奏者として参加している。
S君はプログレ大好き小僧で、四人囃子の「一触触発」やUKのファーストアルバム「闇の住人」などを完全コピーしていた。素晴らしいS君のシンセサイザープレイも是非聞いて欲しいと思います。

推薦曲:「ロング・バージョン」

曲が安部恭弘さん、アレンジが井上鑑さんというシティポップの名手が楽曲を手掛けている。
前述した「あの日に帰りたい」と同様で、この「ロング・バージョン」のイントロも素晴らしい。ボサノバにブラジル由来のイントロ、アウトロを持ってくる場合はそのメロディの出来が楽曲の良し悪しを左右する。一般的にはイントロはアレンジャーの領域であるため、井上鑑さんの音楽家としての高い能力を垣間見ることができる。
アレンジ的にもボサノバベースである為、多くの音は使われていないし、演奏も主張をしていない。バッキングがシンプルな分、秀逸なイントロのメロディが際立つ。
曲中で「似たもの同志のボサノバ~♪」という件部分で井上さんのピアノのフィルインが洒落ている。稲垣潤一さんのくぐもった声もこの曲との親和性が高い。

■ 推薦アルバム:庄野真代『ぱすてる33 1/3』(1977年)

庄野真代さんが1977年にリリースしたサード・アルバム。荒井由美さんの名曲「中央フリー・ウェイ」のカヴァーも秀逸なニューミュージックの名盤。
ギタリストは松木恒秀さん、吉野藤丸さん、吉川忠英さん、ベースは後藤次利さん、ドラム、パーカッションは林立夫さん、嶋村英二さん、齋藤ノブさん、キーボードは佐藤準さんなど国内のファーストコールミュージシャンが顔を揃えている。
このアルバムは「グッバイ・モーニング」「ラスト・チャンス」「カフェテラス」など、佳曲揃いで聴きごたえがある。また、庄野真代さんの瑞々しい歌唱にも好感が持てる。 「飛んでイスタンブール」の大ヒット前夜のシティポップの名盤。

推薦曲:「そうしましょうね」

この曲の素晴らしさはギタリスト、松木恒秀さんの演奏に尽きるといっていい。松木さんのプレイが頭抜けている。是非、このイントロを聴いて欲しい。ギター1本で説得力のあるイントロの構築力…ボサノバにこのイントロを持ってくるかという想定外のイマジネイションに脱帽する。これだけのプレイは松木氏にしかできないのではないかと思う。
松木さんはアコースティック・ギターとエレクトリックギター両方をプレイしている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:荒井由実、稲垣潤一、庄野真代
  • アルバム:「YUMING SINGLES 1972-1976」「SHYLIGHTS」「ぱすてる33 1/3」
  • 曲名:「あの日に帰りたい」「ロング・バージョン」「そうしましょうね」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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