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Rock’n Me 22 洋楽を語ろう:アレックス・メルトン

2022-04-19

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第22回目は、Youtubeアーティストのアレックス・メルトンAlex Meltonについて語ります。日本では文字通り無名の存在で、彼の日本語記事はたぶん私が初めてです。(グーグル検索をしても、日本語情報に限定すると一切ヒットしませんでした。)

アレックスはYoutubeで29万人以上の登録者(執筆時点において)を誇り、ヴォーカル・ギター・ベース・ドラムすべてをこなすアーティストです。これだけだったら、あまり珍しくないかもしれません。彼の得意技は「〇〇を△△風に演奏してみた」で、〇〇と△△両方の特徴をうまくとらえ、彼ならではのオリジナルな作品にしているところです。ユーチューバーになったきっかけは興味深いので、数少ないインタビューなどを通じて、そのエピソードをまとめます。

アレックスは、高校時代からブリンク182とサム41などのポップ・パンクが大好きで、彼らのCDを繰り返し聴く日々を過ごしました。大学に進むと音楽を専攻し、プロデュース業を学びました。本業の合間に、米国サウスカロライナ州の自宅内にスタジオを作りました。スタジオの顧客を確保するためにYoutubeチャンネルを作り、デモ演奏を公開するようになりました。

2020年初頭には新型コロナウイルス感染症がアメリカで急速に広まり、アレックスは本業を失いました。しかし、これが「災い転じて福となす」となりました。彼は音楽制作に時間を費やせるようになり、「〇〇を△△風に弾いてみた」の動画制作に注力し始めました。アレックスは「Youtubeではジャンルを替える(genre-flippingジャンル・フリッピング)動画に大きな市場があって、それをうまくやれば、パロディにとどまらない、正当な芸術になる」と語っていました。視聴者が徐々に増え、ユーチューバーが本業となり、さらにはレコード契約にまでつながったので、大したものです。もちろん、それを実現させるために「うまくやる」のが大変なのですが!

アレックスがもっとも得意とするのは「〇〇をブリンク182風に演奏してみた」です。これを理解するためには、まず大元のブリンク182を知ることが求められます。ブリンク182というと、その明るさとおふざけ丸出しのプロモーション・ビデオのため、「おバカバンド」というレッテルを貼られがちです。例えば、この大ヒット曲では、当時のボーイズ・バンドをおちょくった風貌で登場し、ブリーフ一丁で踊りまくっています。これでも十分ビジュアル的には強烈ですが、このくらいなら可愛い方です。同じく大ヒットした"What's My Age Again?'' は、メンバー3人が全裸で街を走り続けるビデオで、職場で見ているのがバレたら即解雇、という内容です。(職場にいない方は、ぜひYoutubeで検索してください。)

■ ブリンク182 "All the Small Things"

さて、そんなブリンク182のアレンジ的な特徴はいくつかあります。ヴォーカル的にはオクターブあるいは3度でのハーモニー、ギター的には①クリーントーンでのイントロ〜Aメロ、②ミュートしたパワーコードでのBメロ、③サビでのコードかき鳴らし、ベース的には堅実なルート弾きと和音のコントラスト、ドラム的には手数の多い高速フィルインが定番です。この手法に基づき、ジャーニーやオアシスの超有名曲をブリンク182風にすると、こんな感じになりました。

■ ジャーニー "Don't Stop Believin'"

■ アレックス・メルトン "Don't Stop Believin'" ( ジャーニーをブリンク182風に弾いてみた)

■ オアシス "Wonderwall"

■ アレックス・メルトン "Wonderwall" ( オアシスをブリンク182風に弾いてみた)

アレックスのもう一つの得意技は「ドラムをハーフタイムにしてみた」企画です。ロックの曲では、スネアが通常2拍4拍に入っています。ハーフタイムというのは、これを3拍のみにすることです。このドラムの変化により、聴覚的には1/2倍速になって聞こえます。この手法を使うと、ジミー・イート・ワールドの大ヒット曲"The Middle"が大変身します。このように、アレックスのアレンジ力とセンスの良さにはただただ感心です。

■ ジミー・イート・ワールド "The Middle"

■ アレックス・メルトン "The Middle"( ジミー・イート・ザ・ワールドをハーフタイムにしてみた)

これの発展型としては「ジャンルを変えてドラムをハーフタイムにしてみた」企画もあります。その題材となったのが、グリーン・デイの大傑作、"American Idiot"。原曲のテーマは、イラク戦争下のアメリカ政権を痛烈に批判したものです。そのメッセージを込めたエネルギー満載のアップテンポナンバーで、グリーン・デイを一気にスタジアム級のバンドへ進化させました。しかし、アレックスは、この曲を近代カントリー風にアレンジしました。ドラムをハーフタイムにすることで、程よいメロー感とポップ感を醸し出しています。

■ グリーン・デイ"American Idiot"

■ アレックス・メルトン"American Idiot"( グリーン・デイをカントリー風にして、さらにハーフタイムにしてみた)

この調子で紹介していくとキリがないので、締めとして、シンガー・ソングライターのヴァネッサ・カールトンによる2002年の大ヒット曲、"A Thousand Miles"のカバーを紹介します。原曲では、イントロのキャッチーすぎるピアノ、ヴァネッサの透き通るような声と切ないメロディーが哀愁を誘います。アレックスはこの曲をブリンク182風にしていますが、この出来がまた素晴らしいのです。ギタートリオ編成にアレンジして、どう聞いてもブリンク182風のパンクポップ。しかし、原曲が持つ哀愁感は別の形ながら保たれています。

実は私もブリンク182を「おバカバンド」とレッテル貼りして嫌悪していた一人でした。彼らの全盛期には、街の中で流れる彼らの曲が耳に残りながらも、はじけ過ぎるプロモーション・ビデオに抵抗感を示し、音源を買ったことはありませんでした。しかし、最近になって改めて聴き込んだら、すっかりハマってしまっています。振り返ってみると、ブリンク182は、ただ「おバカ」をしているだけではありません。その歌詞では青春のはかなさ、大人になる葛藤、人生関係の難しさなど、けっこう奥深いテーマを歌っています。「おバカ」の陰にある哀愁感、そしてアレックスの圧倒的な演奏・編曲能力により、アレックスのブリンク182風アレンジは人の心を打つのでしょう。

■ ヴァネッサ・カールトン "A Thousand Miles"

■ アレックス・メルトン "A Thousand Miles"( ヴァネッサ・カールトンをブリンク182風にしてみた)


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ジョシュア

1960年以降の洋楽について分かりやすく、かつマニアックに語っていきます。 1978~84年に米国在住、洋楽で育ちました。2003~5年に再度渡米、コンサート三昧の日々でした。会場でのセットリスト収集癖があります。ギター・ベース歴は長いものの永遠の初級者です。ドラム・オルガンに憧れますが、全く弾けません。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに関するメールマガジン『Depot Street』で、別名義で寄稿しています。
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