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Rock’n Me 20 洋楽を語ろう:盗作疑惑~トム・ペティの場合

2022-02-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第20回目では、洋楽界を騒がせた盗作疑惑について、そのごく一部を取り上げていきます。「そのごく一部」と書いたのは、この手の話はあまりにも多すぎて、それだけを取り上げてもコラムが10編書けるぐらいです。さらに話を拡大して、洋楽をパク...いえ、拝借した邦楽なんかに首を突っ込むと収拾がつかなくなるので、今日はやめておきます。このため、このコラムでは話をかなり絞ってみます。私が敬愛するアーティスト、故トム・ペティ(以下、TP)が率いたバンド、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ(以下、TP&HB)の楽曲にテーマを絞り、繰り広げられた盗作疑惑を振り返っていきます。

■ 盗作疑惑① TP&HB “American Girl”-『Tom Petty & the Heartbreakers』(1976年)収録

この曲はTP&HBのデビュー・アルバムに収録されていました。彼らが影響を受けたボ・ディドリーのようなリズム・パターン(いわゆるボ・ディドリー・ビート)と、ザ・バーズのロジャー・マッギンを思い出させる歌声で、新人とは思えないような風格を感じさせる曲でした。「ロジャーの曲をパクったのでは?」という疑惑が浮上し、実際ロジャー本人が”American Girl”を聴いたところ、「自分の曲かと思った」と驚いたほどでした。しかし、それがTP&HBの楽曲だと分かると、ロジャーはTP本人から曲の手ほどきを受け、自分のレパートリーにし、TPとの交流を深めていきました。

この曲を巡る元ネタが再び話題になったのはその25年後、ザ・ストロークスのデビュー作『Is This It』(2001年)のシングル曲”Last Nite”においてです。イントロのギターとドラムが”American Girl”に酷似していると指摘されましたが、TPは「(ザ・ストロークスは)うまく引用した、と思ったよ」とコメントし、それ以上の問題にはなりませんでした。

■ TP&HB “American Girl”

■ ザ・ストロークス “Last Nite”

■ 盗作疑惑② TP&HB “Mary Jane’s Last Dance”-『Greatest Hits』(1993年)収録

1993年に発表されたこの曲は、イントロのギター・プレイ(Am→G→D→Am)であっという間に惹き込まれる魅力的な曲です。女優キム・ベイシンガーが出演したプロモーション・ビデオも手伝い、TP&HBの代表曲の一つとなりました。大物プロデューサーのリック・ルービンが制作に関わりました。

その13年後、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ が”Dani California”(2006年『Stadium Arcadium』収録)を発表したところ、そのイントロがTP&HBそっくりということで、盗作疑惑が持ち上がりました。プロデューサーは、なんとリック・ルービン。1拍目で5弦開放をミュートして弾き、2拍目でコードをかき鳴らすパターンが共通しています。コード進行を厳密に分析すると、Am→G→Dm→Amと若干異なっていますが、私が初めて聴いたときには「あれ、これマズいんじゃねー?」と焦ったことを覚えています。TP本人はこのことを聞かれたところ「悪意があったとはとても思えない。ロックンロールの曲の多くは似てるから」と答え、これまた法的問題にはなりませんでした。

さらには、ザ・ブラック・キーズの『El Camino』(2011年)のシングル曲”Little Black Submarines”も、後半のエレクトリック・パート(プロモーション・ビデオ動画1:05以降)がソックリ感たっぷりです。コード進行はAm→G→D→Aと、似てるようで異なりますが、これについてのTPのコメントは読んだことがありません。

実は”Mary Jane’s Last Dance”自体に元ネタがあった疑惑があります。ミネソタ州出身のバンド、ザ・ジェイホークスの『Hollywood Town Hall』(1992年)に収録された”Waiting for the Sun”のイントロがとても似ていて、かつ先に発表されているのです。コード進行はAm→G→F→Fですが、1拍目2拍目のギターパターンはそっくり。しかも、レコーディングにはTP&HBのキーボーディスト、ベンモント・テンチが参加していました。ただし、TPは”Mary Jane’s Last Dance”を1989年に書いたと証言していますので、今となってはその真相を知る由もありません。

■ TP&HB “Mary Jane’s Last Dance”

■ レッド・ホット・チリ・ペッパーズ “Dani California”

■ ザ・ブラック・キーズ “Little Black Submarines”

■ ザ・ジェイホークス “Waiting for the Sun”

■ 盗作疑惑③ TP&HB “Swingin’”-『Echo』(1999年)収録

カリフォルニア出身のバンド、パロアルト…といっても、殆どの人が知らないほど売れなかったバンドでした。 “Breathe In”(2003年発表)という曲が、TP&HBの”Swingin’”という曲に恐ろしいほどに酷似しています。キーは同じDで、曲の速度、イントロのギター・フレーズから、ドラムの入り方、ベースのフレーズ、Bメロでのモジュレーションの使い方まで、確信犯としか思えません。このアルバムのプロデューサーは、またまた登場しましたリック・ルービン。ついでに、”Swingin’”と”Waiting for the Sun”をプロデュースしたのは、リックの盟友ジョージ・ドラクリアス...。となると、疑惑が色々と膨らんでしまいます。

■ TP&HB “Swingin’”

■ パロアルト “Breathe In”

■ 盗作疑惑④ TP “I Won’t Back Down”-『Full Moon Fever』(1989年)収録

次の盗作疑惑は、本人もTPも類似性を認めて、示談交渉が成立したケースです。大物新人シンガーとして、2014年に華々しくデビューしたサム・スミス。しかし、シングル曲”Stay with Me”がTP “I Won’t Back Down”にあまりにもそっくりすぎでした。さすがのTPもこの件は黙っていられなく、水面下で示談交渉に挑み、その類似性をサム・スミスも認めることになりました。示談交渉が成立し、TPと共同作曲者のジェフ・リンは”Stay with Me”の作曲者として名前が加わり、印税の12.5%を受け取ることになりました。

話題はそれますが、”I Won’t Back Down”のプロモーション・ビデオでは、ジェフ・リンに加えてジョージ・ハリソンとリンゴ・スターのビートルズ2人組が参加していて、不朽の名作となっています。

■ TP “I Won’t Back Down”

■ サム・スミス “Stay with Me”

■ 盗作疑惑⑤ TP&HBの何かの曲

ラッパーとして大活躍していたマシン・ガン・ケリーがロックに転向し、ブリンク182のドラマー、トラヴィス・バーカーとタイアップしてアルバム『Tickets to Downfall』(2020年)を制作しました。しかし、このアルバムは、発表直前に収録曲が差し替えられました。”Times of My Life”という曲がTP&HBの作品に酷似していたとの指摘があり、本人側がTPの遺族に打診しましたが、使用許可が下りずに、最終的には収録が見送られました。TP&HBのどの曲に類似しているかは公表されていません。個人的にラップは守備範囲外ですが、このアルバムは純粋なポップ・ロックとなっていて、トラヴィスの超高速ドラム・フィルもしこたま入っていて、かなり楽しめます。

このように、アーティストを一つとっても、この話題はごまんと出てきます。それぞれの曲の時代背景や制作陣を考えると、妄想はますます膨らむばかりです。この話題に関心を持たれた方は、好きな「あの曲」や「あの曲」の疑惑を調べると出てくる…かもしれません。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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ジョシュア

1960年以降の洋楽について分かりやすく、かつマニアックに語っていきます。 1978~84年に米国在住、洋楽で育ちました。2003~5年に再度渡米、コンサート三昧の日々でした。会場でのセットリスト収集癖があります。ギター・ベース歴は長いものの永遠の初級者です。ドラム・オルガンに憧れますが、全く弾けません。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに関するメールマガジン『Depot Street』で、別名義で寄稿しています。
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