今回は、リクエストがあったディメンションコーラスについての特集です。
まずはご存じない方のために、ざっくりとした説明を。
理論編が諸事情によりかなり面倒になってしまうので最後に回しておきます。
ディメンションコーラスとはRoland SDD-320, "Dimension D"をはじめとする「揺れない」コーラスの総称です。
揺れない理由については後述しますが、通常のコーラスの音程のブレがなく、しかし音の広がりはコーラスそのもの、という透明感のあるエフェクトを掛けることができます。
現在新品で入手可能なディメンションコーラスは非常に少なく、確認しているのはストンプボックスが4つとマルチが1つ、それだけです。
紹介していきましょう。
BOSS ( ボス ) / DC-2W Dimension C
BOSS DC-2を技クラフトシリーズとして復活させたものがこちら。
StandardモードとSDDモードを搭載し、DC-2のサウンドとSDD-320のサウンドをどちらも再現しています。
アナログ回路を用い、プリセットボタン4つのうち2つまでは同時押しが可能で、さらにステレオ対応、と本家SDDの仕様を継ぐストンプボックスとなっています。
TC ELECTRONIC ( ティーシーエレクトロニック ) / 3RD DIMENSION CHORUS コーラスペダル
こちらはTC ELECTRONICによるDC-2のコピーですが、DC-2、SDD-320のどちらとも違いプリセットボタンの4つ同時押しが可能です。
回路はDC-2Wと同じくBBD素子を用いたアナログ回路を採用しており、高品質なディメンションコーラスを得ることができます。
ディメンションコーラス類の中ではかなり安価な部類に入ります。
One Control ( ワンコントロール ) / Dimension Blue Monger
BJFの設計によるディメンションコーラスです。
そのモジュレーションはコーラスとフランジャーの中間の"Watery"、つまり"水のような"揺らぎと言われます。
複雑な揺らぎの重なりを3つのノブにより操作する、薄味から深い広がりまでさまざまな表情を見せる機体です。
ディメンションコーラスの中では最小クラスのサイズなのも利点。
Laney ( レイニー ) / SPIRAL ARRAY
こちらは4ノブのコーラスですが、セレクターによりアナログ、デジタル、ディメンションの3つのコーラスを選択可能です。 通常のコーラスと同じように使ったり、ディメンションであっても細かなセッティングの調整ができるのが前述の3つにはない魅力です。 また、入力側に"Expression"端子があるなど、前述の2つとは一線を画すハイブリッドストンプボックスです。
BOSS ( ボス ) / MD-500 MODULATION
12種類のモジュレーションを収録したマルチエフェクターです。
モジュレーション専用を名乗る通り、コーラス系のみならずロータリーやトレモロも用意されており、その中の選択肢としてディメンションコーラスも使用可能です。
これ以外にもYamahaやBehringerから幾つか出ているのですが、新品で入手できないことから省略します。
現在Yamahaのディメンションコーラスは中古市場の中でプレミア付きで販売されることが多いようです。
4ノブ、プラスチック筐体のストンプボックスですが、あまり良い評価をされてはいません。
Behringerのディメンションコーラスは中古でもあまり出回らず、大手通販でもそうそう出てこない機種になっています。
写真から分かる限り、チューナー用スイッチをそのままプリセットボタンと使うなど、既存パーツを流用して作ったような部分がありますが、最も安価なDC-2コピーと見なされているようです。
■ 理論編:揺れない理由とコーラスとの違い
完全に説明するには量が多すぎるためざっくりとしか解説できません。
ここでは基礎となる部分をほぼ飛ばし、ディメンションコーラスの解説だけに注力します。
ここまで紹介してきたディメンションコーラスですが、基本的にはコーラスの上位互換と言ってもいい回路を持っています。
なぜならディメンションコーラスはコーラスの基礎回路を2つ以上組み合わせて作られており、片方だけ使ううちは普通の揺れるコーラスとして使えるものなのです。
というわけで、まずはコーラスについて簡単に説明します。
原理についてはWikipediaのコーラス(音響機器)のページとフランジャーのページが詳しいのですが、要するに、「入力された音を2つに分け、片方の音をわずかに遅らせる」ことで揺らぎを得ています。
じつはこれは遅らせる、という所に語弊がある言い方なのですが、コーラス内部では遅延時間は常に変動しています。
遅延時間が一定であれば、それはデチューンまたはディレイとなり、コーラスにはなりませんが、遅延時間が周期的に上下している場合、遅延時間が0に近いうちは原音に近い波形に、遅延時間が延びている間は原音よりも時間方向に拡張され、時間が短縮されているうちは原音よりも圧縮されることになります。
音の波が時間方向に圧縮されるということは、周波数が上がるということ、逆に拡張されるということは、周波数が下がるということになります。
その周波数が上下する音と原音が混ぜられることにより、コーラス特有の揺らぎが得られるのですが、ディメンションコーラスになるとこの揺らぎがもう一つ追加されます。
それは、逆位相のコーラス、とでも言うべき音なのですが、「周波数の上下」だけをグラフ化すると分かりやすくなります。

縦軸を周波数、横軸を時間とします。
紫色の直線は原音、青い波がコーラス音の周波数(グラフ中ではy=sinxとして処理しました)になります。
このコーラス音の逆位相を取ると、赤い波(y=sin(-x)として処理しました)が出てきます。
そして、この青い波と赤い波を合成すると、紫の波になります。
つまり、最終的な音程は揺れず、コーラスのエフェクトはかかりつつも音程のブレがないディメンションコーラスサウンドが得られるというわけです。
もちろん実機では圧縮時間を決定するLFOの波形が乱れていたりといった誤差により完全に揺れないというのは難しいのですが、原理としては、こうして音程の波を打ち消している、というもので説明できます。
参考に音源を作ってみました。
440Hzの正弦波、音程が上下する正弦波を追加したもの、その逆位相も追加したものの3つです。
正弦波+コーラス+逆位相の音があまりにも綺麗に一定の音程になってしまったので意図的に位相をずらし、完全な逆ではなくしています。
正弦波
コーラス音を追加
ディメンションコーラス音
再度ですが、この解説は基礎となる物理的・数学的な部分の大半を飛ばし、コーラスがあることを前提にディメンションコーラスの説明だけを行っています。
もしもっと詳細な解説が欲しい場合は、ディメンションコーラスの原理について調べるか、自作してみることをお勧めします。
ディレイICのPT2399とLFOのXR2206、あとはデュアルオペアンプの反転出力を使えばできますよ。
それでは今回はここまで。
2月中盤-3月序盤を目標に大型記事を組んでいます、お楽しみに。
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