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弦楽器の弓の話 プロローグ「弓に関する雑談とそこから見つけられる課題」

2025-10-01

テーマ:弦楽器

いきなりのお金の画像から。
怪しい「もうかる誘導サイト」ではありませんのでご安心ください。

500万円

貰えるものなら欲しいお金の金額だと思います。もしかするとこれを大金とお感じにならない方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、でも一般的には「大金」ですよね。

500万円

色んなものが買えますよね。200円のたい焼きなら25000尾分です。一日一匹食べてもざっと68年分です。

でも今日はたい焼きやお金の話をしたいわけではありません。

500万円のバイオリン弓

「そんなものがあるんですか?」と思われる方もいらっしゃることでしょう。正確に言えば500万円は推定です。これは私が過去に手にしたことがあるものの中で多分最も高価な弓でした。古いフランス製の名弓でした。
過去にお取引のあったバイオリンの先生がご所有だった弓です。その方は普段は銀行の貸金庫にそれを預けていて、本番で使いたい時に出してくる。そんな代物です。ちょっと持たせてもらっただけですし、実際に値段を伺うなどちょっとできません。

現実には500万円(くらい)の弓は恐らくザラに存在します。それ以上のものも少なくはありません。

筆者私物の弓ケースの中身です。ご安心ください、「良い弓」は入っていません。

身なりを整え、この中に入っているそれらしい古い弓を出して『これ500万するんですが』と落ち着き払った口調で純粋な方におすすめしようものなら、私も詐欺師の仲間入りです。

この画像の弓はドイツ製の量産品、スタンプもない、重い、平凡以下の性能の弓です。

この弓の実際のお値段は?誰もが聞きたいこの質問。
仮に5万円としても、それはこの弓の入手経路を考えると「高すぎる」値付けという事になります。
何故ならこの弓は中古で購入したバイオリンについてきた弓だからです。つまり元値は限りなくタダに近い金額、と言えます。

ではこの弓に2000円の値段をつけるのはどうでしょう。
多分大多数の人が、それは安い、だってドイツ製でしょ?とお感じになる事でしょう。

でもスタンプもないこの弓はどうやってドイツ製、と見分けるの?と思われた方、良いところに気が付きました。実はブランド名のスタンプ、というのは押されていませんが、スティックのフロッグ取り付け面、スクリューの近くに「Germany」スタンプがあるのです。

拡大画像はこちら

こうしたNo Brand弓が、世界中様々なブランドで、様々なルートで流通していったわけです。恐らく西ドイツ製ではないかと思いますが、確証はありません。

この20年で、リサイクルショップ、ネットオークション、フリマサイトは市場が成熟してそうした中古品の売買に関する情報も個人レベルで一般化しました。
こうした中古の商品を事業行為として扱うには本来古物商の免許が必要になりますが、ネットオークションやフリマサイトは制限がきわめてゆるいのが実情です。
全てが行き当たりばったり、何のルールも存在しない古物の世界は傍観するのがもっとも安全かもしれません。

楽器と弓の組み合わせ、相性とは?あの日出会った「あれ?…これは?」な弓

さて、俗っぽいお金の話をした後は少し夢の時間です。夢と言っても実話ですし、展開がうまく運んだから夢のように感じた話、という意味です。
弦楽器の弓は単独では決して何の音も出せません。楽器と組み合わせて、音の良し悪し、好き嫌いを奏者の方、またはその奏者のアドバイザーが決定することになります。

今から10年ほど前、ある古い楽器を入手する機会がありました。年代的には100年ほど前のアメリカの会社が販売したであろうと思われる、イタリア風の名前のブランドラベルが貼ってある、恐らく東欧製の楽器でした。コンディションも音も悪くない楽器で、これをとあるバイオリン教室の生徒さん用に一式そろえることになりました。

自宅のハードディスクを探したらその楽器の写真が残っていました。

Francesco Viotoni 1925

さあこうなると問題は、弓です。

トータルで伺ったご予算の範囲で可能な限りいい弓を選びたい。これはその生徒さん側も、私も考えは一緒です。でも生徒さんの方は私にその役目を託してくださいます。何とか応えたい、と思ったわけです。

問屋さんから新作の弓を複数、10本くらいお借りしてその楽器に合わせてみます。Seifert, Finkel、Otto Durschmittなどのドイツ製、スイス製などのメジャーな弓ブランドから選んでいくのですが、この「楽器に合わせて弓を選ぶ作業」というのは文字通りの「作業」で、思いのほか冷静に段取りを決めて音を出していかないと、ただのお遊びになってしまいます。

一本また一本、どれもこれもそれなりにするする弓ですから、まずまずの音でどれも鳴ってくれます。
その弓の中で一本。
「あれ?….これは?」と思う弓がありました。

弓が自分で動いて、勝手に音を出してくれる。

そんな不思議な感覚でした。

私がどうかしてしまったのかもしれません。単なる偶然に過ぎないのかもしれませんが、その組み合わせで先生に見てもらったところ、とてもいいという評価をいただきました。
試しにその「あれ?の弓」の他にも、その弓よりももう少し値の張る弓も持参したのですが結果はやはり「あれ?の弓」が最適という事になり、その楽器と弓の組み合わせでご用意したわけです。

重量が62gくらいあり少し重い弓でしたが、古い楽器を鳴らすのには適した重さだったという事なのでしょう。
私の浅い経験の範囲での話ですが、この一件が楽器と弓の組み合わせで、過去最高の瞬間だった、と思います。自分が心から「良い」と思う楽器の音が出る瞬間に立ち会えるのは本当に心地良いものです。

でもこういう瞬間は確率の問題で、ある程度の数を見てきているから出会えるものではあります。
一般の方が、いきなりショッピングモールやお茶の水に展開する有名楽器店に出かけて行って、自力で出会える瞬間ではないと思います。

楽器をご用意した先の生徒さんは当時まだ小学校6年生。恐らくあの楽器の良さに気づくのは今の年齢が22歳だとしても、もう少し先かもしれません。


雑談は以上です。この雑談から、ブログで取り上げる課題を拾っていってみましょう。

① 弓についての基本的な知識を持とう
弓の仕組み、成り立ちなど必要な知識は持つに越したことはありません。
② 値段いろいろ どうして?
流通の仕組み 安心の弓選び
③ 高い弓 安い弓 何が違うの?
確率の問題 フランスの工房を訪ねたり、北京の楽器展示会での光景
④ 楽器との相性 何それ?
今回お話したエピソードをもう少し専門的に解説
⑤ PLAYTECHの弓 大丈夫?
気になりますよね~
PLAYTECH 弓 一覧
⑥ SUGITO ARCHET SUZUKI どれがいい?
これも気になる~

このように「知りたい」を書き出すと意外とたくさんの項目になってきます。
「弓の話」、と一言でタイトルをつけてしまうと本当に「雲をつかむ」雑談になってしまいます。今回のプロローグなどはつれづれオジサンブログの典型ではあります。

その回ごとに話題をある程度絞って、このブログを読み終える頃には少し弦楽器の弓について、役立つ知識が備わっているように考えながら書いていきたいと思います。
よろしくお付き合いください。

これは2024年に書いた弓のブログです。
タイトルは「弦楽器の音は弓で決まる! のか?!」
よろしければご一読ください。

技術 / 上野 眞文

ヴァイオリンの出荷検品を担当しています。
Jeff Beck(全作)からDavid Oistrakhのブラームス、Dinu Lipattiのショパン Jacqueline du Préのドボコンまで、音楽が好きです。
1979年製のTokai LS-80を当時から,Guyatone FLIP600F(全段Tube)を 1986年からずっと愛用しています。

 
 
 
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