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未使用4万円で購入した米国製FENDER【前編】

2025-03-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

1970年代までの舶来エレキギターといえばGibsonかFenderだった。そして学生の手に届くギターではなく、地方の楽器店ではほぼ全機種ショーウインドーに飾られていた。当然易々と試奏できないのが普通だった。

少なくとも1980年代初頭まではそんな感じだった。
都内の大きな楽器店に行けば、在庫の豊富な店もあり試奏出来たが、学生服で試奏を頼むと店員が一挙手一投足を『監視』して側にいたのを思い出す。

1982年にFender Japanが設立されてから、次第に学生にも品質の良いギターが手に入るようになった。ギターだけでなくエフェクターなども複数のメーカーが少しづつだが台頭してきて、機材の選択肢が増してきた。

ただしハンドメイド・エフェクターとかブティック系エフェクターはずっと後の話だ。

ギター雑誌は『ヤングギター』と、80年代に入って創刊した『ギターマガジン』の二本柱。前者はフォークギターも扱っていたし、後者は中級上級者向けの記事が多く、文字も小さくびっしりと埋まっていた。

『ヤングギター』は、1983年以降くらいから、HEAVY METALの記事が大半になり、表紙にも速弾きを得意とするギタリストが取り上げられた。今と違って新作アルバムを発表したり、来日公演を行った『旬のギターヒーロー』が必ず表紙を飾っていた。


80年代中盤に入り、Fender Japanはハムバッカー搭載のギターなども積極的に発表し始めた。

価格も手頃で、SQUIERが80年代日本製Fenderとして際立った。この時期のSQUIERは完成度が高く、エントリーモデルとしても、充分役割を果たした。

FENDER JAPAN 1984年カタログ。80年代らしいカラーのスクワイアーストラト。

一方、米国製Fenderは83年にエリートシリーズを発表し、CBS Fenderの価格が頂点に達した時期でもある。

特に航空機対応のボイジャーケースに入ったエリートシリーズの上級機種は高値の花であったし、もはやプロ専用としか思えなかった。

エリートシリーズの上級機種に付属していたボイシャーケース。街ではおろか楽器店でも見かけたことは一度もなかった。バタフライハッチのフライトケース仕様で、現在上位機種に付属するツイード・ケースより頑丈なことが写真からも容易にわかる。(エリートシリーズ カタログより。)

現在のFender CustomShopのマスタービルダークラスは一般ユーザーが手にするギターとは思えないが、当時のCBS Fenderが発表するギターはこれでもか!と変化してゆく仕様、価格は、『TOO MUCH !』との感じがしたのは私だけだろうか?


さて。
本題のギターを説明する前に時代背景を述べた。ここからが4万円の米国製Fenderの話だ。

1985年春。ちょうど40年前の事だが鮮明に記憶している。

いつものように楽器店に立ち寄った。ギターとベースが50本程とスタジオを併設した行きつけのお気に入りのお店だった。店に行く度に新しい事を店員さんに教えて貰った。

透明なガラスのドアを開けると左に黒いハードケースが3、4個無造作に立たせて置いてある。
「?」と思い、後にGibsonのプレミアム・ディーラーとして、ギターマガジンの裏表紙に名前が何度も載った凄腕店員のNさんに聞くと

「4万円でFender USAのギターが入荷したよ。」と言う。

「開けていい?」

と言うと、ゴーサインが出たので数ケースの中から一つ開けることにした。

70年代後半よりFenderで用いられたモールドケースより簡素で、留め具もケースから延長した一体成型のプラスチック製。
ちょうど同時期に作られたBOSSのコンパクトエフェクターが6個入るエフェクターボードの留め具と似ていた。(当時は今より耐久性の低い留め具であった。現在は改良されている。)

BOSS ( ボス ) / BCB-90X

BOSS ( ボス ) / BCB-90X

「あっカッコ良い!」

ケースを開けた第一印象。
黒いケースに入ったギターは精悍なブラックボディであった。ケースは小振りながら持ち上げると結構重い。
ネックはメイプル。スモールヘッドで値段以上に造りの良さか一見してわかった。

「これで4万?なんで?」Nさんに尋ねる。

曰く、ボディ下部塗装周辺にクラックがわずかに入り、新品で売れないとの事。また2年前に生産が終了したモデルだった。
ギター歴3年の私が知っているモデルのわけがない。

「手にとって良い?」

相変わらずUSA製に対して生意気な学生である。
一通り状態を把握した。
ルックス、ネックシェイプ共に申し分ない。
さらにリクエストして、アンプで音を出せる許可が出たので弾いてみた。

パワフル。

悪くない。特にコードを刻むと音のバランスが良い。途中で電話が鳴って
「ちょっと音下げて!」
と言われるまでかなりの音量で試した。

一見、ストラトとあまり変わらないルックス。黒いケースに入っていたのでボディラインが目立たなかった。ムスタングほど個性的ではないし、ヘッドはTHE STRATの原型となったトラディショナルなスモールヘッド。

加えてネックの握り具合が未熟な腕の私でも抜群に良かった。レギュラースケールでフレットもきちんと打たれていたので、品質はストラトと変わらないと一瞬でわかった。

木目も綺麗。
しかも、バーズアイメイプル。(ただし当時はここに価値を見いだせなかった)

もう一度言うが40,000円。消費税はまだなかったが少し高い。しばらく考えた。

ふたの無い仕切りのある小物入れに、ストラトキャスターより大きな英文取扱説明書が入っていて、国産エレキを買うならこちらがお得と、私の思考回路は判断した。

今でいうアウトレット品ではあったが食指が動いた。なんと言っても高校生には憧れロゴ『FENDER MADE IN USA』とケースには大きくエンボス加工されている。

「Nさん、一週間 取り置きしてくれる?」

Nさんは首を縦にふった。

自宅に帰り、銀行通帳とありったけの現金を引き出しから取り出し計算した。

少し足りない。

母に言って小遣いを一ヶ月前借りして、ギリギリ何とか工面出来たが、月の始め。
その月は昼食も自宅からの弁当で交遊費もほとんど無く、金銭出納帳は白紙に近かった。

とりあえず一週間以内にギターは我が家に来た。


そのギター名は?

Fender LEAD1。メイプルネック、ブラックボディ。正規価格は165,000円

紛れもない米国製Fender。

1979年に生産され、1983年に消えたミドルクラスのエレキギターである。当初、LEAD1、LEAD2が発表されて、後にLEAD3が発表された。『1』はワンハムバッカーでシングルコイルにもなる。『2』は二つのシングルコイル。後にリリースされた『3』はハムバッカーが2発の仕様であった。

スティーブ・モーズを最初のエンドーサーとして迎え、CARSのエリオット・イーストンがカスタマイズされたLEAD2を使用している写真が1982年カタログに使われた。

70年代から80年代に活躍したザ・カーズのエリオット・イーストン。LEAD 2を愛用。スイッチが一つ多いマッチングヘッドの特注品。(1982年カタログより。)

中級クラスのギターであったがプロユースも考慮したモデルであったと考えられる。

LEAD1 165,000円のプライスリスト。昭和56年10月1日現在の価格表。

登場の背景にはストラトやテレキャスより手頃に入手でき、かつ高品質なものを市場に送りたかった事情がある。

発売当時1979年の国内ギターラインナップは上記のエリートシリーズやアメリカン・ビンテージシリーズはまだ発売されていない。
エレキギターのラインナップは、テレキャスター(カスタム、デラックス)、ストラトキャスター、ミュージックマスター、ムスタングである。

以上の機種から見て、ロックに適するギターを開発する必要性があったわけだ。その証拠にスティーブモーズを起用したFenderの広告には『ROCK'N'ROLL』という言葉が5回も使用されている。

CBS Fender 1979年 LEAD1 LEAD2の発売広告。ギタリストはディーブパープルに長年在籍したスティーブ・モーズ。

LEADシリーズは音楽シーンがROCKに移行するCBS Fenderからの一つの回答であったのだ。

次回LEADシリーズの具体的な仕様とサウンド、サウンドハウスでも取り扱っている現行品LEAD3を取り上げたい。


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Realize

リッチーブラックモアのアルバム『Diffcult to Cure』の『第9』アレンジを聴いてファンになり、『Spotlight Kid』を聴いてストラトキャスターに目覚める。以後様々なストラトを手にし、20年以上ストラトオンリーで毎月ライブ活動を行っている。
ストラトに対するこだわりは強く、『ギターマガジン』、米国誌『VINTAGE GUITAR MAGAZINE』に所有ストラトが掲載されたことがある。翻訳書として、2002年Fender Accessories Catalogue等に掲載されている『The Fender Stratocaster』第4版がある。
ストラトへの改良は外見からみたら何処を変えたかわからないのがポリシーである。

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