オーディオ初心者によるモノラルカートリッジ 体感白書
近年のアナログ・レコード・ブームで、ビートルズやローリング・ストーンズを始めとする1960年代ロックのレコードにも年々注目が集まっています。
2017年にも多くの60年代ロック名盤の再発売がありましたが、その中でも私が特に目を惹かれたのが、ビーチ・ボーイズの傑作アルバム「ペット・サウンズ」のモノラル再発LPレコード。元々33回転で1枚のLPだったのを、45回転、200グラムの重量盤2枚組にしたという贅沢なものです。ビーチ・ボーイズのみならず、1960年代にリリースされた多くのLPレコードは、主に英米においてはモノラル盤とステレオ盤の両方が発売されていました。
海外では特に60年代中頃まで、モノラル盤の流通が主流だったという話を聞きます(シングル盤も、60年代はほとんどがモノラル盤のみのリリースと記憶しています)。
知人からは「モノラルのレコードはモノラル・カートリッジで聴くのが一番いい」と何度も力説されていました。
レコード集めは長年やってきましたが、オーディオに関してはビギナーな私。
「モノラル・カートリッジでモノラル盤レコードを再生したい」という衝動に駆られ、インターネットを見ていたときに出会ったのがこちら。
audio technica (オーディオテクニカ) / AT-MONO3/LP
オーディオテクニカのモノラル・カートリッジ「AT-MONO3/LP」です。
取り付け用のネジとドライバーもついています!
もし付属のネジの長さがお持ちのヘッドシェルと合わない場合は、山本音響のBT-2みたいな数種類のサイズのネジが入ったセットもあります。
YAMAMOTO ONKYOH (ヤマモトオンキョウコウゲイ) / BT-2
取り付け時にはカートリッジ側に赤白緑青とそれぞれ色がついているため、迷わず装着できます。

モノラル・カートリッジを付けたヘッドシェルをアームへセット。針圧を説明書通りに合わせます。

今回リスニングに使用したオーディオです。
カードリッジを持参し、リサイクルショップで動作チェックのうえ購入。
アンプはパイオニアSA6300、レコード・プレーヤーはテクニクスSL1900、スピーカーはデノンSC-MG33という50Wの小型スピーカー。昭和感に溢れた見た目に惹かれて選びました。
総額は5,000円。
それでは家族持ちのささやかなお小遣いで揃えたオーディオと、モノラル・カートリッジAT-MONO/LPとの組み合わせで、どれだけの音が出るのかを試してみましょう!!

まずはシングル盤、ビートルズ「抱きしめたい」(写真左側)から。
この曲になじみのある方も多い事でしょう。こちらはイギリスのオリジナル盤。つまり発表当時に工場でプレスされ、まだマスター・テープが新しい状態の時期にカッティングされていた盤です。音がいいという定評があり、オリジナル盤と称される当時に生産された古いレコードは、アーティストを問わず人気が高いようです。こう書くと「さぞや高額なのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、この曲のように大ヒットしたレコードはオリジナル盤でも財布にやさしいものが多いです。私もまずまずの状態ながら1,000円ちょっとで購入できました。
いざ再生してみると、そんなレコードうんちくなどどうでもよくなる位の音が飛び出てきます。迫力あふれるギターやベースに加えて、ボーカルを引き立てるリバーブ、リンゴ・スターの人間味に溢れたドラミングは、ハイハットの手癖まで感じ取る事ができます。
お次は女性ボーカルのレコードで、日本ではレナウン娘でおなじみだったフランスの歌姫シルビー・バルタンの大ヒット曲「あなたのとりこ」(写真右側)。こちらも中古レコード屋でよく見かける、フランス製オリジナル盤4曲入りEPです。映画「ウォーター・ボーイズ」でもお馴染みですね。スピーカーから出てくるストリングスの響きがより美しく響くのと同時に、今まであまり意識して聴いてなかった、ベースのサウンドがサーフ・ミュージックっぽくも聴こえて、この曲の新たな魅力を発見しました。

次は33回転のLPレコードに変えます。ジョージ・マーティンがビートルズに出会う前、1961年にプロデュースした英国トラッド・ジャズ・バンド、テンペラス・セブンのアルバムを英国オリジナル・モノラル盤で。今まで、このアルバムはお酒やお茶を飲む時のBGMとして軽く親しんできた私。しかし、今回このカートリッジで聴いてみるとブラス楽器の響きがものすごく美しく、臨場感溢れるサウンド。どんどんレコードの音の世界に引き込まれていきます。
そして最後に、私がモノラル・カートリッジを購入するきっかけとなった、ビーチ・ボーイズ「ペット・サウンズ」の45回転、200グラム盤を聴いてみました。33回転のアメリカ・オリジナルのモノラル盤も聴きたいところですが、綺麗な状態だと数万円するそうです。なので、今回の再発盤は実に嬉しいリリース。
さて、期待を胸にしつつ針を降ろしてみます…、一曲目の歌いだしが始まった瞬間から言葉を失います。今までに何回も何回も聴いてきたこのアルバム。今回のこのカートリッジと45回転盤の組み合わせで再生した音は、本当に筆舌に尽くしがたい世界です。ボーカルは勿論、ドラムの各パーツ、パーカッション、どの音もほかの音に埋もれる事なく、存在感を示してくれる素晴らしい音質です。部屋のどこに座っても、立っていても、今まで味わった事もない壮大な「ペット・サウンズ」が広がってきます。何度も聴いてしまいました。
さて、敷居が高いと思っていたモノラル・カートリッジを初めて体感した私。それほど高級なオーディオ・システムを揃えなくても、これだけの音質を楽しめるというのがわかったのは大きな収穫でした。
これからも、リード線を交換したり、スピーカー・ケーブルを変えてみたりとゆっくり音質向上を楽しみながら、このモノラル・カートリッジAT-MONO/LPとヘッドシェルTT HEADSHELLで、アナログライフを楽しみたいと思っています。
モノラル・カートリッジ末体験の方、AT-MONO/LPを使って、お持ちのモノラル・レコードの魅力を再発見してみてはいかがでしょうか。