カバー・アートから聴こえてくる音楽
マーカス・キーフ(キース・マクミラン)
1970年代、イギリスを代表する3大アルバム・ジャケット・デザイナーといえば、ヒプノシス、ロジャー・ディーンにこのキーフでしょう。彼の作品が他のデザイナーに比べ、マイナー感があるのは、活躍の期間が短かったのと、その独特な作風がどちらかというとアート寄りだったことに起因していると思います。キーフは70年代初期に、写真家としてアルバム・ジャケットを数多く手がけました。作品の特徴は、独特な色味と不思議な構図(キャラクターのポージングや小道具など)です。写真の色味を変化させて、この世のものとは思えない印象を与え、被写体にも不思議なポーズや衣装を着せることによって、さらに摩訶不思議感をアップさせているのが特徴です。今でこそ、コンピュータを使って色味の変化は自由に作れるものの、半世紀近く前の時代においては、現像段階も実験に近い作業だったのではないでしょうか?それらの「色彩」を自由に扱えたのが、彼の凄い才能でした。

デビッド・ボウイ『世界を売った男』

ブラック・サバス『黒い安息日』

ニルヴァーナ『局部麻酔』

アフィニティー『アフィニティー』

ウォーホース『ウォーホース』
これらの作品を見ていただくと、それぞれの作品が実に味のあるトーンで作られていることがわかります。特に「アフィニティー」や「ウォーホース」に見られる霧のかかったような質感は赤外線フィルムを使用した作品として、彼にしか表せない作品と言えます。キーフがアルバムジャケットのフォトグラファーとして活躍した時期は、70年代の初期からたった3~4年。ヴァーティゴ・レーベルやネオンというややマイナーなレーベルのアーティストが多かったせいか、アーティストの仕事は単発で終わってしまうものも多かったようです。
ケイト・ブッシュ「嵐が丘」
1978年になり、ケイト・ブッシュのデビュー作「嵐が丘」のビデオ・クリップを依頼されたことがきっかけとなり、映像ディレクターに転向。カメラからビデオカメラへと、扱うハードは変わり、MTVの流行もありキーフの仕事はさらに大きな舞台へと変化していきました。「Keefco」という映像製作会社を設立し、その後のケイト・ブッシュのプロモーション・ビデオ「少年の瞳を持った男」「ハンマーホラー」「ワウ」「呼吸」「バブーシュカ」「アーミー・ドリーマー」を始め、ポール・マッカートニー&スティーヴィー・ワンダー「エボニー&アイボリー」、シンプル・マインズ「サンクティファイ・ユアセルフ」、ブロンディ「デニスに夢中」『デトロイト442』「今が最高」「恋のピクチャー」「ラブチェアー」、バナナラマ「ナ・ナ・ヘイ・ヘイ・キス・ヒム・グッドバイ」などを次々に手がけていきます。その他にも、コンサート・ドキュメンタリー・ビデオ制作まで活動の範囲を拡げ、キッス、ステイタス・クォー、カルチャー・クラブ等のライブ・ビデオを記録しています。それらの作品には、70年代初頭に見られる実験的な画像処理は見当たりません。唯一、以下の映像のエンディング間際の処理が往年のキーフを彷彿させてくれるので紹介しておきます。
ケイト・ブッシュ「呼吸」